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この国の「右傾化」が持つ意味を総合的・多角的に分析した良書~塚田穂高編著「徹底検証 日本の右傾化」 (筑摩選書)

これは例の事件以降統一教会問題がクローズアップされる中で、俄然注目を浴びている著作。なので私も読んでみた。2017年3月刊。
編著の塚田氏は宗教社会学者だが、ここでは「はじめに・おわりに・あとがき」と最終章を執筆しているだけで編者としての役割が大きい。塚田氏がここで「日本の右傾化」を考察する上で「多面的な事態を多角的に捉える」ために呼びかけ、それに応じて寄稿しているのが社会学・政治学・歴史学など各分野の研究者、ジャーナリスト、編集者など多彩な論陣計20人。寄稿にあたり必ずしも右傾化を前提とする条件付けもされていないので、中には竹中佳彦筑波大教授のように、詳細なデータ分析の結果「安倍首相(当時)の支持度が高いのは、安全保障政策や憲法改正などより経済政策が高く評価されているから」と「現時点で有権者の意識が『右傾化』していると断定できる証拠はない」と結論付ける論者もいて、それはそれで一定の理はある。
しかし、ほとんどの論者はここ20~30年間あたりのこの国の「右傾化」に危惧を抱いている。しかもこれは今から5年前の論考集である。この国の現況はさらに深刻に、『右傾化』という以上の惨憺たる悪化ぶりだと言っていいだろう。

以下、編者が設定したテーマ区分に沿って・・・
Ⅰ<壊れる社会>新自由主義・レイシズム・ヘイトスピーチ~ジャーナリスト・斎藤貴男氏が取材活動から感じる90年代半ばの時代の変調、その後のメディアの変節、社会心理学者・高史明氏のネット社会(2ちゃんねる&ツイッターなど)でのレイシズム言説分析から導き出される「集団的ナルシシズム」
Ⅱ<政治と市民>右傾化はどこで起こっているか~「在特会」のような差別排外主義勢力の台頭とそれへの市民の対抗。政治が右傾化を進め市民社会がブレーキをかける構造。自民党内での派閥の衰退と右向きベクトルの強化現象。
Ⅲ<国家と教育>強まる統制・侵蝕される個人~2006年12月の「教育基本法改定」が持つ大きな意味。「個人の尊重」から「国や郷土を愛する」教育への転換。道徳の教科化、教育や家庭への国家の介入。
Ⅳ<<家族と女性>上からの押し付け・連動する草の根~改憲勢力がこだわる憲法24条(婚姻・配偶者規定)改定による「家族・共同」概念の教化、自民党改憲案に呼応する草の根「家族主義運動」
Ⅴ<言論と報道>自己賛美と憎悪の連鎖に向き合う~ここでは歴史学者・能川元一氏による「WGIP」に関する論考が特に印象的。"WGIP(War Guilt Information Program)"とは、戦後GHQが「日本国民を洗脳するために組まれた」と言われる「ほぼ陰謀論」のプログラム。しかし、これがそれなりに権威ある大学教授などによって紹介され続けたことで、この国のネット空間ではかなりの市民権を得ている。これとか「東京裁判否定史観」から導き出されるのが、「日本は悪くなかった・アジア解放のために戦った・戦後デモクラシーはGHQによる洗脳」という、ほぼ極右まっしぐらな歴史認識。今、ネットで歴史認識問題関連をググると、このWGIPに依拠したような情報・サイトが溢れていることがよく分かる。ウィキペディアにも、あたかもこれが「事実」であるかのような記述。先日も、日本を代表する右翼団体「一水会」が、このWGIPに絡めたツイートを発していたのを見た。
Ⅵ<蠢動する宗教>見えにくい実態・問われる政治への関与~この著作が今注目されているのは、まさにこのパートだろう。鈴木エイト氏によって統一教会=勝共連合について書かれているが、私には、神道政治連盟が戦後すぐから連綿と追求してきた「不朽の国体(天皇を頂点とした国のかたち)」、そこでの伊勢神宮の役割、選挙での集票バーター取引関係からの公明党(創価学会)の自民党「内棲化」現象、幸福の科学(幸福実現党)の急速な右傾化、それでいて日本の戦後新興宗教は軒並み停滞・衰退している現実~などのほうが興味深かった。

私は、穂高氏が言う「文化宗教あるいは個人宗教(特定の教団に依拠しない漠とした宗教観)」の右傾化・国家主義化が「普通の日本人」にもたらす影響が最も警戒すべきものではないかと思う。茫漠としたウヨ~2022年現在、この国のマジョリティがまさにこれではないのか?


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