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現代社会の課題を、フランスを軸に考える好書~「差別と資本主義:レイシズム・キャンセルカルチャー・ジェンダー不平等」


2023年6月刊。これはフランスの出版社が昨年出したブックレットシリーズから4冊を選んで、その翻訳を1冊にまとめたもの。フランスなどの現状と課題がよく分かる著作。以下、それぞれの論考について・・・

Ⅰトマ・ピケティ「人種差別の測定と差別の解消」~「人種」に基づく差別が今も横行する中、実際のフランス人の人種構成を調べると、今や多様な出身地からの移民が結婚などで様々に混ざり合い、特定の人種に区分する意味が希薄になっている現実が提示される。アイデンティティを固定的に捉えるのではなく柔軟なシステムで行き詰まりから脱すること。また教育格差について、富裕層が暮らす地区と貧困層が暮らす地区での教育予算投下の明らかな格差。ここ10~20年でそれはさらに拡がっている。その是正が急務。

Ⅱローラ・ミュラ「キャンセルカルチャー:誰が何をキャンセルするのか」~筆者はUCLA欧州言語・越境文化学教授。ともすると右派から揶揄の意を込めた言われ方もする「ウォーク・キャンセルカルチャー」といった概念の意味・意義の解説。米国で南北戦争時の「南軍の英雄」像が引き倒されたり、かつてアフリカ・コンゴでの残虐な植民地支配を推進したベルギー・レオポルド2世の銅像が撤去されたり。こうした運動・流れが「かつての支配構造」の再考と共に、現在の差別構造を是正するための意識改革に繋がることの重要性。

Ⅲセシル・アルデュイ「ゼムールの言語」~筆者はスタンフォード大学フランス文学教授。エリック・ゼムールは今や世界的にも著名な極右排外主義の作家・政治家だが、2022年仏大統領選に出馬したことでその過激な言論が一層注目された。明確な人種差別(白人至上主義)・父権主義崇拝・闘争と支配の観念~絵に描いたような「ウヨ」言論人だが、その言語は日本の百田尚樹そっくりでもある。こういう言説が社会に浸透していくことの危険性。筆者が言うように言語が「思考の道具」ではなく、「反民主主義的な倒錯の道具」に成り下がらないために。

Ⅳリュディヴィーヌ・バンティニ「資本の野蛮化」~筆者はルーアン大学所属の歴史研究者。資本主義とは本来利己的でそこに道徳はない。それが新自由主義的暴走の果てにより過激化した現状を様々に描き出す。そこからの脱出として提言される「コモン」の復活としての「コミュニズム」~パリ・コミューンのように。筆者が言うように「健康・幸福は共有の財産」であり「所有で地球が犠牲となる」。ここでの彼女(だと思う)の主張は斎藤幸平さんそっくりである。こういう人が世界中でもっと増えればいい~(*^^*)

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