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僕と言い始めた夫

夫が急に「僕」と言い始めた。

夫はフランス人で日本語はカタコト。レベルは中の下くらい。でも単語をたくさん知っているおかげで簡単な会話なら何となく成立する。

そんな夫は当初一人称として「私」を使っていた。

大人になってから習得した日本語として、「私」は正しい選択だと思う。チャラチャラ友達と遊んでばかりではなく、真面目な付き合いもある大人社会で「私」は幅広く使い勝手の良い単語だ。


実は私は「僕」という言葉があまり好きではなかった。

幼い頃、普段家で「ワシ」を使っていた父がよそ行きの場面で「僕」という一人称と共にエセ標準語を使って話しているのを聞いたことがあるからだ。

地域的なものもあるのだろうが、私の周りでは「俺」や「ワシ」が多かった気がする。もちろん「僕」を使う男子もいたが、大人の男性が「僕」を使うのを聞いたのは確かその時が始めてだった。しかも関西人が蕁麻疹級に苦手なエセ標準語(東京弁とも言う)と共に!

と、とーちゃん!どないしたん?!何があったんや?!

幼かった私は目を丸くして、豹変した父を見上げていた。

「僕」って。。。誰や、誰やねん。

昭和の当時、テレビで見たことがある宇宙人の話が頭をよぎる。家族の誰かが宇宙人のなりすましと入れ替わって普通に生活している、あのとてつもなく怖い話。

と、とーちゃん。。。まさか。。。宇宙人やったんか?


それからしばらくの間、父に話しかけられても疑念が邪魔をしてうまく会話が出来なかった。だって宇宙人と何を話したらええんか分からへんねんもん。ヒョ〜!!


大人になった今では誰がどんな一人称を使おうが、その人の自由で好きに使えばいいと思っている。地元を出て長らく経つが、今では日本人の男性が使う一人称として多く耳にするのは「僕」だ。だから自分の幼少期の体験がどんなものであれ、「僕」を受け入れて生活している。

でも何だろう。自分に一番近い存在で気を抜いて一緒にいられる夫が急に「僕」を使い始めると、当時の記憶が、父が宇宙人かもしれないと震え上がったあの記憶がギュインッと舞い戻ってくる。

まさかお前も宇宙人?んなわけないけど、でもやっぱり背中がムズムズするからやめてくれないかな。


それにしても何で急に「僕」と言い始めたのだろうか?

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