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尾道空き家再生プロジェクトの活動に学ぶ 1

 私が事務局を務める特定非営利活動法人かみじま町空き家よくし隊の本年度の活動は、空き家の改修と上島町への移住体験ツアーを組み合わせたものとなっています。移住体験ツアーでは、1日目に尾道のNPO法人尾道空き家再生プロジェクト(以下、空きP)の各理事にお願いした講演会/セミナーを実施しています。講演会には、移住体験ツアーの参加者だけでなく、どなたでもご参加いただけます。2日目にツアーの参加者には、改修中の空き家 において、DIYセミナーとして実際の改修作業を体験していただきます。私が空きPの各理事に講演をお願いしたのは、その活動が今後の上島町における空き家利活用事業において大いに参考になると考えたからです。誰より私自身が、その活動から学びたいという気持ちがありました。

 講演会/移住体験ツアーは、①10月14日から15日、②11月25日から26日、③来年1月20日から21日の全3回です。先週末、第1回を開催しました。第1回の講演会の講師を務めていただいたのは、空きP理事で、一級建築士、尾道市立大学非常勤講師も務める渡邉義孝氏でした。タイトルは「建築の再生とまちづくり ~尾道・台湾の事例から」。この記事では、この初回講演会の内容の要旨を以下で、私なりにまとめてご紹介させていただきます。ちなみに次回以降の講演会(空き家再生を学ぶ3回セミナー)の講師とタイトルは、②空きP専務理事・新田悟朗氏「NPOによる建物再生の手法 ~市民の手による建築リノベーション」、③空きP代表理事・豊田雅子氏「いまある空き家が尾道の宝 ~空きPの15年をふり返って」です。

 空きPの活動の目的は「旧い建物を残す」ということです。ただ残すのではなく、建物の新しい価値を創出して建物を活用しています。意匠/デザインなど、残すべきところは残しますが、用途は現代の需要に合わせて変えていきます。建物の復原の際にも、元の素材や工法から新しいものに変えることもあります。特に貴重な建築物については、できる限り「有形文化財」として登録されることを目指します。「文化財」として登録を目指す建物のおおよその目安としては、①築50年以上が経過している、②創建時の姿をとどめている(特に外観において)、③意匠、使用されている建築技術、その建物の歴史などが学術的な価値を保有している、などがあります。
 空きPが手掛けてきた主な建築物の紹介がありました。①ガウディハウス。最初の再生物件であり、「有形文化財」として登録されています。②北村洋品店。空きPの事務所としても使用されています。③三軒家アパートメント。部屋ごとに店舗として間貸しされています。④シェアハウス「うろろじ」。元医院と民家が一体となった建物で、主に若い移住者向けのシェアハウスとなっています。⑤あなごのねどこ。商店街にあるゲストハウスとして活用されています。⑥みはらし亭。山手にある元別荘で、こちらもゲストハウスとして使われています。⑦松翠園・大広間。駅裏にある山手の旅館の大広間で、イベントスペースなどとして貸し出されます。これらの直営の建物から得られる収入が、空きPの収益の大きな柱となっており、雇用も生んでいます。

 空きPは2009年より尾道市から空き家バンク運営の業務委託を受けています。尾道市内には他の地域にも空き家バンクがいくつかありますが、空きPの担当地域は主に中心市街地の山手側(斜面地)です。特に建築基準法により、いったん壊してしまうと再建できない制約を受けた地域・建物(いわゆる「わけあり物件」)を扱います。これは、不動産業の民業圧迫とならないようにするためです。これまでに扱た物件の数は170軒以上となりました。空きPの空き家バンク制度の特徴は、物件情報をインターネットなどで公開せずクローズドにしている点です。海外の利用者であっても、一度は尾道で開催される空き家相談会に来場しないと、情報を閲覧するパスワードを受け取ることができません。そしてそのクローズドな物件情報には、空き代表(豊田雅子氏)の建物への「愛」に溢れた物件説明が付いています。空き家相談会では、カルタ形式の「尾道暮らしの手引き」と、空きPによる引っ越し時や改修時のサポートメニューを渡しています。
 空きPがこれまでに尾道の斜面地にある、現代の車中心となった地方での暮らしからすれば不便と感じることも多い空き家を再生させて移住希望者につないできたことによって、多くの若者がその地域に移住し、そこで様々な商売を始めています。特に若者にとって魅力的な店舗が増えることによって、地域にさらなる移住者を呼び込んでいます。ただ、建物の魅力は、それを再評価して言語化する必要があります。そのため、定期的に「建築塾」というツアーを開催して、建物や地域の魅力をわかりやすく伝えています。現在とは違う生活や価値観を内に含んだ空き家は、これからの地域の展開を惹起する力を秘めた「地域の宝」であると言えます。

 講師の渡邉氏は台湾の建物に惹かれて何度も通い、スケッチしてきました(渡邉氏は尾道でも多くのスケッチを描いており、尾道で「建築スケッチ旅」というツアーの引率も行っています)。特に日本による植民地時代に建てられた建物(日式建築)に焦点を当てた書籍『台湾日式建築紀行』をKADOKAWAより2022年に出版しています。台湾では民主化後に日式建築の再発見が起こり、その保存運動が起きています。台湾各地で、元工場や元倉庫だった建物をリノベートしてアートスペースや劇場、コンサート会場、商業区画などとして活用する「文創(文化創意)」の建物や区画が生まれています。日式建築の見所としては、亭仔脚(アーケード)、タイル(日本の技術と南国や福建省の意匠が融合している)、ファザードのカルトゥーシュ(装飾枠飾り)などがあります。

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