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緑のふるさと協力隊を経験して~Voice8

「ゆっくりいけばいい」

焦っていた、自分の心。

見失っていた、本当の気持ち。

大学生の私は将来に迷い、周りに流され生きてきました。
しかし緑のふるさと協力隊での活動を通して、自分の素直な想いや歩んでいきたい道に気づくことができました。

これは生き方と向き合った、町での1年間の物語です。
 
桜が咲く春の日。私は派遣先の町へやってきました。
見知らぬ土地で初めての一人暮らし。
コロナ禍で人と会うことにも制限がかかる中、期待よりも不安や寂しい気持ちでいっぱいでした。

そんな中「食べんさい!」と言って、ご近所さんが持ってきて下さった炊き立てのご飯と山菜の天ぷら。
アツアツで美味しくて、心が温まったのを覚えています。

気温が上がり、若葉が色づき始めた夏の初め。

地域の方に誘われてジュニアスキークラブに入りました。この地区では、冬のスキー練習に向けて、夏場から小学生のメンバーが体力トレーニングをします。野球場の周りを走ったり、ストレッチや体の動かし方を学んだりと、いつも汗びっしょりでトレーニングに励みます。

私は日中別の活動をしているため、いつも開始時間に遅れて参加していました。でも私が行くと、子どもたちは私の名前を呼んで走って来てくれたり、たくさん話しかけてくれたりしたので、とても嬉しかったです。

自分のことを待っていてくれる人がいるなんて、こんなに幸せなのだと初めて実感しました。
いつもふざけている子が本音を話してくれたり、ずっと口を閉じていた子が少し心を開いてくれたりと、子どもたちの素直な想いや笑顔いっぱいの姿に触れる度、胸の奥がグッと熱くなりました。

秋になり紅葉が美しくなる頃、猟師さんに同行させてもらい狩猟を見学する機会がありました。
猟師さんは、獣道を見分け、足跡や糞の跡から獣がいる場所を予測して、罠をかけます。

この時は檻の罠に体長約1mの猪が掛かっていました。しかし獣を捕まえたとしても、そこで終わりではありません。お肉にするためには、まずその生き物を殺さなくてはいけません。

この止め刺しのシーンがとても印象深く残っています。猪が最後まで必死になって抵抗する姿、鼻に漂ってくる獣のにおい、そして矢尻が獣の心臓へ刺さった瞬間、聞いたこともないような甲高い声が響き、徐々に体の動きが止まっていく様子。

見ていてとても心苦しかったですが、誰かがこうやって命と向き合っているからこそ、私たちの食卓にお肉が並ぶのだと実感しました。

「食」とは、「命をいただくことで、命をつなぐこと」だと、その時初めて気がつきました。これは、お肉だけの話ではありません。野菜も果物もみんな命です。暑い日も寒い日も一生懸命になって農産物を育ててくださる方々がいらっしゃいます。こうした姿を見てからは、命と食を届けてくださった方々に感謝して、「いただきます」を言いたいと思うようになりました。

雪が降り始め、小さな村が白銀の世界となった冬。

「今年のクリスマスは一人で過ごすのかな」と思っていたら、活動終わりに酪農家のおばあちゃんとお孫さんがケーキを作って待っていてくれました。いつものように乾杯して、お肉を焼いて、ワイワイ笑顔で喋って……

まるで本当に家族の一員になったみたいです。その後も「気にせずにいつでも来なさい。ただいま~って感じでね。気をつけて帰ってくるんだよ」と声をかけてくださり、牛舎で活動をしては、家族みんなで食卓を囲みました。

帰る場所がある、そして待っていてくれる人がいる。これはすごく温かなことです。血は繋がっていなくても、心は繋がっている。だからこそ、家族のように感じると思いました。

さて、協力隊として過ごす日々は、毎日が新たな出逢いや感動の連続で、あっという間に1年が過ぎ、また春がやってきます。
出逢った地域の方々に支えられ、真面目で堅苦しかった私も、いつの間にか、よく笑うようになっていました。

そして見えてきた『これからの道』

大学卒業後、私はもう少し自分のやりたいことと向き合ってみようと考えています。
そう思えたのも、出逢った皆さんのおかげです。
皆さんが、「ぼちぼちやりなさい」と声をかけ、一緒になって悩み考え寄り添ってくださり、すごく支えられました。

「急がんでええ、急がんでええ、ゆっくりいけばいいからな」と言葉をいただき、遠回りも一つの生き方だと自分の気持ちと向き合うことができました。

卒業後は、海外での活動に挑戦したり、農山村で家を借りて野菜を育て「暮らしをつくる」ということをしてみたいです。本当だったら今すぐにでも大好きな子どもたちと向き合う仕事に就きたいのですが、急ぐ必要はありません。

悩むことは弱いことではなく、自分と向き合う強さの証拠です。将来に焦るのではなく、まずは自分の枠を広げ、ゆっくりじっくり歩んでいこうと思います。

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