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小説「15歳の傷痕」73~ニアミス

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- 初戀 -

「アタシは、奪っちゃう」

「えぇっ?」

放課後の音楽室の片隅で、若本と宮田という珍しい組み合わせが、ずっと話し込んでいた。

若本が、上井の事を好きになったのに、夏の吹奏楽コンクールで金賞を取ったら正式に告白する、金賞を取れなかったら上井を諦めると宣言し、結果が銀賞だったことから、若本は上井に、もう諦めると告げたのだが、上井がその後、若本の友達でもあるクラスメイトの森川と付き合い始めたため、若本は上井に未練が残ってしまっていた。

そこで、上井が1年間移籍していた打楽器のリーダー、宮田に、自分は今後どうすれば良いか、若本は相談していたのだった。

「アネゴ…奪っちゃうって?」

「表現が極端でごめんね。アタシは若本さんとは性格が違うからさ。そんな状態ならいつまでも悩む羽目になるし、悩むくらいなら、強引にミエハル先輩を奪いに行くよ、アタシなら」

「で、でも…。諦めるって、先輩に宣言しちゃってるんだよ…」

「そんなの…。やっぱり諦められません!って言えばいいだけだよ」

「それでもダメだったら?」

「その時は、次行ってみよう!だよ」

思わず若本はグスグスしていたのが吹っ飛び、笑いそうになっていた。

確かに未練を吹き飛ばすには、宮田の言うような玉砕精神の方が、却ってスッキリするかもしれない。
かと言って今日や明日に、やっぱり諦められませんと上井に言うのは、流石にまだ時期尚早だろうと思った。

第一そんなことをしたら、一生森川から恨まれることになる。

でも若本は、宮田と腹を割ってここまで話せて、ある意味スッキリしていた。

「ありがとう、やっぱりアネゴだね。スッキリしたよ」

「本当に?アタシみたいな乱暴な方法は、まあ止めといた方がいいと思うけど、何かの参考になったんなら良かったよ」

「うん。参考になったよ」

「しかしミエハル先輩も罪な男だよね。モテない、モテないって口癖のように言ってたけど、モテてるじゃん、ねぇ」

「アハッ、そうかもね」

「今聞いただけでも、新しく出来た彼女さんに若本さん、そしてウチの打楽器の1年生の子達。片手じゃ足りないよ」

「いつか喋れたら言ってみるよ」

「その時は、アタシもライバルに加えておいてね」

宮田は何気なく爆弾級の言葉を放り込んで来た。

「えっ?アネゴ、なんて言った?」

「冗談よ、冗談。さて楽器出さなくちゃ…」

若本は、宮田が言った言葉が、冗談には思えなかった…。

「とりあえずアタシもバリサク出すかな…」

まだ上井が吹いていた痕跡が残るバリトンサックスを、若本は引っ張り出した。


「先生、すいません、土曜の午後に時間を作って頂いて…」

「ちょっと最初はビックリしたけどね。さあ、どうぞ」

神戸千賀子は、放課後、1年の時の担任だった美術の末永先生を訪ねていた。

「神戸さんと話すのも久しぶりよね。どう?大村くんとは仲良くしてるの?」

「ええ、一応…」

「もう貴方達のことは、先生方の間でも話題になってるから、このままN高初の夫婦になれとか、冗談半分で言ってる先生もおられるわよ」

「そ、そうなんですか?結婚なんて、まだまだ先ですよ…」

「まあ実際はそうよね。結婚が難しいのは、アタシは身を以て体験してるからさ、アハハッ」

「先生も、色々あったんですか?」

「まあね、女も30歳になるとね、何もない方が珍しいわよ。って、アタシの話をしてる場合じゃ無かったね。神戸さんの話を聞かなきゃ。ところで、何があったの?今の担任の中井先生には相談しにくい話?」

「はい、とてもじゃないですけど…」

「じゃあ、女同士、話そうか。まずアタシは、上井くんのことかな?と思ったんよね。当たっとる?」

「わ、先生、流石です。その通りです」

「やっぱりね。ミエくんは今年は1学期、文化祭で大活躍だったんだけど、あることで期末テストの成績が全科目赤点スレスレでね…」

「ええっ?そ、そうなんですか?」

神戸は思わぬ話にビックリした。

「そうなの。あることで真剣に悩んじゃって、それが運悪く期末テストの最中に重なってね。モロに成績に反映しちゃって。各教科の先生方も驚いちゃってね、それでも普段はしっかり授業聴いてるし、態度は良いからって、普段の態度を考慮してもらえてそんなに5段階評価は落ちなかったんだけど…」

「えーっ、そんなことがあったなんて、期末テストの頃…。アタシが話したりした時、そんなことは何も言ってなかったです…」

「ん?話したり?ということは、苦節ウン年で、やっとミエくんとスムーズに話せるようになったのかな?」

「実はアタシ、その文化祭の一週間後に、中学時代の先生のお宅に、中学時代の知り合いでお邪魔したんです。その中に上井くんがいて、その時に中学時代の恩師のお陰で、上井くんと完全に仲直り出来たんです。その後も何度か話したり、一緒に帰ったり…」

「そうなんじゃ!良かったね!」

先生の顔が、本当に良かった!という安心の顔になっていた。

「はい。先生にも1年の時にお骨折り頂いて、早くご報告しないと、って思ってたんですけど…」

「いやいや、神戸さんから聞けたのも良かったけど、そこはミエくんもアタシに言うべきよね。アタシが担任なんだから」

「ハハッ、そうかもしれませんね」

「でも、完全に仲直りしたのに、何か悩みがあるの?ミエくんと大村くんが喧嘩してるとか?」

「大村くんとのことは、とりあえず別なんですけど、上井くんのことなんです」

「仲直りしたらしたで、新たな悩みができたのね。うんうん、聞くよ」

「アタシが悩むのは筋違いなんですけど、上井くん、今の2年生の女の子と付き合い出したんです」

「えっ?本当に?それはまたビックリだわ!それも含めて、一度事情聴取しなきゃね。でも、神戸さんはそのことで新たな悩みが生まれたの?」

先生は複雑な表情になった。

「アタシは先生もご存知の経緯で、上井くんと和解するまで凄い時間が掛かったんですけど、またお話し出来るようになったら、優しいし、気を使ってくれるし…。なんで中3の時にフッたりしたのかな…って思うようになっちゃったんです」

神戸はナタリーのナイタープールでの出来事を思い出して、話していた。

「うんうん、分かるよ。ミエくんは優しい性格だから」

「その反面、大村くんの束縛が最近、強過ぎて…。アタシが行きたい大学にまで、そこじゃなくて一緒の大学に行こうって言い出してるんです」

「うーん、関白亭主っぽいね…」

先生は苦笑いしか出来なかった。

「そんな時に、上井くんってやっぱり優しいんです。昨日一緒に帰った時もさりげなく太陽の方向を確認して、アタシがカレの影になるようにしてくれてるし…。アタシが中3の時に一時の気の迷いでフッたりしなきゃ、1年生の時も今も、一緒に登下校して、吹奏楽部も含めて高校生活をもっと楽しめた筈と思ったりして…」

「第三者的な言い方でいくと、今の彼の嫌な部分が目に付くようになって、元カレの良かった部分を懐かしく思ってる、そんな感じかしら」

「まさにそうですね。付け加えると、元カレは新しい彼女を見付けちゃって、幸せそうなんです」

「神戸さんとしては、気持ちのやり場がない、そんな所かな?」

「情けないんですけど、そうです」

「そっか!よくアタシに話してくれたね」

先生は立ち上がり、落ち込んでいる神戸の肩を元気出しなよとばかりに、ポンポンと叩いた。

「ミエくんはミエくんなりに、高校生活をこれまで送って来て、クラスでもそんなに目立たないんだけど、いつも穏やかで、絶対に他人を傷付けるようなことは言わないのね。神戸さんにちょっと失礼な言い方になっちゃうけど、沢山傷付いたり苦しんだ経験が、ミエくんを成長させてると思うんだ」

「他人の痛みが分かるってことですね…」

「それはあるね。それと頼んだ事は絶対に守ろうとする。頼んでないことも、みんなの為になるならって、引き受けちゃう。文化祭でも、生徒会やブラスで忙しいんだから、クラスの方は手抜きでいいよと言ってたんだけど、事前準備とか物凄く頑張ってくれたんだよね。当日も裏方やってくれて、その時に一瞬寝落ちしたのかドラム缶に頭をぶつけて火傷しちゃってたんだけど。だから本人はモテないって言ってるけど、アタシのクラスの女子でも、いつも一生懸命なミエくんのことを好きな女子は、密かに結構いるんだよ。あの吹奏楽部のステージも影響大かな」

「そうなんですね…。アタシは素敵な彼を、フッてしまったんですね…」

「でもさ、仲直りしたんでしょ?喋れるんでしょ?それなら、神様が2人の絆を切っちゃいけないって、判断したんだよ。そう思わない?」

「確かにそうですね。もうアタシは上井くんに嫌われて、縁を切られててもおかしくないのに…」

「同じ高校に来て、同じクラスになったのが、その当時はお互い気になっただろうけど、それが不思議な縁だよね。もし違う高校に行ってたら、お互いに気まずいままだっただろうし。勿論今は大村くんという彼氏がいるんだし、ミエくんにも彼女が出来たから、恋愛感情はしばらくお休みしなくちゃだけど。男女関係ない親友として、しばらく接してみなよ」

「男女で親友…ですか?」

「そう。神戸さんなら出来ると思うよ。それでミエくんと繋がりを保っておけばいいんじゃないかな。恋人になると、最終的には結婚か別れるかの、究極の2択になるじゃない?親友なら、別れたりしないでもいいでしょ?まあ喧嘩して絶縁ってことも無きにしもあらず、だけど」

「そう、ですね…」

「その内もしかしたら!親友以上の関係になるかもしれないし」

「じゃあアタシは…」

「確認だけど、ミエくんのことを好きな気持ちは、残ってるんでしょ?」

「…はい」

「じゃあその気持ちは大切に心の金庫に保管して、まずは何でも言い合える親友みたいな存在になれるようにしてみなよ。でも…」

「でも?」

「大村くんには秘密だよ」

「ウフッ、確かにそうですね」

「彼は女の子って恋愛の対象でしかないだろうから、今は」

「先生、ありがとうございます!モヤモヤが、スーッと消えたような感じです」

「少しでも神戸さんの力になれたなら、嬉しいわ。あとアタシは、ミエくんの事情聴取をしなくちゃね」

「ハハッ、そうですね。ちゃんと先生に報告しなさいって、アタシも言えたら言っておきます」

「そうそう、その意気だよ!応援してるからね。また何かあれば、中井先生に言えないようなことは、アタシに相談しにおいで」

「はい!ありがとうございました、末永先生」

「勉強も頑張ってね」

「はい、失礼します」

神戸は、美術準備室を辞し、吹奏楽部が体育祭のマーチを練習している音を聴きながら、帰宅の途についた。

(上井くんと親友に、か…。それでいいの?アタシは…。こんなに一人の男の子のことが忘れられないのは、初めてだよ?)

今日も大村は、予備校直行だ。神戸は1人で色々考えつつ、宮島口へと歩いた。


「今日は先輩の、宮島口駅まで一緒に帰ってみてもいいですか?」

屋上で弁当を食べ終え、なんとなく世間話をしていたら、森川さんがそう俺に尋ねた。

「え?いいけど、どえらい遠回りにならない?」

「はい、どえらい遠回りになります!」

「俺が高校と宮島口駅の間を歩くのに、大体30分くらいは見とるんよね。だから、それに2倍した上に、更に高校から森川家までが加わるじゃろ?1時間以上も歩かにゃいけんよ?この炎天下を」

「そうですね!」

それでも森川さんは、穏やかな笑顔で俺のことを見ている。

「な、なんで?」

俺は戸惑って尋ね返した。

「実は、この前のプールの帰りのお返しです。先輩、ナタリーから高校までアタシを送ってくれたじゃないですか。そのお返しを出来てないなって、ずっと思ってたんです」

「そんなの、気にしないで良いのに。…でも、今の俺の気持ち、分かる?」

「へっ?先輩の気持ち、ですか?」

「そう。彼氏の心を読んでみて?」

「な、なんか照れるぅ…。せ、先輩は彼氏なんですもんね、アタシの…」

「そうだよ。俺の彼女として、俺の心を想像してみて?」

「えっとー、あのー、も、もしかしたら!もしかしたらですけど…、嬉しいって思ってくれてたらいいなぁ、なんて…」

森川さんは顔を赤くしながら、そう言った。

「当たり!合格~」

「んもー、先輩!ビクビクしちゃったじゃないですか!もーっ」

と言いながら、森川さんはポカポカと軽く俺の腕を叩いた。そんな事も嬉しく感じる。その内俺は森川さんの手を止めて、手を繋いだ。

「あっ、先輩…」

「じゃ、帰ろうか、宮島口へ」

「はい!先輩!」

俺と森川さんは、閑散としてきた屋上から、互いにカバンを持って下駄箱へ向かった。

「高校の中で先輩と手を繋げたなんて…夢みたいです!」

「ううん、手くらい、減るもんじゃないし。誰も見てない時だけ…ね」

「はい!」

一旦手を離して靴を履き替えると、外に出て再び俺は森川さんと手を繋いだ。

「先輩…」

「ん?」

「アタシのホッペ、抓って下さい!」

「えぇっ、何を言い出すの?」

「どうしても現実とは思えなくて。ホッペを抓ったら現実だと分かるかな、なんて」

「そんな、ゆ、裕子のホッペなんて抓れないよ…」

「うーん…。じゃ、アタシが先輩のホッペを抓ってもいいですか?」

「あっ、ああ。その方が俺の精神的ダメージは少ないよ」

「じゃあ…アタシが抓っちゃいます!」

森川さんは繋いでない方の手で俺のホッペをキュッと抓った。

「イテッ!」

「あ、先輩、ごめんなさい、大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫。でも痛かったから、ちゃんと現実だよ」

「わ、先輩、アタシが抓った所が赤い…。ごめんなさい、先輩。痛かったですよね?」

「大丈夫だよ。俺の肌が色白だから、赤いのが目立つけど、すぐ消えるさ」

「やっぱりアタシのホッペを抓ってもらった方が…」

「ダメダメ!大事な彼女の顔に傷なんて付けられない、俺は。これでいいんだよ」

「先輩って、なんでそんなに優しいんですか?アタシの彼氏だなんて、本当に信じられないです」

「まあ、まだ3日目だもんね。まださ、お互いのことは分かってない事の方が多いよね」

「そうですね」

「じゃ今日は、宮島口駅まで、俺の質問タイム~」

「えっ、どんな質問が飛び出てくるんですか?」

「アハハッ、そんな難しいことは聞かないよ。まず、ゆ…裕子の初恋はいつ?」

「初恋、ですか?いつだろう…。ミエハル先輩!って答えはダメですか?」

「え?いや、ダメじゃないけど…。俺の前に好きだった男子とか、いないの?」

「うーん…。実はいないんです。本当に。勿論、子どもから少しずつ成長してきて、男と女の違いとかが分かって、男の子っていうのを体育祭のフォークダンスで意識したことはありますけど…。特定の男の子を好きって思ったのは、ミエハル先輩が初めてなんです…」

「なんか、本当みたいだね。な、なんか俺、責任重大だね」

「だからアタシ、今は初恋が1年越しにやっと実った状態なんですよ。照れちゃうけど…」

森川さんは本当に照れていた。だが繋いだ手には、ギュッと力が込められた。

「去年の体育祭で俺のことを好きになってくれた、って前に聞いたよね」

「はい。そうです…」

「ゴメン、ちょっと意地悪な事を聞くけど、その後、俺にアクションを起こそうって思ったのは、いつ頃?」

「最初は…ずっと片思いで、なかなか勇気も出なくて、それでも実はバレンタインの日に、チョコを用意して、ミエハル先輩に上げようって思ったんですよ」

「わ、そうなんだ…。バレンタインの日ってマラソン大会の日だよね。その日は何処を探しても、俺、おらんかったじゃろ…」

そう、バレンタインは2月14日だが、この年は日曜日だった。しかしその日はマラソン大会が設定されており、代わりの休みはその週の土曜日に設定されていた。

しかし俺はその直前に風邪を拗らせて入院し、吹奏楽部の演奏会に穴を開けて、マラソン大会当日は登校免除されて休んでいたのだ。
代わりに別の日に、マラソンコースを走らされ、とてつもない悔しさを味わったが…。

その事を森川さんに話したら、

「えーっ、先輩、入院なんてしてたんですか?大丈夫ですか?」

「2月の話だよ。体調はもう大丈夫!それより森川さん、チョコを用意してくれてたなんて…」

「実は先輩がマラソン大会でゴールしたら、上げようって思ってたんですよ。だけど待っても待っても先輩の姿が見えなくて…。吹奏楽部の誰かに…山中先輩にでもミエハル先輩は?って聞けば良かったですね」

「そうだね。そのチョコはどうしたの?」

「結局その日の夜、お家で食べちゃいました。先輩はなんで何処にもいなかったんだろうって思いながら、悲恋のヒロインを気取ってました。エヘヘッ」

「マラソン大会はクラスマッチや体育祭と違って、生徒会は無関係じゃけぇ、分からんもんね。うーん、何だか運命的な出来事に感じるなぁ。でもその時、俺を諦めたりはしなかったんだね」

「はい。まだ先輩とお話ししたこともないのに、初恋を諦めるなんて、いくらなんでも…」

「だよね。マラソン大会の時点では、まだ俺は、森川さんを認識してないし。確か初めて会話したのって、生徒総会の後だよね?」

「そうです。初めて先輩とお話し出来た!って、その日は夜、寝れなかったんですよ〜」

会話しただけで寝れなくなるなんて、本当になんと可愛い女の子だろう。
そんなエピソードの一つ一つが、俺の中での森川裕子という女の子像を形成していく。

その内、宮島口駅に着いてしまった。2人で話しながらだと、30分も早く感じる。

「先輩、もう駅に着いちゃいました…早いですね」

「そうだね、話ししながらだとあっという間に感じるね」

「寂しいです、もうサヨナラなんて…」

「明日は日曜日だしね」

しばらく手を繋いだまま、宮島口駅前で無言でいたが、森川さんが提案した。

「先輩…。明日、空いてませんか?」

「うん、空いてるよ。俺も今、聞こうかと思ったんだ」

「わ、本当ですか?良かった〜。あの、何処かにお出掛けしませんか?」

「うん、行こうよ!プールはもうやってないけど」

「アハッ、もしプールがあったらパンツは忘れないようにしますね、アハハッ」

「ハハッ、やっぱりあのパンツ事件は衝撃的だったもんね!でも自分から言うなんて、裕子も成長したね」

「もうミエハル先輩には隠す必要ないですもん!他の人には言えないけど…」

「そっか、そうだね。じゃ、明日の事を決めようよ。駅のベンチに座って…」

「はいっ!」

そう言って2人は宮島口駅の待ち合わせベンチに座った。

実はこの2人の後ろを、ずっと追い抜かないように、付かず離れずの距離で歩いていた生徒がいた。

神戸千賀子だった。
末永先生に励まされて高校を出たら、しばらくしたら2人が前方にいるのを見掛けたのだった。

(上井くん、凄い楽しそう…。親友になんて、なれないよ…。先に嫉妬心が顔を出しちゃう。どうしよう…)

<次回へ続く>


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