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連載小説「15歳の傷痕」84〜嫉妬心

<前回はコチラ>

<第77回までのまとめ>

― ジェラシー ―

2学期が始まってから10日も経ってないのに、俺の身の回りにはあまりにも色んな出来事が起きすぎている。

始業式の日に森川裕子と告白し合ってカップルになり、翌週にはキスまで進んだ。

その一方、月曜日には体育で目眩を起こし、クラスメイトの佐々木さんに4時間も保健室で看病してもらい、大谷さんに嫉妬気味の疑いをかけられた。

翌日、その大谷さんの疑問に帰り道で答えている姿を、恐らく神戸千賀子が目撃し、俺が二股掛けてると思い込み、俺のことを無視するようになってしまった…という、ジェットコースターのような2学期前半になってしまった。

まだ体育祭も終わってないのに、凄まじいものだと、我ながら思った。

勿論、大学入試の為の受験勉強など、全く何も出来ていない。

先日配られた進路希望調査も、細かいことまで書かねばならない。
漠然と考えていた広島大学法学部も、話せていた頃の神戸から勧められていたが、無視されるようになった今、受かる可能性は低いとはいえ、同じ大学を志望するのはN高の二の舞になってしまいそうだ。

結局15歳の時に神戸から受けた傷は、本人と仲直りし、自分にも彼女が出来たことで治ったと思ったものの、再び神戸によって新たな傷として俺の前に立ち塞がってきた。

神戸のお母さんには、俺はウケが良いとのことだが、神戸本人と俺は相性が悪いのだろう…。

そんなことをいつものようにベッドに転がってモヤモヤと考えていたら、通学カバンに手紙が入っていることに気が付いた。

(あれ?さっきは気が付かなかったな…。誰からだろう)

手紙をカバンのポケットから取り出すと、いつの間に入れたのか、裕子からの手紙だった。

Dearミエハル先輩♪

今日も一緒に帰れて嬉しかったよ。
ところでね、今度の日曜日のデート、思い切って宮島に渡ってみない?
前のデートでは、カップルが宮島に行くと別れるからって言って止めたけど、アタシの友達に聞いたら、彼氏と宮島に行ったけど、別れるような気配はないの。
だからアタシ達も勇気を出して宮島に渡ってみたいな、と思ったの。
神社にお参りしたり、水族館にも行ったりしてみたいな♥
なんで手紙に書いたかって言ったらね、先輩に宮島に行ってもいいか、事前に考えてほしいな、って思ったのと、先輩にラブレターをあまり書いてないから、ラブレターとして先輩のお家に残してほしいな、なんて思ったから…。
もしね、先輩さえよければ、アタシにもラブレター書いてほしいな、なんて…キャッ!なに書いてるんだろ、アタシ。
じゃあまた明日です、おやすみなさい!
ミエハル先輩大好き❤

from裕子

多分、この手紙を最初から用意していて、田尻電停に着く前のどこかで隙を見て、俺のカバンのポケットに入れたのだろう。

不覚にも色んな出来事に振り回されている状態の俺には、心に沁みる元気が出るラブレターで、不意に涙が溢れてきた。

改めて裕子と付き合えて良かったと、裕子に感謝しながら、たまには俺からも何か書いてみるか…と、便箋とボールペンを取り出した。

「Dear裕子と…。えっと、何を書こうかな…」

慣れないラブレター書きに取り組んでいたら、いつの間にか日付が変わっていた。


翌土曜日、俺は又も寝不足状態で、玖波駅で山神さんを待っていた。

「あっ、ミエハルくーん!おはよっ!」

山神さんが元気に現れた。

「山神さん、おはよう〜」

「ミエハルくん、まーた何か悩みよったんじゃろう?顔が寝不足です!って顔になっとるよ」

「え?そんなことなかろう、ちゃんと寝た筈…1時には。オールナイトニッポンの始まりを聴いたらいつの間にか寝とったんじゃけど。気付いたら一晩中ラジオ付けてて、目が覚めたら宗教番組やってたよ、ハハッ」

「1時か〜。前のアタシなら、まだまだ夜はこれから!じゃけど、ミエハルくんに改心させられた今は、ちゃんと日付が変わる前には寝とるよ、アタシ。ミエハルくんも早く寝なきゃ!」

「3ヶ月前には考えられん説教だねぇ、参ったな」

「まあまあ。とりあえずミエハルくんが聞きたいのは、昨夜の2回目の、チカちゃんとの電話じゃろ?駅の中に入ろうよ」

と山神さんが言ったので、俺と山神さんは改札を通ってホームを目指した。

「昨日、N高の中で、チカちゃんと会ったじゃろ?」

山神さんはいきなりそう聞いてきた。

「おぉ、いきなりストレートに来るね。うん、昼休みの終わり頃にすれ違ったよ。あれは会ったとは言えないな、すれ違った、だよ」

「そうなん?まあ確かにチカちゃんも、特に会話はしなかったとは言ってたけど。それでね、ミエハルくんの仮説をチカちゃんに言ってみたの」

「クラスメイトの女の子と偶々2人で帰った時を見られたんだろう…って話ね」

「そしたら…」

ここで広島行の列車が入って来た。何だかいつもいい場面で列車が入って来るような気がする。

「と、とりあえず乗ろうか」

この日もどちらともなく声を掛けて、列車に乗り込んだ。
ドアが閉まり、列車は動き出した。

「えっと、どこまで話したかすぐ忘れちゃう。どこまで話したっけ?」

「俺の仮説を、神戸さんに言ってくれたってとこ」

「そうそう、そしたらね、チカちゃんの彼氏も同じことを言ったって言うの」

「へぇ…」

大村の株が、俺の中で上がっていく。

「アタシは、ミエハルくんも単なる同じクラスの子って言ってるし、二股とかじゃ無いよ、絶対に!って、強調しといたよ」

「ありがとう。それで神戸さんは何か反応してた?」

「こんなこと言ったら驚くかも、ミエハルくんは…」

「何々、その意味深なコメント」

「んーとね、チカちゃん、泣き始めたのよ…」

「えっ…、な、泣いた?」

あまりにも予想していない流れに、俺は驚かざるを得なかった。

「うん。まあ、わーんとか大声で泣いた訳じゃないけど、シクシクとすすり泣くように…」

「ということは…」

「まあ言わないでも、ミエハルくんなら分かるよね。」

「そうだね…。でも電話は泣いたままで終わった訳じゃないよね?続きはどうなったの?」

「しばらくチカちゃんが落ち着くのを待ってたんだけど、先にチカちゃんが話し始めたの。アタシ、上井くんに嫉妬したんだ、って」

「嫉妬!?」

ますます神戸千賀子の心境が分からなくなってきた。俺に彼女が出来た、だが偶々同じクラスの女の子と2人で帰るのを見られた。

それだけで嫉妬?

「アタシも嫉妬って何?って思ったからね、よければ聞かせてよって、聞いてみたの」

「だよね、当事者の俺が一番戸惑ってる」

「その前提にねぇ…。ミエハルくん、彼女が出来たからって、他人が通るような所で、キスしちゃいけんよ」

「えぇっ?」

裕子とは何度かキスを交わす仲になったが、多分今言われているのは、宮島口駅の地下通路でキスした時ではないだろうか。

「あのミエハルくんが彼女とキス、しかも公共の場でね〜。いつの間にか大人になったな、なーんて、アタシは感慨深くなっちゃったけどさ」

「あの、俺に変な汗かかせないでよ」

実際、嫌な冷や汗が背中を幾筋も流れていく。

「チカちゃんが言うには、ミエハルくんと彼女さんのキスシーンを見てしまって動揺したんだって」

「動揺って、俺も今、動揺してるよ〜」

「フフッ、ミエハルくんは顔にすぐ出るから、よく分かるよ。変わらないよね、そんなところ」

多分俺は、真っ赤な顔になっているのだろう。ここで次の駅、大野浦に着いた。列車も残り半分だ。

「まあチカちゃんは、そのキスシーンを見てしまった次の日に、同じクラスの女の子と2人で帰ってるのを見たから、人前でキスするような人が、何食わぬ顔して別の女の子と2人で歩いてる!って、瞬間的に怒りモードにスイッチが入っちゃったらしいの」

「うーん、そうかぁ…」

「ミエハルくんの立場に立つと、突然降りかかった災難みたいなものよね。彼女とのイケナイことは別として」

「その点はこれからは気を付けます…」

「うん、そうしたまえ。なーんてね、アタシが偉そうに言うなって話よね」

「まあ、中3の時に神戸さんと付き合っとった時は、キスどころか手も繋いでないからさ。キスする場所なんてよく分かんなくて」

「そんなの…、学校の裏とか、屋上とか…」

「ふむふむ、山神さんはそういう場所で経験がある、と…」

「ちょっと、ミエハルくん!…まあ、否定はせんけど。一応細かい補足をしとくと、中学の時に、N先輩にせまられて…、じゃけぇね」

「そっかー。ファーストキスは早かったんじゃね」

「でも、信じてもらえるかどうか分からんけど、グレてた時に付き合いがあったアイツらとは、何もなかったから、そういうのは」

「それは信じるよ。山神さん、嘘なんかつく女の子じゃないっしょ」

「あっ、うん…。なんか、ありがとね」

「それでそれで、残り時間も僅かじゃけぇ、神戸さんの言う嫉妬って何なのか教えてよ」

次は宮島口という状況なので、俺は焦っていた。

「ごめん、横道に逸れたね。チカちゃんが言うには、最近あんまり彼氏との関係が良くないらしいの」

ああ、なんかそれっぽいことを言ってたな…。同じ大学に来いと言われてるとか…。

「それでイライラしてた所に、まあ元カレのミエハルくんに彼女が出来て、更に翌日には別の女の子と帰ってた。ミエハルくんは高校でも吹奏楽部の部長をしたし、今は生徒会役員もしてるんだってね。だから物凄く幅広い人脈があると。翻ってチカちゃんは、彼氏の束縛が強くて、他の男子と話そうもんなら、凄い怒るんだって。そんなこんなが絡み合って、ミエハルくんに対して嫉妬みたいな感情が爆発して、ミエハルくんと関わりたくない、と思ったんだって」

「うーん…なんと言ったらいいのやら…」

俺は、多分山神さんに電話で話した事が、神戸の本音に近いんだろうと思った。2人は小学校からの親友なのだ。逆に久々に山神さんから電話が掛かってきて、溜めていた感情が溢れたのではないかと思った。

「でも、山神さんからこんな話を聞いたよ、なんて、俺が神戸さんに話し掛けるのはマズイよね、きっと」

「そうだね…。内容的にも、ちょっとね」

「だからしばらく俺からは話し掛けないようにしとくよ。でも突然避けられるようになった理由だけは漠然と見えてきたから、それだけでも山神さんには大感謝だよ。ありがとう」

「いえいえ。少しはミエハルくんに恩返しできたかな」

「恩返し?」

「覚えてる?中学校の前に来てもらった時…」

「ああ、文化祭の後の夜ね」

「アタシ、不良から足を洗って元に戻るってミエハルくんに約束したじゃない?」

「うん…」

「何とかその約束は守れたかなって思ってるの。それで、アタシを目覚めさせてくれた恩返しもしなくちゃって思ってたから」

「いや~、恩返しには大きすぎるよ!逆に俺からまた恩返ししなくちゃ」

「じゃあさ、またいつか帰りに会ったら、玖波駅前の喫茶店で奢ってね。その時に、もう一つの約束も果たしてね」

「もう一つの約束?」

「ピンと来とらんじゃろ~。まあゆっくり思い出してね」

丁度ここで宮島口に着いた。

「じゃあまたね~バイバイ!」

山神さんはそう言って、列車の中から手を振ってくれた。

俺も少し照れながら、駅のホームから手を振った。

列車は次の駅へ向かって出発した。

(嫉妬かぁ…。それなら高1の時の俺の方がよっぽどしてるっつーの)

とりあえずこの日も、俺はN高生の登校の流れに乗って、高校へ向かった。

(まあ疑問は晴れたから、これで裕子と堂々と付き合えるな。但しキスは場所を慎重に…)

俺は昨日までよりは気分が軽くなっていた。

だが俺の悩みは、スッキリするにはまだ時間が掛かるようだった…。

<次回へ続く>















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