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今、この時を心地よく【#8:「 #思い出の映像作品 」】

編集者へと転職し、複業を本格的に始めてからは、仕事と私生活の区別がほとんどなくなり、楽しい反面常に仕事のことを考えるようになりました。

カレンダーには1日に複数のスケジュールが組み込まれ、電車の移動中も仕事のやりとりをチェック、かと思えばSNSから情報をキャッチ。ご飯を食べながら仕事をすることもしばしばあります。

様々な情報伝達媒体があると、今やっていることと違うことが突然飛び込んできたり、納期が複数重なると、次のことを考えながら今をこなしていたり。1度にいくつも考えるのは、なんだか心がざわざわして落ち着かない。

そんな慌ただしい毎日を過ごして1年が経とうとした頃、ほっと休息を与えてくれるような映画に出会いました。

「モメンタム・ホース」メンバーが、異なるテーマでマガジンを更新する「言葉を共有していく感覚」。至極パーソナルな話をしながら、メンバーを相互に理解しあうことが主な運用目的です。そして、今回のテーマは「 #思い出の映像作品 」。各人が思い入れのある映像について紹介しあいます。

(img:http://life-is-fruity.com/)

『人生フルーツ』は、あるご夫婦が暮らす様子を描いたドキュメンタリー映画です。

舞台はお二人の家。若い頃、建築家だった修一さん(映画時:90歳)がデザインした大きな庭と家で、奥さんの英子さん(映画時:87歳)と一緒に暮らしています。

緑いっぱいの、四季折々に異なる景色を見せる庭。そこで採れた宝石のようなフルーツや、新鮮な野菜を使って彩られる食卓。力仕事は修一さん、草木を育てたり、食べ物を収穫するときは二人で協力。時折発生する部屋の模様替え……。お二人の様子は、さまざまなネットワークに囲まれた"便利な暮らし"でもなく、インスタ映えを意識した"ていねいな暮らし"でもなく、自然体の、自分たちが一番居心地がよいと感じている空間の中で暮らしを営んでいるように感じました。

作中に出てくる、修一さんが描いたお二人の絵も素敵。とてもマメな修一さんは、お世話になった人に定期的にハガキを書いて出していました。その時必ず、夫婦二人の似顔絵と、その時の年齢、それを合計した数字を書きます。

映画の中で仲良さそうに話すシーンは少なく(日常的にあまり会話がないそう)、けれど必ず描く絵や、生活における役割分担、時折はなす修一さんの言葉に、寄り添う二人の様子が心地よく伝わってきました。

"かつて日本住宅公団のエースだった修一さんは、阿佐ヶ谷住宅や多摩平団地などの都市計画に携わってきました。1960年代、風の通り道になる雑木林を残し、自然との共生を目指したニュータウンを計画。けれど、経済優先の時代はそれを許さず、完成したのは理想とはほど遠い無機質な大規模団地。修一さんは、それまでの仕事から距離を置き、自ら手がけたニュータウンに土地を買い、家を建て、雑木林を育てはじめました。"

修一さんは若いころ、バリバリと仕事をこなす建築家でした。大きな仕事をいくつも成し遂げてきた結果、今の暮らしにたどりついたよう。

自分の実現したい未来に向かって、今できることをやる。穏やかな生活の中に強い芯のようなものも感じ、だからこそ、この暮らしが深く心に残るのだろうなぁと思います。


どんなことをしていても、それがあまり居心地のよくないことだったり、やっている意味が見いだせなくなると、違うことに気持ちが向かってすべてが中途半端になってしまう。ここにないことをもやもや考えるよりも、今、何をしている時が心地よいのかを考えて、もっと素直にその時と向き合っていきたいなぁ。

映画館を出て、暗くなった道をぼんやり歩きながら、そんなことを考えた冬の日。

“思い出”というには少し新しいかもしれないけれど、当日はギリギリまでカフェで仕事をしていたこと、待ち合わせした友達が普段かけないメガネをかけていたこと、映画が終わり、涙が乾いた頃のぽーっとした顔にふれる冷たい風、暗闇を過ぎて急に明るくなった駅のまぶしさなど、その時の空気が映画と一緒に蘇ってくる、思い出の映像作品です。


次はパワフル元気ななつこさん~!



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