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ウソツキで誠実な男の約束『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』

本書の中に「『罪と罰』ウソツキで誠実な男の約束」という章がある。

東日本大地震でATMとインターネットバンキングを停止、緊急処置として10万円まで窓口で預金を引き出せることになった。

50代の現場作業員風の男性Kさんが窓口にやって来て10万円を引き出したが、後に彼の口座にはほとんど預金がなかったことが判明する。

Kさんは簡易宿泊所に寝泊まりし、都内の現場を転々としていた。しかも携帯電話を持っていないので連絡を取る方法がない。

そのまま逃げてしまえばそれで終わりだ。しかし、ある日Kさんは銀行を訪ねてきた。
母親が病気で仕送りが必要だったのだが、自分のお金じゃないから返したい、と。

毎月一万円を10回で支払ってもらうことになり(一括して払ってもらえ、という本店に対して著者は何とか頑張った)、翌月Kさんは約束通り来店してきた。
泥だらけのニッカポッカのポケットからくしゃくしゃの千円札10枚を取り出す。

「俺はちゃんと金返すからさ。あんたらに迷惑はかけねえって」と言って。

翌月、Kさんと現場監督が来店。事情を知った現場監督が「ご迷惑をかけたようですみません。私が立て替えます」と財布から9万円を出して支払った。

帰り際にKさんが「ありがとう。あんたにこれやるよ。俺はもう100回以上読んだから」と著者に一冊の文庫本を差し出す。

ドストエフスキーの『罪と罰』だった。
よく見ると上中下巻の中巻だった。

「正直者がバカを見る」という言葉がある。
醜い利口より、損をしてもバカになるほうが遥かに良い。何よりも正直であることは損得よりも大切だ。

私はKさんと現場監督に感銘を受けた。三五シンシャ館の日記シリーズはほとんど読んだが、目頭が熱くなったのは初めてだ。

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