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【エッセイ】煙草

 タバコは嫌いだ。

 喘息ではないのだけれど、煙とニオイを吸ってしまうとゲホゲホと咳が出て止まらなくなる。いつも突然やってくるので、防ぎようがない。駅前に喫煙所でもあれば、遠回りでも迂回する。
 しかし、ときどき道端の縁石などに腰掛けて、美味そうに一服しているおじいさんなど見ると、幸せそうで羨ましくもなる。
 私は朝一杯のコーヒーを飲むのが習慣になっている。挽きたての豆で淹れるコーヒーは格別の香りがする。飲み過ぎは良くないと聞いたので、朝の一杯だけにしているのだが、それが縁石に座って深々と煙を吸い込むおじいさんと重なる。
 ああ、あのおじいさんも私のコーヒーのごとく幸せの香りに浸っているのだろうな。あの煙がコーヒーの香りだったら良いのになぁ、などと思う。
 だからといって、コーヒーの香りのタバコを販売してほしいとは思わない。なぜなら、そんなものは人工的に合成された香料のにおいに決まっているから。豆を挽いて淹れたコーヒーとは別物のにおいになるのは目に見えている。
 縁石のおじいさんには悪いけれど、やっぱりタバコはなくなってほしいと思ってしまうのであった。

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