三木あずさ

小説を書きました。 手直ししながら少しずつ公開したいと思います。 良かったら読んでくだ…

三木あずさ

小説を書きました。 手直ししながら少しずつ公開したいと思います。 良かったら読んでください。

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小説一覧

連載小説 待ってる 完結 ぼくらは伝え方を知らなかったんだ 完結 短編・ショートショート 手 動かないボーナス 〜毎週ショートショート(お題チャレンジ) ショートショート王様 〜毎週ショートショート(お題チャレンジ) サラダバス 〜毎週ショートショート(お題チャレンジ) エッセイ 眠れない夜 キスシーン 節水トイレ こびと 煙草 自転車 長靴 猫の名前 化学物質過敏症日記 ① ② ③ ④ 最終回 追記

    • 【エッセイ】眠れない夜

       齢57、疲れが溜まるのである。  疲れといっても、肉体疲労の方。精神的にはとんと疲れなくなった。なぜだろうと考えてみる。  人間について考えるのは好きな割には、人間関係は希薄な傾向がある。昔から友達は少ない。学生時代も親友とも呼べる人間はいるにはいたが、トイレにまで一緒に行くような、そういった仲ではなかった。そういう人とは今でも交流はある。一緒にいても居心地がいいので、なんのストレスもない。  その他の人間関係を考えると、深入りせず、自分の考え方とずれがあってもすり合わせ

      • 【エッセイ】キスシーン

         映画やドラマのキスシーンが苦手である。  一瞬で終わってくれればホッとするのだが、長々とやられると目のやり場に困る。お茶の間で家族と一緒にテレビを見ていたときに、突然お色気シーンが流れるとドギマギしてしまう両親の心境に近いものがある。一人で見ていてもどうしたらいいかわからなくなって、早送りをしてしまう。  そもそも実生活で、他人がキスをしているところをどアップで見ることなどないだろう。あったらどう反応すればいいのか、わからない。  そういえばたまに電車の車内でキスをしてい

        • 【エッセイ】節水トイレ

           実家のトイレがリフォームされて、キレイになった。  イマドキ風のシャワー付き節水トイレである。どのくらい節水かと言うと、手を洗っているあいだに水が止まるくらい、節水である。あっという間にタンクに水が溜まる。節約になってよろしい。  ある日、母が「なんだかトイレが詰まるのよ」と言う。どれどれと見てみると、確かにトイレットペーパーが流れずに、ゆらゆらと留まっている。  あのトイレの詰まりを取る、パッコンパッコンいうやつでやってみると、トイレットペーパーは姿を消した。  それか

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          【エッセイ】こびと

           たぶんうちには、コビトがいる。  靴下片方とスプーンが、よくなくなる。家の誰に訊いても「自分は持っていっていない」と言う。泥棒がそんなものだけを持って行くわけがないから、たぶんコビトなんだと思う。  靴下とスプーンで、一体なにを作っているんだろうと想像する。スプーンを柱にテントでも張っているんだろうか。はたまた、帆でも作って出航の準備でもしているんだろうか。  しかし、我が家はマンションで適当な床下はないし、出航するには海も川も少し遠い。川はないことはないが、コビトの足で

          【エッセイ】こびと

          【エッセイ】煙草

           タバコは嫌いだ。  喘息ではないのだけれど、煙とニオイを吸ってしまうとゲホゲホと咳が出て止まらなくなる。いつも突然やってくるので、防ぎようがない。駅前に喫煙所でもあれば、遠回りでも迂回する。  しかし、ときどき道端の縁石などに腰掛けて、美味そうに一服しているおじいさんなど見ると、幸せそうで羨ましくもなる。  私は朝一杯のコーヒーを飲むのが習慣になっている。挽きたての豆で淹れるコーヒーは格別の香りがする。飲み過ぎは良くないと聞いたので、朝の一杯だけにしているのだが、それが縁

          【エッセイ】煙草

          【エッセイ】自転車

           自転車通勤をしている。  漕いでいる時間は、たぶん片道約20分。たぶんというのは、正確に測ったことがないから。出勤時間の30分ほど前に家を出る。それで間に合っているからたぶん20分くらい。  坂道は漕ぐ根性がないので、押して上がる。その横を電動自転車が楽々とすり抜けて行く。正直、羨ましい。何度も「次はあれを買おう」と思う。  ただ私は積極的にスポーツをするタイプではないので、この通勤の自転車漕ぎがなくなると運動らしい運動が皆無になる。20分間の自転車漕ぎが運動らしい運動か

          【エッセイ】自転車

          【エッセイ】長靴

          長靴を買った。 もう半年くらい前なのだけれど、それまで使っていた長靴が古くなって水が入ってくるようになり、もう長靴の役目を終えてしまったためだった。 その古い長靴はサイズを間違えてちょっとキツくて、それを履く度に足が痛くなっていて、新しいものは水漏れと共にそれもなくなったので快適だった。雨が降ると「今日は足の痛くならない長靴だ」と、雨の面倒くささの中に少々の喜びが混じるようになった。 ただひとつ問題が。 歩く度に靴下がずれていって、脱げそうになる。放って

          【エッセイ】長靴

          【エッセイ】猫の名前

           猫の名前を日々考えている。  しかし世の中の人が思いつくような、奇抜でキュートで親しみのある名前はなかなか思いつかない。ああいうネーミングセンス、素晴らしいなと思う。  猫は昔から好きだった。なんというか、媚を売らないところが実にいい。お腹が空いたらすり寄ってくるくせに、欲望を満たせばそれでさようならという感じがたまらない。  実家の猫はそれプラス「ドアを開けろ」の要求をする。つい従ってしまう。私のことは下僕だと思っているらしい。滅多なことでは抱かせてくれない。弟の膝には

          【エッセイ】猫の名前

          小説『待ってる』あとがき

           自分が子育てを終えた今、やはり「あのとき、ああすれば良かった」と後悔することは数々あり、タイムリープの漫画みたいに戻ることができたら、もっと上手くやれていたかもと思ってみたりもします。でも、同じ自分のやることですから、きっと同じような失敗を繰り返して、同じような後悔をするような気もします。  思い返してみれば大変なこともたくさんありましたが、楽しかった思い出もたくさんあって、それはまぁとんとんかなぁなどと思って良しとしていますが、なんと言っても子どもは可愛かったから必死に育

          小説『待ってる』あとがき

          小説『待ってる』エピローグ

          「ばあば、もうすぐ ぼく のいもうとがうまれるよ。だからさ、まだきちゃダメなの。ぼくね、まだまってるから。ばあばは、ゆっくり くればいいの。ずっと、まってる」  また夏が巡ってきたある日、ふと空を見上げた孝恵の耳に、陸の声が響いてきた。 「まってる」 了 前へ あとがき

          小説『待ってる』エピローグ

          小説『待ってる』27

           陸のことは夢だったのかもしれないと孝恵でさえ思うことはあったが、達也のメモ、遊園地での写真、陸に買ってやった服や絵本、一緒に食事をした食器……陸と過ごした数々の形跡が孝恵の部屋に残っていた。ただ不思議なことにあれだけ可愛がってくれた幹雄と明美の記憶には、陸のことは一切残っていなかった。 「陸がさ、母さんのところに来たのは本当だと思ってるよ」  達也だけは孝恵の言っていることを信じ、部屋に残っていた麦わら帽子を愛しそうに見つめた。 「俺もさ、同じ麦わらを陸に買ってやったんだ

          小説『待ってる』27

          小説『待ってる』26

           十年前、威勢よく孝恵のところから飛び出したものの、高校生の達也にご飯を食べさせて面倒をみてくれる者はそう簡単にみつからなかった。放課後につるんで遊ぶ仲間はいたが、その家に転がりこんで飯を食わせてくれとは流石に言えなかった。  結局頼ったのは父親の良太のところで、達也を毛嫌いしていた由美子も子ども嫌いだっただけで、成長した達也のことはすんなりと受け入れてくれた。  ベンチャー企業を立ち上げて成功していた由美子は達也に 「あなたね、高校くらいは卒業しておきなさい。そしたら仕事も

          小説『待ってる』26

          小説『待ってる』25

          「まだよ。まだだよ。きちゃダメよ」 孝恵の朦朧とした頭の中で、陸の声が微かに響いていた。  あれから五年。陸が待っている場所へ行くのだと、孝恵は病院の白い天井を見つめながら考えていた。 「母さん、気がついた?」  その声に意識が戻っていくのを感じながらゆっくりと顔を向けると、そこには心配そうに顔を覗き込む達也がいた。 「心臓、少し弱ってるみたいだけど大丈夫だって先生が」  胸に痛みを覚えて立っていられなくなり、達也に電話を掛けたところまでは孝恵も覚えていた。どうやらその後、

          小説『待ってる』25

          小説『待ってる』24

           二人が観覧車を降りる頃にはポツポツと雨が降り出していた。 「雨、降ってきちゃったね。カッパを出すからあそこに行こう」 と孝恵が売店を指差すと、陸は 「ぼく、もうかえらなきゃ」 と孝恵の顔を見た。 「うん。帰るから、カッパ着ようね」  そう言って孝恵が手を取ろうとすると、陸はその手をするりとほどき 「ぼく、かえらなきゃ」 と孝恵の目をじっと見て 「ぼく、まってる!ばあばがくるのまってる!ずっとまってる!」 と言って、走り出してしまった。 「陸!」  孝恵がそう叫んだ瞬間、雨が

          小説『待ってる』24

          小説『待ってる」23

          「からあげ、100こじゃなかったね」  観覧車の中で陸がおなかをポンポンと叩きながら、いたずらっ子のような笑みを浮かべながら言った。 「100個?」 「うん。あけみさんが100こつくるっていってた」 「100個食べたかったの?」 「おいしいんだもん!」 「そうねぇ。美味しかったね」  そう言いながら孝恵が外を見ると、観覧車はもうずいぶんと上まであがっていて、鳩が連なって飛んでいるのが見えた。 「ほら陸、お空が近くなってるよ」 「おそら、くもばっかりだね」 「あら、ホント。雨が

          小説『待ってる」23