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誤訳の刺激

編集者から誤訳リストの連絡が入った直後は冷静な頭で考えられないので、少し経ってからちゃんと確認しようと思っていたら、天の助けなのか、一気に忙しくなり、誤訳リストに手が回らない状態が10日ほど続きました。

それこそ、字幕のMTPEなどという時間だけがかかり、実入りの少ない仕事であっても(実際に1日14時間、ほぼ飲み食いせずにぶっ通しで仕事しちゃいましたw)、ネガティブに意識が向かないのが嬉しくて(作業はめちゃ辛かったけど)ありがたかったです。

そして、ドキドキしながら改めて対峙した誤訳たち。

蓋を開けたら9割強が「ファンとしてはこういう内容であって欲しい」訳文と2〜3の誤字脱字の指摘でした。誤字脱字も誤訳に含められるのはちょっと厳しいですが、まあ、この読者さんは、一生懸命「誤訳」を探したのでしょう。ほんと、お疲れ様でした。

中でも面白かったのが、日本語の流れをスムーズにするために短文3つを合わせた上で2つに分解した訳文で、原文にしろ、私の訳文にしろ、前後を読めば理解できる箇所を、真ん中の文章だけ取り出して「この翻訳は間違っている」としたこと。

英語は日本語ほど接続詞を使わないので、そのまま訳すとぶっきらぼうな印象を与える場合があります。逆に短文を接続詞で結びながらそのまま訳すと、文章の流れがしっくりこないこともあります。

そういうときは前後の文章を合わせて噛み砕いて一つの文章に落とし込んだり、合体した文章が長すぎる場合にはうまく流れるように再分割したりします。

文芸翻訳の醍醐味はこういうところにもあって、一文一文の意味を忠実に訳して“へんちくりんな日本語”にするのではなく、複数の文章を塊として捉えて、それを流れよく配置し直す場合があるわけです。

3年も前に2か月半くらいで作業した本なので、自分でもそういう翻訳者的こだわりポイントをすっかり忘れていました。でも、この読者さんのおかげで思い出し、「案外ちゃんと仕事していたのね」と少し誇らしくなりました。

私の場合は、現場で仕事をしながら&プロ編集者の文章を読みながら、日本語の作文技術を習得してきたため、潜在意識にそういう技が収納されているようで、今回のように後で見直す機会でもなければ自分が無意識に使った技に気づくこともないのです(笑)。

その点で、今回の誤訳リストを送ってくださった読者さんには感謝しないといけませんね。たくさんの誤訳を指摘してくれて、本当にありがとうございました! とても刺激的でした♪

この一件の対応は担当編集者に任せました。とは言え、こういう方は自分が他者に行ったのと同じことを自分にされると、逆ギレする確率が高いので、編集者には「慎重に対応してね」と頼んでおきました。

今回は自分の仕事を振り返る機会をもらっただけでなく、「自分の行動がどのような結果を招くのか」を、事前に考える必要性と想像力の強化を改めて実感しました。

いや、ほんと、もっと能力を上げていかないとな。これからも素直に頑張ろうっと!



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