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当事者が声を上げるとき

ここにUPするのは、かなり昔、もう10年以上前に書いた詩だ。この詩は、当時今はもう無いYahoo!ブログで、三カ所に転載させてくださった人がいた。その頃の、何も持っていなかった私の心の叫びだった。
だがこれは、当時の主治医にも、そして詩のほとんどの合評会でも黙殺された。彼らが言うには「もっと前向きになりなさい」「誰にも愛されたことがない人なんているわけないでしょ」と、言うのだ。
でも、私はこの過去の詩を思い切ってここに再度上げる。
当事者には当事者の声がある。ただ、マジョリティーがその涙を、悔しさを絶望を見えないように、発表しないように強い柔らかい圧力をかけているだけだ。

就労支援所
             葉山美玖

疲れ果てた
蒼白い顔、顔、顔、
なかなか動かない手足、
休憩ばかりの調理実習、
皆、腰を降ろしては
だるい体を懸命に動かしている
「またさぁ
薬増えたんよ 
今度は一日三十錠だって」
 
午前中働くだけで疲れ果てて
ビルの裏にこっそり
煙草をふかしに出掛ける
「私さぁ
こないだ台所の食器戸棚ひっくり返した
お前なんか税金泥棒だって
お母さんに言われて」
 
服もバッグもお互い物々交換で
二百五十円のランチが
食べられなくて
百円のカップラーメンを
啜る子がいる
「お金ない お金ないよ
でもあたしたち 
自己責任だから仕方ない」
 
古い流行遅れの服に
年季の入った靴
腋毛も剃れない常識外れ
大ぶりのアクセサリーに
若気な手作りのシュシュが痛い
 
「鳩山さんの演説って
よかったよねぇ
宇宙とか友愛とか
現実と関係ない話ばっかりで」
三日間水しか飲めなくて
一人暮らしのアパートで
倒れた子もいる
職員は戸を蹴破って119番した
 
「お前らさぁ 
働く勇気が出ないだけなんだよ
俺らいつでも
フォローしてやるのにさ」
ひたすら医師の言う通りに
薬漬けにして 
家の体裁を気にして
最後は施設が
何とかしてくれると
祈る親たち
 
「あの子 
グループホームで虐められてさぁ
二十年間閉じ込められてた病院に
舞い戻ったってさぁ」
矯正施設の塀から飛び降りて
患者が亡くなると
親御さんは皆手を合わせて
厄介ものをありがたい、
と拝むと
ピアサポートをしている
友人に聞いた
 
「あなた方の親は
みんないい親ですよ
先生も皆いい先生ばっかりよ
こうして 
お金の心配をしてくれているのだから」
一か月働いて
給金は八千円行けばいい方だ
ありがたいよねって
頭を垂れる
自尊心のない脳
 
「あなたがたを
怠け者と言うのは嫌いだけれども
働くってこんなお遊びじゃないのよ」
蒼白い顔が
動かない表情が
わたしは必死にやっていると
無言で訴えている
 
「このまま着のみ着のままで
国会議事堂まで行進しようか」
と誰かがぽつんと言った
 

「就労支援所」
初出「埼玉詩集」第16集
2024.4.13一部改稿

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