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漂流(第二章⑥)

第二章

6.
夢を見ているのだろうか?
もう数え切れないほど、夢の中では繰り返されたシーンだ。
聡子と向かい合い旧交を温めあう。元気だったか?あれからどうしていた?何か辛い目にあってはいなかったか?涙を流しながら、それでも笑顔で、お互いのそれまでを労う。想像とは少し違ったが目の前には聡子がいる。その聡子が俺を助けようとしてくれている。嬉しかった。胸がほんわかしてくる。しかし……。
「そういう事だから、俺は大丈夫。こうやって会えただけで十分だ。気持ちだけ受け取っておくよ。」
「でもそれじゃ光男は刑務所に行く事になるのよ。今回の暴力にだって理由があるでしょ?それを証言すれば…」
聡子は納得いかないとばかりに捲し立てる。しかし俺はそれを強く遮った。
「それは出来ない。」
「どうして?光男は理由もなく人を傷つけるなんてしないでしょ?今回の事だって朝倉さんを助けるためじゃない?彼女の証言があれば必ず……」
「それは絶対に駄目だ!」
俺はそう言うと席を立って、
「看守さん。終わりました。」
「ちょっと待ってよ、光男!」
聡子の声を背中に受けながら、俺は看守と共に面会室を出た。

檻の中に戻り、俺は再び物思いに耽る。
思い掛けない幼馴染との再会。それはとても嬉しかった。しかし、まさかこのような形での再開になるとは……。弁護士と被告人。それも勿論不本意だが、一番信頼する相手に真実を話せない事。その事が辛かった。
聡子の言う通り、理由は確かにある。あの時、横山が美代ちゃんに乱暴しているのを見て、咄嗟に体が動いた。助けなければ。それが理由だ。怒りで頭が真っ白になったのは事実だが、美代ちゃんを助ける、明確にその意識はあった。でも、それを裁判で証言する事は出来ない。横山に乱暴された直後、彼女のショックはかなりのものだった。それは当然だろう。ただでさえ真面目な彼女が横山のような男に辱めを受ける、そのような事を許容出来る筈がない。その上、俺が犯行の理由としてそれを証言すれば、彼女の屈辱を世に晒す事になってしまう……。だから俺は何も言うつもりはない…


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