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学習塾を開業するも、赤字で倒産した話②ドキドキの説明会へ




「センセイ募集」

その求人広告を見てから、

私の日常は動きだした。


「私、センセイになるんだ!」

「ホントになれるのかな?」

「いや、なれるよね!」

「うん、きっとなれる!」

「う、嬉しいー!」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


家事と育児に追われる毎日。

誰からも感謝されることもなければ、

評価されることもない。


「母親はやって当たり前」

そんな圧力を感じていた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「いいお母さん」

「いい奥さん」

「いいお嫁さん」

そんな幻想にとりつかれたかのように、

必死でがんばっていた。

しんどかった。

そう。

家事と育児を完璧にこなす。

それは自分にとって、

とてもとてもしんどいことであった。

きっと、できる人にはできることなのだろう。

だけど。

私にとってはキャパオーバーすぎた。

それなのに。

「まわりの期待に応えなければならない」

と。

勝手に自分で自分をがんじがらめにしてしまっていた。

だれが悪い訳でもない。

しいて言うなら、自業自得だ。

ただ、ひたむきにガンバっていたあの日の自分に声をかけるなら、

優しい言葉をかけてあげたい。

「もう充分がんばってるよ」

「大丈夫!はなまるだよ!」

と。

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まぁ。

そんなこんなで。

久しぶりに身なりをカチッと整えて、説明会に参加することとなった。

それがもう嬉しくて。

「わぁー!なんか私、センセイっぽいよね!」

久しぶりのスーツとストッキング。

本来なら楽ちんな服装のほうが好きなのだが、

あまりにも地味な毎日を送っていた自分にとって、

「スーツにストッキングにパンプス」

の窮屈感が妙に心地よかった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

面接会場は、自宅から少し離れた都会にある。

スーツで都会を颯爽とあるく。

「なんか私、ステキー!」

ショーウィンドウに映る自分に笑みがこぼれる。

髪の毛ふりみだして、家事育児に奮闘している自分とは、まるで別人だ。

「これだよ!これー!」

浮かれていた。

完全にうかれていた。


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説明会の会場に到着。

ステキな担当者様がお出迎えしてくれた。

「ようこそお越しくださいました。」

「お待ちしておりました。」

え!

なんて丁寧に扱ってくれるの?!

それだけでいい気分に、なってしまうではないか。

立派な高層ビルの、かなり上の方の階に会場はあった。

そのビルがまた、厳かで。

入り口には警備員さんがいたりして。

静かで広々としたフロア。

コツコツとパンプスの音がひびく。

「わぁー!すごい!」

「こんな立派なビルの中にある会社の一員となれるの?」

「嬉しすぎるー」

そんなワクワク気分で始まった、センセイへの道。

説明会の会場へ入り、席についた。

これから始まるステキライフを夢見て。

まさかこれが、苦しい日々への入り口であるとは、その時は知る由もなく。

(つづく)

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