ウォーキング中に
エレベーターの中とかで、目が合った赤ちゃんにほほえみかけると泣かれる。
そんな経験ばかりの私に、珍しいことが起こりました。
ウォーキングをしていたところ、前を小学生の男の子が歩いていました。下校中のようでした。
手足が細くて、ひょろっとした体型。四年生か五年生ぐらいでしょうか。深緑色のランドセルを背負っています。
「すてきな色のランドセルだね」
そう声をかけたかったのですが、怖がられるかもと思い、黙って追いぬくことにしました。すると、まるで私の気持ちを見透かしたかのように、彼のほうから声をかけてきたのです。
「すいません! 今日は5月の何日ですか!」
「ええと、今日は23日ですよ」
Apple Watchを見ながらそう答えると
「おお、すげー!」
と感心してくれました。
これで終わりかと思いきや、
「ぼく、毎日このノートに日記をつけているんです。もう3冊め」
と得意げに言う。見ると、歩きながら手のひらサイズの小さな青いノートに鉛筆で日付を書き込んでいます。
「そんなにつづいてるんだ。何を書いているの?」
「失敗したことや、できなかったことを書くんです。あとで見返すと、反省になるから」
「すごいね、大人でもそんなことやってる人はそんなにいないと思うよ。でも、いいことをした時やうれしかったことなんかも書くといいよ」
「そうですね」
その後は、教室で飼ってる太めのメダカに友だちが「メタボくん」と名前をつけておかしかったこと、浮き袋が膨らんでしまう「浮遊病」にかかった金魚の治療法など、どんどん話してくれました。
三叉路で彼と私の歩く方向が変わりました。
どうやらここでお別れのようです。
「あなたのおうちはこっち? 私はこっち。では、またね。書きながら歩いて車や自転車にぶつからないように気をつけて」
「大丈夫です。慣れていますから」
彼はそのまままっすぐ、私は坂の上の自宅に向かって歩きます。
坂の途中、家々がとぎれて坂の下が見わたせる場所にさしかかったとき。
「さよーならー!」
さっきの男の子が遠くのマンションの駐車場から大声を出して手を振ってくれています。
ちょっと恥ずかしかったけど、私も大声でこたえて手を振りました。
私とすれちがったおばさんが、不思議そうにこちらを眺めていました。
終わり。
また、あの子に会って話しかけられたいな。