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遠い親戚だと思っている

私は熊本市で生まれ育ちました。(30歳くらいまでですけど)
小中学校は熊本城の真下に位置し、
授業中は窓の外に見えるお城をぼんやり眺めては授業とは関係ないことばかり考えていました。

私が通っていた学校のすぐそばに
文豪・夏目漱石の記念館がありました。
(正確には「夏目漱石内坪井旧居」という名です)

徒歩5分で行ける距離。
こういう「学べる場所」が近くにある場合、どうなるかというと、
しょっちゅうそこに行くことになります。
特に当時の小中学校は自由度が高く、
先生もなんだかんだ理由をつけては夏目漱石記念館に連れていってくれました。
旧居を記念館にしてるわけですから広くもなく、
当時展示してあった資料もそう変わることもない。
いつ行っても同じものを見て同じ話を聞くの繰り返し。それでも楽しかったのを覚えています。

こんなに漱石漬けで育った子どもはどのようになるかというと…

漱石を親戚のおじさんのような目で見始めます。

いや…
ごめんなさい。
そんなことを考えていたのは私だけかもしれないんですけど、
明らかに「親近感」みたいなものを感じていました。
自分に1番近しい文豪は夏目漱石。
血のつながりも何もない。生きた時代も違う。それなのに、千円札になった夏目漱石の姿に誇らしさを感じていましたし、
途中で野口英世に変わった時には
(私の漱石じゃなくなった…)と寂しさを感じたほどです。

そんな、
「文豪といえば夏目漱石!」で育ったのに、
高校生の時に『こころ』という作品に出会って、
「え?漱石って実は暗いのかな?」と心配になります。

子どもの頃は『坊ちゃん』『吾輩は猫である』等の代表作に
ユーモア、ポップさのようなものを感じていて、
勝手に
「万人が認める明るい話を書くおじさま」だと思っていました。
それが、他の作品に触れれば
「深い。そして暗い…いたたまれない…」
ような気持ちになって、
混乱したんですよね、私の中で。

その後、谷崎潤一郎や菊池寛を好きになって、
あの頃の混乱をすっかり忘れていた私でしたが、
ここ数年、家に引きこもっている間に漱石の作品を再読しまして、

漱石ブーム、再燃!!!

「ブーム」というより、
「私のおじさまはやっぱりすごいおじさまだった!」と、再認識。

綺麗なんですよね、文章が。
繊細なのにテンポが良くて読みやすい。
品と勢いが混じった感じや、表現力のすごさに圧倒されます。
今さらですが、
「さすが文豪だなぁ」と。

私が特に好きな作品はこれ!

夢十夜

最近では高校の教科書にも載っているそうです。
「こんな夢を見た」で始まるお話が10個。
夢の話を語るていで進んでいくので、
1つ1つのお話は独立していますし、
「ちょっと何言ってるんだろう」と思うくらい、てんでばらばらの世界観ですが、
10個の中に、現実も幻想も綺麗なことも不安に思っていることもすべて詰め込まれていて、
楽しいんです。
ちょっと不気味だけど楽しい。

今は、憧れすぎて
「こんなお話を書いてみたい」と思うようになりました。

私が好きなのは第一夜。
仄暗い雰囲気ですが描写が綺麗でロマンチックです。
親戚だと思い始めるくらい慕っていたおじさまが、こんなに美しいお話を書いたんだと思うと嬉しい!!(←何の血縁関係もないのにいまだそう思ってます。すみません)

今さらですが、
漱石の『夢十夜』おすすめです。


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