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2拠点生活エッセイ第12回「5人暮らしの春」

小学生のとき、仲良くなった友人と将来同居する計画を練るのが楽しかった。

きっかけはもう思い出せないが、おそらく当時好きだったマンガかドラマの影響だろう。

新聞折り込みに入る電気屋さんと家具屋さんの大きなチラシを開いて、家電や家具の値段を調べてメモ帳やノートに書き出し「ひとり10万円あったらできるで」などおおざっぱなやりくりを話し合う。

家賃や水道・光熱費、食費などの支払いを無視した初期投資だけで始められる希望の生活。
住む場所は福知山市内のどこかのアパートにしていたと思う。

現実にはその友人たちとは成人式に会ったきり、もう何年も会っていない。
SNSを通して元気に生きていることは知っているし、実際会えば話もするだろうけれど今後の人生で彼女らと同居することはないだろう。

それでも、気の合う人と同居したいという気持ちは私の中に残っていたのか、この3月から京都市・福知山市の家にそれぞれ1人ずつ同居人を迎えることになった。

京都市の家は以前書いたように最大9人が住めたほど非常に広いし、福知山市の家も1階を農家民宿の客室として使っていてもまだ部屋があまる。

行ったり来たりの生活でそれぞれの家にいる時間も限られる中、私たちがいないときに誰かが居てくれたら家には風が通るし、娘との関わりは一対一よりも別の誰かが居てくれた方が格段に余裕を持てるという実感から、いっしょに暮らしながら娘とも関わってくれる人がいたら面白いね〜と以前から話していたところ、同じ屋根の下に暮らすことを選んでくれる2人と出会えたのである。

福知山市の家には、Tさん。
3年前に知り合い、以来私が開いていた100円カフェに来てくれたり、地域イベントに参加してくれたりと、いつも一緒なわけではないけれど、継続して関わってきた人だった。

昨春、転職に伴う引っ越しを考えているという話をきいたとき「うちの家の2階が空いてますけど、どうですか?」と誘ってみたところ前向きに検討してくれて、ちょうど一年後に住んでくれることになった。

京都市の家の家族は、Hさん。
大学時代からの友人の夫の妹で、昨年の秋頃に紹介された。京都市の家はあちこちに先住人たちの荷物がいっぱいで住んでもらう部屋には改修が不可欠・・いまどきの若い人が憧れるような条件は何もないので、初めて面と向かったときは「果たして気に入ってもらえるだろうか?」ととても緊張した。

でもHさん本人は、話をもらった時点で住むことを決めたよと教えてくれて、拍子抜けしてホッとしたことを覚えている。

2人と住み始めて1ヶ月。困ったことはまだない。

それどころか案外良くてびっくりしているくらいだ。

Tさんは、私たちが早朝に雲原から京都へ移動するとき、わざわざ家から出て、玄関をまぶしく照らしながら昇ってくる太陽に目を細めながら、光の中へ出発する私たちを見送ってくれる。

Hさんは、「今日はなんか疲れたんでアジフライ買って来ました。味噌汁もあるんで豆腐いれて食べませんか?」と、同じく疲れたので夫が非常食として買ってきたレトルトおでんを食べようとしていた私たちといっしょに食卓を囲んでくれる。

家族3人、息のあった生活もとても楽しんできたけれど、5人の暮らしは徐々に拓けていく感じと賑やかさが楽しい。

今週末は、京都市で早々に咲ききった桜を見にHさんと4人でおでかけしたあと、Tさんの待つ雲原へ帰る。

行く先々の人と関わる2拠点生活が、また新たな春を迎える。

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この記事は2018年3月31日に京都府福知山市の魅力を発信するウェブメディア『ふくてぃーやま』に掲載された文章です。掲載期間終了のため、株式会社Locatellさまに許可を得て、2023年9月29日よりミナックル(吉田美奈子)のnoteにて公開します。
文章内の出来事や考え方は掲載当時のもので、現在のわたしの感覚と異なる点も多々ありますが、当時の様子を生々しく捉えて描けている部分もあるので修正はしていません。
2拠点生活は2022年4月3日に終了しました。福知山市から京都市への引っ越しを完了したときの気持ちはnoteのこちらの記事にあります。
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