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旧姓を名乗るとき、枯れた花に水をやるみたいな気持ちになる。


就職してはじめてまともにボーナスが出た時、私はめっっっっちゃいい枕を買った。
色々と測定して、細かく調整してもらえる枕。
38,500円。

調整代は無料なのだが、私の性格上の問題で7年間一度も再調整されることなく草臥れた高級枕。
2022年冬、ついに二度目の再調整へ向かった。


まず予約を取るのが億劫なのだ。
店舗に行くのも面倒。
調整するのも時間がかかるし。
なぜ買ったのだ高級枕、38,500円。


眠りは私にとって趣味、特技、そして救いだ。
一生のうちで◯割は睡眠の時間だ〜みたいのは知らない。
そういうのじゃなく、とにかく、私は睡眠を愛している。


店舗に着くとそこからは楽しくワクワクする。
微調整を繰り返し、どんどん枕が私の一部になる。
高級な羽毛布団もかけてもらえて、好き放題高級なマットレスを堪能する。
「寝るのが上手ですね。」
にこやかに店員さんに言われて私はその日、自他共に認める睡眠マスターになった。


電話で予約を取ったとき、名前を聞かれた。
現在の名前を言うと、向こうでパソコンを打つ音が聞こえる。
「あっ、登録したのは〇〇です。」
旧姓を名乗る。
「〇〇様ですね。」
旧姓で呼ばれる。
なんだかいなくなってしまった人の名前を呼んだような、変な気持ちになる。
捨ててしまったものを無意識に探して、もうないんだったと気付いたみたいな。
枯れた花に水をやるみたいな、虚無感に襲われる。


故郷と違って私の今住む地域は雪が降らない。
冬なのに、空が青くてまつ毛は絶対凍らない。

なんだかどんどん新しくなっていくなぁと思う。
年は重ねるのにどんどん新しくなる。

このザワザワした気持ちはなんだろうと考えると、ああ年が明けたからかと気付く。
今年はどんな年になるだろうか。
一に健康二に健康、三四に健康、五に健康。


最高になった高級枕と共に生きる2022年開幕。

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