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【読書記録】風と行く者/上橋菜穂子

「精霊の守り人」シリーズが好きだ。
上橋さんの作品は全部読んだが、本屋大賞を取った「鹿の王」よりも
やっぱり「守り人」シリーズが好きだ。
中でもジグロとのエピソードを描いた「闇の守り人」が好きなのだけれど、
この「風と行く者」にもジグロが出てくる。
バルサのその後と、そして回想シーンに若き日のバルサとジグロの旅。

シリーズの中で、ジグロはすでに亡くなっている。
親友の娘、バルサを助けて国から遠く異国を逃げ続けることとなったジグロ。
そのジグロに対する、拭い切ることのできない罪悪感と、
父親としてのジグロへの愛情。
複雑な思いを抱えながら、どうしても寄り添うことができずにいた
少女時代。
生前に、消化しきれなかった想いを
ジグロがもうすでに無い「精霊の守り人」の旅の中で
見つけ、生前の父と出逢い直し、
気づき、喪った悲しみと向き合っていく。
そもそも「守り人」シリーズの始まりで、
皇子チャグムを助け、旅をすること自体に、
バルサは若き日のジグロと自分を重ね合わせていた。

「人はみんな、どこか中途半端なまま死ぬもので、大切なことを伝えそこなったな、と思っても、もう伝えられないってことがたくさんあるんでしょうが、自分では気づかぬうちに伝えていることもあるのかもしれない。」
「風と行く者」バルサのセリフより
「父と過ごした日々のあれこれは、わたしの身にしみこんでいて、
ふとした折に浮きあがって、道を示してくれたりする。思いは血に流れている訳じゃなくて、生きてきた日々に宿っているものなんでしょう」
同上

喪った時に、何も返せていない、何も伝わっていない、
何もしていない、
まだまだ話したいこと、聞きたいことがたくさんあると思っていても
自分の中の父が息づいていて、
ふとした拍子に道を示してくれるんだろうか。
今、これを読んで、また一つ救われた気がした。
誰と話しても、自分一人で何を思っても
拭いきれない悲しみが、こうした物語の中の
登場人物の同じ悲しみに寄り添って、
ふとその悲しみも一緒に掬い上げてくれる時がある。

ファンタジーや物語は所詮、作りものでしょ、と
言う人がいるけれど、
その作りものの中に
真実味を帯びた言葉があって、
それに私は救われる。

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