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依存症・アディクションと「スティグマ」

社会的スティグマと自己スティグマ。依存症と回復に対する影響

依存症・アディクションは、世界中、日本中の多くの人々に影響を与える複雑な治療の必要な病気である。依存症からの回復に、社会的スティグマと自己スティグマが重要な障壁となることがあるので、紹介したい。

社会的スティグマとは、依存症を持つ人々が社会の中で受ける否定的な態度や差別的な扱いを指す。これには、否定的なステレオタイプ、差別、そして社会的孤立などが含まれる。これらの態度や信念は、依存症とその根本的な原因に関する理解の欠如、または依存症に関する報道の過剰な扱いによって強化されることがある。

一方、自己スティグマとは、依存症による自分自身への否定的な態度や信念の内面化を指す。依存症を持つ人々は、自分自身について恥ずかしさ、罪悪感、または自己否定感を抱くことがあり、自分自身を意志が弱い、道徳的に欠けているなどとみなすことがある。これは、低い自尊心を感じることにつながり、支援や治療を求めることにためらいが生じることと繋がる。

社会的スティグマと自己スティグマの両方は、依存症を持つ人々と回復プロセスに、悪影響を与える可能性が高い。そのため、ここでは、これらのスティグマがどのように現れるか、またこれらを克服するためにはどうすればよいか、また長期的な回復を達成する方法について探求してみる。

社会的スティグマ

依存症に関連する社会的スティグマの一般的な例には、以下のものが含まれる。

・否定的なステレオタイプ:依存症を持つ人々は、意志が弱い、道徳的に欠けているなどと描かれることがある。これは、依存症についての恥ずかしさや疑問を引き起こし、治療や支援を受けることをためらわせることがある。

・差別:依存症を持つ人々は、雇用、住居、その他の生活の面で差別に直面することがある。これは、安定を維持し、長期的な回復を達成することを困難にしてしまう場合もある。

・社会的孤立:依存症を持つ人々は、特定の社会グループや活動から阻害され、自分自身のコミュニティから孤立してしまうことがある。これは、孤独感や抑うつ感を生じさせ、断酒や断薬の継続を困難にすることがある。

自分の場合:こうしてnoteや書籍で、自分自身が、かつて依存症の状態であったことをオープンすることには、勇気が必要だった。依存行動を手放して10年経っているとはいえ、臨床心理士や公認心理師の名誉を汚すのではないか?とか、信用に値いしない人物だと思われるのではないか?などの恐れがあった。

私自身はこの恐れのために長年公の場でのカミングアウトを避けてきたが、米国でのMBRPの講師養成講座での他の専門職のマインドフルネス講師がさらっとカミングアウトをしているのを見て、わたしもこうありたい!と思ったので、カミングアウトするようになった。

マインドフルネスで、「ありのままの受容」が促進されたこともよかったのかもしれない。いろいろ苦労もあったが、乗り越えて少しずつよろよろと前に進んでいる自分(笑)を受けいられるようになったのだ。

実際カミングアウトしてみて、特に否定的な意見には出会ったことはないが(多分思っていても私には言わないのだと思うが)、むしろ事情をわかっても一緒に活動してくれている方々が増えて嬉しいし、感謝している。

ただし、そう楽観的なのかというとそうでもない。かなり前から、依存症業界で仕事をしていたので、周囲の援助職が裏で当事者性の強い援助職について、どんな陰口をいっていたのかをよく知っている。「自分の回復したやり方がだけが正しいと思っている」(主観的)とか、「気分にムラがありすぎる」「信用ならない」などの間接的・直接的ないろいろな批判(汗)も耳にしたことがあり、十分受けとめている。また、そういった声を自己スティグマとして内在化しすぎていることにもこの記事を書いていて気づいた。再検討が必要だ。

自己スティグマ

依存症に関する自己スティグマの一般的な例には、以下のものが含まれる。自己スティグマという言葉は最近まで知らなかったのだが、これまた回復を妨げる大きな要因になっていると思われる。

・内面化された恥:依存症を持つ人々は、自分自身について恥ずかしさや疑問を抱き、自分自身を意志が弱い、道徳的に欠けているとみなすことがある。これは、治療や支援を求めることをためらわせ、自分自身の改善に値しないと感じることがあるほどだ。

「依存症の根本には恥がある」

恥の克服は、依存症からの回復において、非常に大切なテーマである。この部分は、逆境体験と関係していることも多く、時間が必要である。恥について、自助グループでは、話すことが推奨される。そうすることで、恥が「共通の依存症を持つ人々の傾向なのだ」と知り、自分1人ではないと思うことができる。そうすることで恥の感覚から自由になることができる。

・低い自尊心:自己スティグマは、低い自尊心を引き起こすことがある。依存症を持つ人々は、依存症によって自分自身について否定的なイメージを持っており、自分自身について否定的な態度を持っていることが多く、根深い。表面的な依存症が回復しても、この部分はそのままであることもままある。

そもそも依存症になる背景に、恥の感覚があるのに、依存症が進行するにつれてますます恥の感覚が強まり、社会的な信用も失っていくので、当然自尊心も低くなる。かなり回復していても、自尊心は低いままである人も多い。 

・社会的孤立:依存症を持つ人々は、社会的孤立を感じることがある。自分自身について否定的な態度を持ち、周囲の人々によって否定される経験を複数体験することで、孤独感や不安感が引き起こされる。

これらの自己スティグマは、依存症と回復に対する重大な障壁となる可能性が高い。依存症を克服するためには、自己スティグマに気付き、適宜修正していくことが重要なのだが、これがなかなか難しい。まず、気づくこと。自己スティグマに呪われていないかどうか?を点検し、それを安全な場で分かち合う必要がある。批判的に自分を捉える観点は時に必要だが、自傷になるような捉え方はむしろ回復の障壁になってしまう。

「自分には子育ては無理だと思う」「自分は幸せになる資格はない」「決して成功することなどできないだろう」「自分なんかどうせだめだ」といった、自己スティグマに根深く苦しめられている声は数多く聞いたことがあるし、自分自身もそういった呪縛に苦しんだ時期がある。少しずつ恐れを手放し、できることを増やしていくことで、成長できると信じている。回復の段階に即し、適切な自己評価を下しているのかどうかを点検する必要があるだろう。

自己受容を深めるための取り組み

自己受容を深めるための具体的な取り組みとしてはどんなものがあるだろうか。

・治療や支援を受ける:治療や支援を受けることで、自分自身に対する肯定的なイメージを持ち、自分自身についての信頼を回復することが少しずつだができるようになる。くれぐれも、依存症についての理解が深い医療機関や相談機関を選ぶこと。それには、全国の精神保健福祉センターに問い合わせるのがよい。

依存症に理解のある援助職の方は、依存症の方々が回復に向かった行動を取るとともに喜んで支えてくれる。そのような積み重ねが、小さな自信となって内在化されていく。

・依存症について勉強する:依存症についての本を読んだりセミナーに参加することで、知識を深め、依存症や自分自身についての理解を深め、自己スティグマを克服することができる。日本での依存症の理解は欧米のものに比べるとまだまだ遅れていると言わざるを得ず、英語の文献をあたることもおすすめだ(翻訳ソフトを使って)。

・自分自身を許す:回復過程において、特に難しいのだが、依存症による過去の行動について、埋め合わせなどを行ったあとには、自分自身を責めることをやめ、自分自身を許していくことも必要な段階がくる。このステップには、時間がかかり、一緒に歩む仲間や、支援者、スポンサー(自助グループにおける相談役)も必要である。そのため、自助グループや、グループ療法、心理療法などに継続的に参加することが大切である。自分自身を許すこと少しずつできるようになると、自己肯定感を高めることができる。

わたしたちが罹っているのは、わかってくれる別の依存症者に話すことで治療できる病気です  ローズマリー オコナー

・自分自身が大切にしたい価値観を確認する:自分自身の価値観を改めて見直すことで、依存症による混乱から、自分自身を見失わないように回復し続けることができる。自分自身の価値観(友情、自然との触れ合い、創造性、自由、勤勉さなど)を持ち続けることで、自己スティグマを乗り越えていくことができる。下に紹介するワークブックでも価値観のワークを紹介している。

・セルフ・コンパッションやマインドフルネスの実践をする。:これらを実践することで、自己受容が進み、依存行動以外の選択肢を取ることができるようになる。また、自分に思いやりを向けることで、自己スティグマからの自己批判を楽にすることができ、自分自身の使命に気づき、行動していくことができる。少しずつ、自分にあったスピードで焦らず、マインドフルネスもセルフ・コンパッションの実践をはじめていくことをおすすめする。

おわりに

社会的スティグマと自己スティグマは、依存症と回復に対する重大な障壁となる可能性がある。これらのスティグマを克服するためには、依存症を持つ人々が自己理解を深め、自分自身について肯定的な態度を持つことができるようになることで、回復に向けた前向きなステップを踏むことができるようになる。

医療従事者また援助職は、上記のような依存症に対する偏見やスティグマを認識し、依存症の人々に道筋を示しながら、尊重して接することが重要である。また、依存症の持続的な治療や回復支援を提供することで、依存症と戦う人々が自己受容を深め、自己スティグマを克服することができるようになっていく。

社会全体としても、依存症に対するスティグマを減らすための取り組みが必要である。依存症は、単なる意志や性格の問題なのではなく、生物学的、心理学的、社会的な要因によって引き起こされる疾患であることを理解することがとても重要である。また、依存症を持つ人々には、治療と、再び社会に参加するための支援が必要であることを理解する必要もある。

依存症は、一人だけで克服することができる病気ではない。社会全体で、依存症に対するスティグマを減らし、依存症と戦う人々を支援することも大切なのだ。

https://note.com/mindful_therapy/n/n640102e5a790

参考文献:







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