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『ハイエナ 弁護士たちの生存ゲーム』 からみる甘くない大人の恋

正月明け最初の三連休は巣篭もりと決め込み、Netflixで韓国ドラマ「ハイエナ ー弁護士たちの生存ゲームー」を完走。今年初完走の連ドラだ。


ところで、韓国ドラマは序盤退屈なことが少なくないが、このドラマは第1話からグイグイくる。あっという間に物語に引き込まれ、あっという間に観終えてしまった。
とにかく、続きがすぐに観たくなるやつ。


何と言っても登場人物のキャラクターとキャストがヨイのだ。

このドラマの主役の一人チョン・グムジャを演じるのはキム・ヘス。
たとえ法を犯そうとも、手段を選ばず勝ちを取りにいくお金が大好きな弁護士役だ。
そしてもう一人の主役、チュ・ジフン演じるユン・ヒジェは、大手法律事務所ソン&キムのエース。若きパートナー弁護士として活躍しているという設定。

この二人を中心に弁護士たちの対決や攻防がテンポよく描かれる一方で、恋愛要素もほどよく盛り込まれていていて、主役の二人の関係の変化に伴う「甘くない大人の恋」を堪能できる。

ここでは、その「甘くない大人の恋」を中心に、主役の二人について感じことを綴ってみたい。

1.  雑草的にたくましい女とエリート男の恋が意外と秀逸

ヒジェは、顔良し、育ちよし、地位あり、実力ありのピカピカの男。
自信家で態度も傲慢。ちょっとイケ好かない。

そんな彼が年上の女(グムジャ)に恋をする。が、実は彼女はヒジェが裁判で戦う被告側の弁護士だった。裁判の証拠を手に入れるためにグムジャが名前や経歴を偽ってヒジェに近づいたのだ。

自身満々だったヒジェは、騙されていたことを知りプライドを粉々に打ち砕かれる。

そりゃそうだ。

だってエリートを絵に描いたような人物がヒジェ。彼にとっては屈辱以外の何物でもない。
が、なぜかグムジャが気になる。
許せないのに嫌いになれないという矛盾に悩まされ悶々とする。


「鼻持ちならぬエリート弁護士が騙され、正反対のタイプの女に振り回されたあげく、あれよあれよと彼女ペースにはまっていく」

この展開、既視感がないわけではないが全くもって退屈しなかった。
それもこれもキム・ヘスとチュ・ジフンの味ある演技があってこそ。

特に、恋と裁判に負けた失意のヒジェの感情の表現が秀逸。
グムジャにコケにされ崩壊したプライドと、その対極にある彼女に抱く未練を、チュ・ジフンが余すことなく演じている。

騙されたのにも関わらずグムジャを憎みきれない自分が許せない一方で、彼女への気持ちを隠しきることもできない。
恋敵が現れればわかりやすく嫉妬もするし、クールを気取っているわりには妙に人間味のある男、それがユン・ヒジェなのだ。


一方の、キム・ヘス演じるグムジャのキャラクターはかなり強烈。
涼しい顔で人を陥れたかと思えば、ヤクザに向かって凄むこともある。

彼女は「スリムで髪の長いキレイな女」などとという平凡なヒロイン像からは程遠く、グラマラスな体にキリリとしたショートカット。個性溢るる女なのだ。
一方で、美人だけど日常ではトレーニングウェアを愛用し、言動・行動共にガサツ。
雑草のようなたくましさを持ち合わせたちょっと変わった中年女でもある。

そんなグムジャは、キム・ヘスが演じるからこその独特の凄みがあり、視聴者をグッと惹きつける。

つまりは、主役の二人のキャスティングがあってこその「ハイエナ」。

これ、間違いない。


2. 甘くない大人の恋

相手を出し抜き合う弁護士たちの戦いや、法曹界の政治・権力への野望など、リーガルドラマとしてのストーリーがこのドラマの見どころなのは疑いの余地はない。
が、対立するグムジャとヒジェの関係の変化がもう一つのキモでもある。

「関係の変化」とは、すなわち二人の気持ちの変化であり、つまりは「恋」。
時に対立し、時に協力しながら、二人の気持ちが徐々に変化していく様子が丁寧に描かれていて、視聴者は二人の感情の行方がとても気になる。

そしてなんというか、この二人の関係がまったく甘くないんだな。
甘くないというか、甘ったるくない

大人の彼らはお互いの気持ちや出方を探り合いながらも、表面的には冷静を装う。

しかし、この二人の探り合いは大抵の場合、秘密の多いグムジャの方に軍配があがる。彼女はこの探り合いの過程を楽しんでいるところがあり、つまりはゲーム的。
それも含め、とにかく大人の恋なのだ。

が、グムジャだって全くヒジェを相手にしていないわけではない。
このわかりにくさというか、一筋縄ではいかない感情の複雑さがまたヨイのだ。

始まりはグムジャが仕掛けた偽りの恋だったとしても、一時期は恋人同士だったわけで、微妙な感情が二人の間で揺れている。また、日頃はクールな関係を保っていても、相手が辛い時にはさりげなく支えることも忘れない。


うん。これはかなり悪くない関係。

だが、そもそも年上のグムジャは恋愛にはそれほど興味がない。それがヒジェにとっては不利に働く。
彼だけが(グムジャがつれないゆえに)どんどん彼女への想いが募っていくのだ。
この、クールな年上女を追っかけるイケてる年下男という構図も、物語を面白くしている要素のひとつだ。


さて、グムジャは恋愛に興味がないのは、過去の辛い経験が大きく影響していると想像する。結局のところ男を信じていないのかも。本音を見せないのも自分を守るための手段のひとつなのだろうし。
いずれにしても、グムジャは子供の頃に地獄を見たゆえ、腹が座っていて安定感がある。

一方のヒジェは、仕事においては冷静沈着と評されても意外と感情の振れ幅が大きい。というか時に子供。

その非対称性は、お互いの足りないところを補完しあえると言う意味で相性のよさにも通ずる。違うからこそのぶつかり合いもあるけれど、それが時に起爆剤となりお互いの感情に火をつける要因にもなる。

とにかく、甘くないけど、刺激し合う大人の恋は見応えがあるのだ。


3. キャラクターアーク的に二人を分析してみる

主役の二人が全く正反対の役割をになっているのがこのドラマ。

キャラクターも然りで、グムジャは「フラットなアーク」としてこの物語の中心にいる。
(キャラクターアークとはキャラクターの変化の軌跡)

「フラット」なので、意味どおりに「平坦」。
主人公が初めから完成しており変化しないのだ。

例えば、グムジャは自分の中に、辛い経験から学んだ確固たる「真実」を持っていて自身の信念を曲げることはない。
つまるところ、彼女は変わらない。

その一方で、彼女の影響を受けた周囲の人間が変わっていく。
それこそがフラットなアークの特徴なのだ。


そしてその、「グムジャによって変わっていく周囲の人代表」がもう一人の主役ヒジェ。
泥臭いやり方で戦う「雑草女弁護士」を否定していた彼は、やがて彼女の実力を認め、彼女を信じ、慣れ親しんだ世界から飛び出し変化を遂げる。

要するに、ヒジェは「ポジティブなアーク」を辿っているのだ。
そういう意味において「ハイエナ」はヒジェにとっての成長物語でもある。



さて、何もかもが対局にある二人。


叩き上げとエリート。
無名弁護士と大手弁護士事務所のパートナー弁護士。
辛い過去を持つ女と恵まれた環境で育った男。

そして、変わらない女と変えられていく男。

何はともあれ、変わっていくヒジュ、変わっていく二人の関係、その過程を存分に楽しんだ。


次はキム・ヘス主演の「シグナル」を観る予定。

昨年「愛の不時着」から始まったドラマ生活、2021年初作品は当たり。
良きスタートが切れました。



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