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「文士はやらねど高いびき」の女性奴隷論

日本でも、子育て女性の不当な立場についての議論が沸騰してきているのは、嬉しいことです。

机上の理論が目立つのは仕方がないのかな、とも思います。だって実践者のママたちは、責任あるフルタイムの仕事に就いた上に、現状をレポートする余裕なんかありませんからね。私も育児中は、そんなひとりでした。

ワンオペ育児をやっていない人たちが、統計やら他人の体験からの分析を発表しているよう。さすがに共感を集めている主張の多くは、的を射ています。

そういう評論的なお仕事は、世の中に必要でしょう。ステイタスの高い人たちがそれをやっているのも、当然といえば当然。だけど経験者として、「なんか違〜う」と感じるんですよね。商売とはいえ、人気取りの要素が入っているようで……。

音楽ジャンルで言えば、ヘビメタ・シャウト系のアジテーション・ソング? 不満を感じている人たちを煽っているみたいな……。

例えば、「主婦の無料労働は奴隷制」論です。そんな不満を持つ女性にしたら、「よくぞ言ってくれた!」と大拍手でしょう。

確かにそういう側面はあるにしても、人が人を奴隷扱いするのは、なにも夫婦関係には限らないです。

以前の投稿で書いた通り、若いときの私は妹の親代わりをして、育児に懲りました↓。妹の世話がイヤだったからではなく、奴隷扱いされたからです。

生き物の自然な心理として、下手に出て尽くしてくれる個体に対しては、高飛車になるものでは。生きる知恵のようなもの?

なぜこんなに寛大かというと……。今の私は、妹が私にしていたのと似たようなことを夫にしているからです。日本に帰国時の私は、東京宅に住む夫に毎食好みの品を作ってもらい、食器洗いもお任せ。

夫作のトマトファルシーが好物

妹の世話をしていた時には、私も夫と同じ奉仕者。お肉が嫌いなのに、妹が好きな肉料理ばかり作っていました。

当時の私は売れないバンドのキーボーディスト。ライターや英語講師などの副業掛け持ちで、超多忙でした。一方、妹はヒマを持て余した高校不登校〜大学生。それでも、妹を応援したい一心で、疲れ切った体にムチ打って全ての家事を引き受けていたのです。

休日は自分の予定をキャンセルしてでも、妹に頼まれた買い物。ネットショップの時代ではなく、リクエストの品を探して1日中歩き回りました。ようやく見つけて買って帰っても「こんなのじゃない」と怒られるのが常。

ある時、戦争のような1日を終えて帰宅すると、キッチンの流しに汚れたお皿とカトラリーが置いてありました。いつもなら黙って洗うところですが、この日はなぜか気が立っていて……。

部屋から出てきた妹に、「昼間に使ったものは、洗っておいてくれない?」と、丁寧な口調を心がけて頼みました。すると妹は敵意をむき出しにして言いました。

「27歳にもなって、くだらない」

え??

当時、女性の結婚は「クリスマスケーキ」。25歳を過ぎれば売れ残りです。20歳の妹から見れば、27歳は生きているだけで「くだらない」存在かも。それにしても、あんまりな言葉……。

ですが、結婚年齢が上がって自由に見える今の世でも、女性の奴隷扱いはさして変わらないよう。(上記の前記事にも事例があるので、よろしければ……)

というわけで、奴隷は子育て女性だけではありません。また、「パワーキャリア女性が家事育児を外注して、従事する女性を奴隷化」という主張も、二つの意味で必ずしも当たってはいないと思います。 

ひとつには、アメリカであれば都市部でしか当たってないから。例えば私が住むニューヨークのレストランなど飲食業では、低賃金の不法労働者なしには経営が立ち行かないと言われます。

ベビーシッターも同じ。私は就労ビザを取る前は学生ビザで、語学学校に通っていました。生徒たちは不法アルバイトをするしかなく、女性に人気なのがベビーシッターでした。 

クラスメイトのローズは子ども好きで、シッターを担当している女の子が「可愛いんだ」と、いつも楽しそうに話していました。みんながそんな好条件ではないでしょうが、少なくとも奴隷というのは言いすぎ。ママさんともぐりアルバイターの双方にとって、良いシステムではないでしょうか。

飲食業と同じで、ヤミ賃金だからこそ、ニューヨークのママたちはシッターを雇えるのです。私の元ルームメイトのお姉さんは、コロラド州に住む2児のママ。ルームメイトはちょくちょく「姉の手伝いに」コロラド州まで飛んでいました。

不思議に思って「なんでお姉さんはベビーシッターを雇わないの?」と聞いてビックリ。「雇えるわけない」というんです。なぜならコロラド州には移民なんて殆どいなくて、ミリオネアか何かじゃない限り無理なんだそう。

ちなみにこのお姉さんは、コロンビア大学卒の薬剤師さん。ニューヨークでは有名会社に勤めていたバリキャリです。「パワーママが雇われ女子を奴隷にしている」という主張は、ピンと来ませんね。

あともうひとつ、奴隷論の矛盾を感じる点は、「パワーママは家事外注で乗り切っている」という視点。そういう人もいるでしょうが、みんなではありません。私の娘は大企業勤務の総合職ですけど、私と同じで外注なんてしていません。

同ランクの娘のご友人グループも同じ。上記記事でお話しした私の又従兄弟の娘さんは、政府系金融にお勤めのリアル・エリート。だけど、外注の話は聞きませんね。アパレルにお勤めの娘婿さまは洗濯物を畳むのが上手なのだと、又従兄弟は頼もしげに話していました。

以上でひとつ言えるのは、子育てしてない有名人の悲観論を気にしても意味ないってこと。

奴隷扱いを知る私だから思います。メディアやネットで言われるような「奴隷かどうか」よりも、自分がそういう無料奉仕をすることの意味を考えたほうがいいです。

散々だった私の妹ですが、結婚・出産後にその強気を活かして、難関の手話通訳・全国と東京都の両資格を取得。テレビの政見放送で立派に通訳を務める妹の姿に涙しました。

俗に「滂沱の涙」と言いますが……。受け皿に洗面器が要るほど、涙ってとめどなく出るものなんだ……と初めて知った日でした。