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恋の忘れかた

恋の忘れ方。忘れるまでなぞってなぞってなぞりたおす、これである。電話したい、でももうかけちゃいけないことはわかっている。拷問である。電話番号もLINEも消せないでいる。送らない、送れない長いメッセージを書いては消し、消しては書いている。一番仲が良かった頃のLINEのやりとりをスマホに穴があくほど見つめている。なんでこんなことになっちゃったんだろう?何がいけなかったんだろう?どうすればよかったんだろう?

忘れるなんて、忘れてないうちは、絶対に無理なのだ。忙しくするのはいい。思い出すなといったって無理なんだから、今まで恋愛に気持ちを全部持っていかれてた分、髪振り乱して気合い入れて仕事に集中すればいいんだ。そう思って未練を振り切ったのに、ふと心の隙間に楽しかった頃の鮮明な記憶が流れ込んでくるからまた泣いてしまう。まるで不意打ちの暴力のようだ。テレワークでよかった。流れる涙はわざと拭かずにキーボードを叩いている。今なにしてる?私こんなに泣いてるよ?声が聞きたい。「泣くなよ」って、抱きしめて。

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私、恋愛小説も書けるかもしれない。なぜなら私は今、失恋などしていないからだ。これは、自分が失恋したときのことを思い出しながら書いたものだ。

30代の後半まで、私は失恋マスターだった。面白いぐらい失恋ばかりしていた。自分に合わない人と無理矢理うまくいかせようと、自分をたっぷり犠牲にして、派手に振られて何度死にぞこないみたいな顔で出勤しただろう。背中が痛くて仕事どころじゃなかった(背中にナイフが刺さったみたいに痛かった。心が傷ついて)。

「あれは相性が悪かったんだ。私のどこかが悪くてフラれたんじゃなくて、合わなかったから相手から去ってくれたんだ」と冷静になれるのは、散々泣きじゃくって、すがってすがってまたフラれて、もう完全に復縁の可能性もないとわかって「てか、あれって付き合ってたのかな?」なんて思えて、そして私もいつしか彼のことを思い出しもしなくなった頃だ。

あきらかに相性が悪いのに、「この付き合いをうまくいかせる」ことが目的になってしまって、そこまでの道のりや、そもそも一緒にやっていけそうな相手なのかどうかを見極めもせずにすぐにどっぷりと溺れた。男の本当の優しさと性欲の見極めができなかった。人間的に全然なってない奴もいたし、どう考えても私に合っていない人もいた。盲目になってしまった時点で完全に負けなのだ。うまくいかなくなると「私が変わればいい」「悪いところは直すから、お願いだから私から去らないで」自分を叩き売りするみたいに、悲しいくらいに自分を大事にしない恋愛ばかりしていた。そんな風にすがることって、相手から去られてしまうことなんかよりももっと悲しい。

今思うと、見捨てられ不安が強かった。うまくいかないのは自分のせいだと思っていたし、自分が変わることで交際が続くなら望むとおりに変わりたいと、完全にまちがった方向に前向きだった。そんなんだから思いやりのない男はどんどん調子づいてパワーバランスは完全に崩れる。何でも私が悪いことになって、私は謝ってばかりになる。イーブンな関係を築けない。自分を大切にしてくれる人とそうでない人のちがいがわからない。甘い言葉で騙される。男の本音は態度、行動に出る。それがわからなかった。

恋愛がうまくいかないことと、私と父親との関係が影響しているのかどうか、たぶんしているのだけれど、今回の記事ではその分析はしないでおく。

所詮他人どうしなので、ぶつかったり理解し合えないことがあるのは大前提だ。でも、この人といると、自分のいいところが最大限に引き出される、というのがいい恋愛、いい関係ではないかなと思う。

忘れ去ってしまうまでは。あの人のてのひらの温かさや笑顔や口癖や優しい匂いをもう思い出そうとしないと思い出せなくなるまでは。ぐちゃぐちゃに泣くしかない。写真は削除しなくていい。思い出の曲をかけて泣こう。送らない手紙を書こう。

私はあまりに辛すぎて付き合ってた人が住んでた最寄りの駅まで行ってしばらく待っていたことがある。だいたい帰ってくるだろう時間に合わせて駅前で立って待っていたが、ついに彼は現れなかった。もしかしたら私の姿に先に気付いて気味悪がってそっと逃げられたのかもしれないが。1時間は待っただろうか。家まで行ってしまったらストーカーになると思って、あきらめて帰って来た。

もう、あっけないくらいどうでもよくなる時がくる。あんなに好きだったのは何だったの?というくらいに。恋愛中は脳から麻薬物質がドバドバ出てるから、絶たれると禁断症状がきっついのだ、惚れた分だけ。大好きだった笑顔の写真も無感情で削除できる日がくる。「あぁ、そんな人もいたね(笑)」とネタにできる日がくる。信じられないかもしれないけど、悲しいくらいに忘れてしまう日がくる。それまでは、浸って浸って浸りまくるしか、忘れる方法はないのではないかと思っている。


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