見出し画像

Fan letter 9  名曲の呪縛☆小田和正と西城秀樹

 「#眠れない夜」のお題は、ロングランお題だなと思う。
 私がnoteを始めたころにはもう、ひっそりといつもそこにあったような気がする。

 眠れない夜、と聞くと、昔の歌を思い出す。

 オフコース。
 ボーカルの小田和正氏は解散後ソロとして活躍し、齢70を過ぎていまもなお、以前と変わりのない高音の美声をキープしている。

 すごい。本当にすごい。声変わりしていないという噂もあるらしいが、さすがにそれはないようだ。とにかく、昔の曲を今聞いても、全く遜色のない稀有なシンガーだと思う。
 75歳でこの高音?しかも美しさは弥増いやますほど。
 いや、まったく、奇跡のように思える。

 私はものすごくオフコースが好きだったことがないし、ソロになった小田さんももちろん嫌いではないがそこまで好きだったことはない。とはいえ、いつも気になる存在だった。

 小田さんには、神奈川県随一の進学校から東北大に進学、大学院は早稲田に行くという超高学歴エリートボーカリストというイメージがあって、小田さんを思い浮かべると「音楽でなくても食べていけたであろうに、天はひとりの人に二物も三物も与えるんだな」ということを、スイッチを入れたように必ず思う。「癖」がついている。

 スイッチを入れたように。

 私の小田さんに対する感覚はまさにそれで、どういうわけか、小田さんのことを考えたとき、そして曲を聞いたとき、不思議にスイッチがカチカチと入り、そして時折、スイッチが壊れる。

 オフコース時代のヒット曲に「眠れぬ夜」という曲がある。そこに「眠れない夜と、雨の日には わすれかけてた 愛がよみがえる」という歌詞があった。曲も印象的だし、何より歌詞。全歌詞をここに書きたいくらいだ。

 「#眠れない夜に」のカテゴリーでは、おそらくすでにどなたかがこの曲をもとに書いているであろうと思われるが、秋の驟雨で久しぶりに一日中雨だった先日、私の頭の中でこの曲が牛の反芻のような勢いでリフレインされていたので、仕方がないので書き出させていただきたいと思う。

 「眠れぬ夜」は、こんな曲だ。

 どうやら「僕」の彼女は彼を裏切っていたらしい。二股をかけていたのか、それとも何らかの嘘をついたのか。とにかく「僕」は彼女を許せない。これまでの幸せな日々が台無しだ。泣いて謝っても許してあげるものか、と思っている。
 傷つけあった関係への、怒りと絶望がそこにある。「僕」の反応は若くて急進的だ。彼女の言動がきっかけで「僕」は彼女を突き放した。何を言っても傷つける言葉しか出てこない。そんな状態のまま、はっきり別れたのか、まだ途中なのか。「僕」の態度への、彼女からの反応がまだないのかもしれない。
 何もなかったかのように忘れたふりで暮らしているが、心は揺らぐ。もし彼女が戻ってきたら?拒絶できるかどうか、自信がない。そんな夢想をするほど、彼女に戻ってきてほしいという心も、どこかにはある。彼女のいない人生は闇だ。許さない、と虚勢を張っても、未練と葛藤している。そんな状態だからまだ新しい彼女もできない。孤独だ。眠れない夜と雨の日には、心に隙間が生まれる。思い出して心が囚われてしまう。
「眠れぬ夜」から作ってしまった物語

 オフコースというバンドは、Wikipediaではジャンルが「ポップス・ロック・フォーク」に分類されている。1970年代にフォーク全盛期にデビューし、ロックテイストも加味しつつ、日本の音楽シーンにおいて様々なジャンルがミックスしていってJ-POPになりはじめた1982年に解散している。

 オフコースのメンバーは小田さんの同級生が多いので全員理系の高学歴で、メンバーのひとりは解散後、建築士として著名になったらしい(これはこの間まで知らなかった)。

 1980年には、25歳の西城秀樹がこの曲をカバーしている。たぶん少しキーを下げていてオフコースとは雰囲気が違うが、西城秀樹の「眠れぬ夜」もいい。
 西城秀樹は改めて聞くと、すごく魅力的なシンガーだと思う。彼の全盛期は子供だったのでコアなファンにはならなかったが、もう少し早く生まれていたら追っかけていたかもしれない。

 「眠れぬ夜」を歌うヒデキは、ちょっとワイルドなのが売りだったアイドル・西城秀樹に、落ち着きとインテリジェンスという調味料がひと匙加えられるとこうなる、という感じだ。25歳。若さだけで勝負できなくなりつつある年齢に、この曲はぴったりだったのかもしれない。

愛に縛られて 動けなくなる なにげない言葉は傷つけてゆく
愛のない毎日は 自由な毎日 だれも僕を責めたり できはしないさ

 「愛にしばられて」「自由な毎日」。
 恋愛における「束縛」「囚われ」は厄介なものだ。別れたら自由になって晴れ晴れとするかと思いきや、別に誰も責めているわけではないのに責められているように感じ自分の不寛容さや冷たさが嫌になる。普段は色々と誤魔化せて、忘れたものと思っていても、ちょっと静かな環境になるとうっかり思い出して堂々巡りを続ける。
「僕」は彼女に執着しているというより、恋愛に執着しているようだ。

 そこまで湿っぽくないのは、これがちょっとアップテンポの曲だからだろう。もともと、小田和正氏はもっとゆっくりめの、バラードとしてこの曲を作ったそうだが、この曲はこのくらいの明るさがあって良かったと思う。

 しかしとにかく何がすごいといって、本当に「眠れない夜」と「雨の日」には、必ず!必ず!この歌を思い出すのだ。口ずさみさえする。声は小田さんだったりヒデキだったりするのだが、とにかく必ずスイッチオンだ。

 自分の昔の恋愛を思い出すのではない。この曲、この歌詞を思い出す。脳裏にプリントされているかのようだ。初めてこの曲を聴いてから、かれこれ40年。40年間、本当に「眠れない」「雨の日」には検索がかかったようにこの曲のスイッチが入り、なおかつそのスイッチが壊れたようにエンドレスリピートするから恐ろしい曲なのだ。

 まさにこれこそが呪縛。

 眠れない夜には、この曲の繰り返しに苦しむことがある。その末に眠れればいいのだが、眠れない夜というのは、そんなんじゃ眠れないから「眠れない夜」なのだ。

 なかなかに苦行を伴う名曲だ。

※ お題「#眠れない夜に」




この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?