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【日経新聞から学ぶ】ドル高進行、1985年のプラザ合意前の水準に迫る

1.円安ではなく、ドル高

円安ドル高が進行し、9月1日には1ドル140円を突破しました。

円140円台、24年ぶり安値 衰える景気浮揚力
円安が止まらない。1日のニューヨーク外国為替市場で一時、1998年8月以来24年ぶりに1ドル=140円台を付けた。米連邦準備理事会(FRB)が歴史的なペースで利上げを進めるなか、日米金利差の拡大を受け、今年に入って25円も円安が進んだ。日本の経済構造は変化し円安の景気浮揚力は衰えた。円安と向き合い、日本経済をどう活性化させるかが問われる。

(出典:日経新聞:2022年9月2日

実に24年ぶりの円安ですが、今回の円安進行は、円が安くなっているというよりも、ドルが世界の通貨に対して、強くなっているという側面が強そうです。

ドル高、プラザ合意前迫る
新興国に債務リスク 負担、10年で2倍に

一時1ドル=140円台まで進んだ円安の背景にはドル高の流れがある。1980年代以来の高インフレに直面した米国で金融引き締めが加速し、マネーが米国に集まっているためだ。幅広い通貨に対するドルの実力はドル高是正に向けた85年のプラザ合意前に迫る。ドル高は米金利高とあいまって新興国の対外債務の返済負担を高め、債務危機を誘発してきた。新興国債務の負担は約10年で2倍に膨らんでおり、リスクは無視できない。

(出典:日経新聞:2022年9月2日

では、実際にドルが強くなっているかどうか、ドルインデックスで確認してみます。ドルインデックスはユーロ・円・ポンド・スイスフランなど複数の主要国通貨に対する米ドルの相場を指数化したものです。個別の一通貨のみの為替レートよりも正確に国際経済におけるドルの価値を示すことができます。

(出典:TRADING ECONOMICS

ドルインデックスは9月1日木曜日に、最近の相場で乱高下に直面した後109を超え、20年ぶりの高水準まで上昇しました。8月25~27日に米国で開かれたジャクソンホール会議において、パウエルFRB議長が高インフレを抑えるために利上げを続ける姿勢を鮮明にしたことが影響していると思われます。FRB米連邦準備理事会はインフレ率が目標内に下がるまで金利を引き上げる意思であると市場は受け止めているようです。

クリーブランド連銀のロレッタ・メスター総裁は2日、「高いインフレ率を大幅に引き下げるには、FFレートを来年初めまでに『4%を多少上回る』水準に引き上げ、そこにとどめる必要があり、2023年の利下げは想定していないと述べました。市場では現在、9月に3回連続で75bps(0.75%)「ポイントの利上げが実施されるとの観測があり、投資家は9月3日に発表される米雇用統計において労働市場の強さを見ようとしています。現在、米国の非農業部門雇用者数は8月に30万人増加したと予想されており、より積極的な利上げの根拠になるのではと見られています。このように、当面はドルの金利が上がる材料が多くなっており、ドルが買われる様相です。つまりはドル高。

2.ドルは世界の通貨に対して高くなっている

では、実際に各国通貨に対するドルの強さを見てみましょう。ここではこの一年の動きを見てみます。

  • 対ユーロ

(出典:TRADING ECONOMICS

ユーロは継続的に下げています。1ユーロ価値が1ドルに並ぶ「パリティ(等価)」を20年ぶりに割り込んでいます。歴史的なユーロ安です。ユーロ圏のインフレ率は市場の予想以上に上昇したことが発表されました。EU統計局が8月31日に発表した消費者物価指数は前年同月比9.1%上昇。統計で遡れる1997年以降の最高を4カ月連続で更新しました。欧州はロシアからの供給不安で天然ガスが最高値を更新しています。今秋にかけて跳ね上がるとみられる光熱費を中心にインフレがさらに加速する可能性があります。そのため、ECB(ヨーロッパ中央銀行)の会合では、75bps(0.75%)の利上げを実施する可能性が高まっています。しかし、ECBメンバーの何人かは、さらに大幅な利上げを主張しています。

一方、エネルギー危機の深刻化に伴い、欧州の景気後退が迫っている懸念が高まり、共通通貨が重荷となっています。ロシアはノルドストリーム1パイプラインの保守点検のため、天然ガスの流れを3日間停止しました。同時に米ドルは安全資産としての魅力と、FRBが景気後退局面でもインフレ抑制のために積極的な引き締めを継続する姿勢を鮮明にしています。そのため、ユーロよりもドルの魅力が高く、歴史的なユーロ安となっています。

  • 対ポンド

(出典:TRADING ECONOMICS

英ポンドも対ドルに対して下落しています。英政府統計局(ONS)が8月17日に発表した7月の消費者物価指数は前年同月比10.1%上昇しました。そして、米シティーグループは家庭用電気、ガス上限価格の予測に基づき、来年1月に英国のインフレ率は18.6%でピークに達するとの見通しをレポートで示しています。こうしたインフレ率高騰の見通しにより、ポンドの購買力が低下し、英国経済はさらに打撃を受ける恐れがあることから、英ポンドは1.18ドルを超えて弱含み、2020年3月以来の安値を記録しています。金融市場では、英国中央銀行(BOE)が9月の会合で主要金利を50bps(0.5%)引き上げ、2.25%にすると予想されています。この場合、7回連続の利上げとなり、借入コストは2008年以来最高水準となります。また、首相交代の政治的な不透明感もポンド売りの材料となっています。

  • 対オーストラリアドル

(出典:TRADING ECONOMICS

オーストラリアドルも対ドルに対して下落しています。オーストラリアドルの弱さは、最大の貿易相手国である中国の景気懸念や、それに伴う資源安が上値を抑えています。市場は現在、オーストラリア準備銀行は9月に50bsp(0.5%)の追加利上げを実施し、金利は2023年前半に3.85%程度でピークに達するとみています。オーストラリア準備銀行は5月以来、毎月政策金利を引き上げ、新型コロナウイルス感染拡大前の1.75を上回る1.85%に引き上げています。しかし、先行きの利上げペースが米国と比べて鈍いとの見方もあり、重荷になっています。中国当局による景気対策の効果などが確認されない限り、オーストラリアドルの大幅な上昇は見込みにくいとの声が多い状況です。

  • 対カナダドル

(出典:TRADING ECONOMICS)※指標がユーロ、ポンドと逆転しています。

カナダドルは、FRBが積極的な引き締めを継続するとの見方や原油価格の下落が続く中、ドル高に圧迫されて1米ドル=1.32カナダドル近くまで下落し、2020年11月以来の水準にタッチしました。カナダ国内では、中央銀行が引き締めサイクルを継続し、9月7日の次回会合で75bpsの利上げを実施すると予想されています。カナダのインフレ率は7月に年率7.6%と6月の8.1%から冷え込みましたが、中央銀行の目標である2%をはるかに上回っており、失業率は4.9%と過去最低水準にあります。一方、カナダの第2四半期の経済成長率は年率3.3%で、カナダ中央銀行の予測値4.0%を下回り、アナリストの予想値4.4%を大きく下回りました。さらに、7月の経済活動は0.1%縮小し、景気の弱含みを示唆しています。

  • 韓国ウォン

(出典:TRADING ECONOMICS)※指標がユーロ、ポンドと逆転しています。

韓国銀行(中央銀行)は25日の金融通貨委員会で、政策金利を0.25%引き上げて、年2.50%としました。韓国でも消費者物価指数が上昇しており、7月は6.3%に達しました。これはアジア通貨危機の混乱以来となる24年ぶりの上げ幅です。しかし、このような中でも利上げ幅は縮小しています。その理由は不動産の高騰を背景に家計負債が急増しているためです。韓国では変動金利で住宅ローンを組む例が多く、政策金利を引き上げれば家計への利子負担が重くなり、消費減速に直結します。米韓金利差を意識しながらも、国内消費のことも考えなければならない難しい舵取りを迫られています。当面、ウォン安が続きそうです。

このように、いくつかの国の対ドル為替を見てみましたが、ドル高は間違いありません。円の下落率はユーロを越えますので、円安であることも事実ですが、それ以上に今回はドル高の要素が高そうです。

3.ロシアルーブルの不気味さ

最後にルーブルを見ておきましょう。実は世界の通貨がドルに対して安くなっているのに対して、ルーブルは堅調です。

(出典:TRADING ECONOMICS

ドルに対してルーブルは安定しており、ウクライナ侵攻前よりもむしろ強くなっています。これは、ロシア経済は西側が考えるよりも安定していることを意味しているのかもしれません。

では、日本円とロシアルーブルの為替を見てみましょう。

(出典:TRADING ECONOMICS)※指標がドルの場合と逆転しています。

日本円はロシアルーブルに対して、弱くなっています。ロシアのウクライナ侵攻以前よりもかなり円安ルーブル高です。こうしてみると、円の弱さは気になります。日本はロシアの非友好国。ロシアは非友好国に対して、決済はルーブルでとも言っています。今後、ロシアからのエネルギーの輸入がルーブル決済となれば、日本円の弱さは輸入物価の上昇につながります。

ロシア、ガス以外にもルーブル払い要求へ 対象拡大
ロシアのペスコフ大統領報道官は3日、天然ガス以外の輸出品についても、自国通貨ルーブルでの支払いを日本や米国、欧州などの輸入国に求めるとの見通しを示した。ロイター通信が伝えた。決済通貨としてのルーブルの需要を増やし、急落した為替相場を安定させる狙いがあるとみられる。

ロシアのプーチン大統領は3月31日、対ロ制裁を科した日米欧など「非友好国」の企業に対し、ロシア産天然ガスの輸入代金をルーブルで払うよう義務付ける大統領令に署名していた。ペスコフ氏はこうした措置の対象が「将来、新たな商品群にも拡大されることに疑いはない」と述べた。

具体的な品目には言及しなかったが、主要輸出品の石油や金属、穀物などが対象になる可能性がある。

ロシアはウクライナ侵攻でロシアへの金融制裁を科した米欧日などを非友好国に指定。天然ガスの購入代金をルーブルで支払うよう求めたが、主要7カ国(G7)は拒否することで一致している。

(出典:日本経済新聞2022年4月4日

これはルーブルが急落した際の報道ですが、今後も求めてくる可能性は十分にあります。通貨の価値は、国力を示しているとも言えますので、今後も注視しておく必要がありそうです。

まとめ

  • 円が24年ぶり歴史的な安値1ドル140円台へ

  • 円安というよりも、ドル高。

  • 世界の通貨に対してドルが強い。

  • ロシアルーブルは例外。ドルに対しても安定、円に対しては強い状況にある。


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