見出し画像

嵐にユーザーインタビューされたら、私はなんて答えようか。

この前、用事を済ませた帰りに本屋をぶらぶらしてたんです。そしたらこの本が置いてあって、新入りの嵐オタクで事業開発寄りのWebディレクターをやっている身としては興味を持たずにはいられず、即レジに持っていき購入しました。

私は新入りの嵐ファンです。無関心の期間20年、しかし活動休止を知ったことがトリガーとなって最終的には沼入りしました。これまでの音楽の趣味嗜好的にこんなに深く刺さる層ではないはずで、活動休止を知るまでは見向きもしないアーティストでした。

この記事は、上記の本に感化されつつ、そんな嵐を事業として捉えた場合のブランディングやマーケティングに対する私なりの考察を書いております。


無関心層が熱狂し継続顧客となるまでのカスタマージャーニーはどんな感じになるだろう

仕事柄ブランディングとかマーケティングとかそういう視点でものを考えるクセがついているので、嵐を好きだなと自認したとき、正直にいうと「事業としての嵐って、なんかすごいのでは」という視点から嵐を観ていました。

上記で述べた通り、嵐がデビューしてから20年近くも無関心エリアにいるアーティストだったんです。無関心だったはずなのに、なぜ私は嵐の沼にハマったのか……。

でもまあ好きなもんは好きだ!!!それでいいじゃないか!!!と思っていたんですが、先日出会った本を読んで思ったのは、無関心層が熱狂し継続顧客となるまでの華麗な戦略を紐解いてみたいという気持ちでした。

なので、私というユーザー(いや、ファン!)の歩んできた道のりを整理したいと思います。

爆発的な感情をもって熱狂した私の裏側で、冷静沈着な私は常々分析をしていたので、私が私にユーザーインタビューをしながらカスタマージャーニー的なものを描いてみようと思います。


フェーズ1:認知

嵐は21年も継続してきたので、カスタマージャーニーの始まりはずっと昔、デビュー当時にさかのぼります。

1999年〜 嵐を知る
私が12歳のとき嵐デビュー。友達が櫻井くん推しだったことを覚えている。高校生になったとき木更津キャッツアイに櫻井くんが出ていて話題だった(私は千葉県民)。修学旅行で花より男子をみんなで観た記憶がある。だが私自身V系バンギャだったためあまり興味がなかったし、無関心だった。シングル曲もわかるものとわからないものがあった。

デビューから活動休止を宣言するまでの間、超絶無関心エリアにいるアーティストでした。ペルソナ像から漏れなく外れるタイプの趣味嗜好です(ジャニーズ好きなバンギャ友達もたくさんいたけど、私は違うタイプでした)。でもテレビを観ればメンバーを見かける、友達との会話で時々出てくる、のようにタッチポイントはそこそこあるので、意識に登ってくる→無関心を浅く行ったり来たりしていたはずです。


フェーズ2:情報収集

2019年 活動休止の発表をニュース速報で知る
さすがに日本国民でJ-POPを聴く身として「えっ!?」となったことを覚えている。あと、ネットでちょっと燃えていた記者の質問に対する、櫻井くん対応が素晴らしかったな…私もそんな大人になりたい…とも思った。

このとき思ったのは「よく事務所がOKしたな…」みたいなドライな感想と「なんで大野くんだけ抜ける選択肢じゃなかったんだろう…」という疑問がありました。あと櫻井くんの対応が印象に残ってて、ここで「同世代のすごい人達」みたいな、どこか自分ごとの延長としてはじめて彼らを認知した瞬間だったと思います。

2020年年始 Netflixで嵐のドキュメンタリー「ARASHI's Diary Voyage」1話目を観る
2020年になり友達が家に来たタイミングで一緒に観た。「相葉くんかっこいいよね〜!さすが千葉県民だわ(相葉くんは出身が千葉県千葉市)。」などと、なんの深みもない会話をしてざっと見をした。しかし、私はニュース速報で流れたとき感じたえっ?!という驚きをすごく覚えてて、なぜ活動休止という選択をしたのか、(いやらしい話だが)嵐経済圏をぶっ壊してでもなぜ5人一緒に活動休止することになったのかを知りたくて、もう一回一人でちゃんと見直した。

まず嵐は(というかジャニーズは)ネット上への露出を避けてきたのでまずNetflixで配信されることに驚きました。ここで特筆すべきなのは、嵐ファンではない友達と観たということです。嵐が誰でも知っているアーティストであり、直近の活動休止宣言で更に注目を集めていたからできたことだと思います。しょうもない会話をしたわけですが、こうやって日常会話にサラッと嵐が入り込めるから、何にも考えていなくても意識に登りやすい状態が作られていることがわかります

2020年夏 Spotifyで嵐の曲を聴き始める
Voyageの最新話が出る度にふんわり観ている程度で半年弱過ごしていて、夏頃にSpotifyでサブスクを聴き始める。多分「12. デジタルの世界へ」を観て影響されたのかも?Spotifyのプレイリスト「This is 嵐」を聴いてSugarという曲に「かっけえ!」と思う(untitleというアルバムの収録曲。これが後に沼落ちするイベントとなる)。

Spotifyで聴き始めてから一気に嵐の音楽に触れる機会がドカンと増えました。Spotifyの「This is ○○」プレイリストがすごいのは、ただシングル曲などみんなが知ってる曲だけがまとまってるのではなく、ずっとファンに愛されているカップリングやアルバム曲も入っていることです。ここで私に推し曲ができます。嵐ってポップな曲ばっかりだと思ってたけど、アルバム曲を中心にクールな曲も多々あって意外でした。後にアラフェスで披露されより「かっけぇ!」と思うので、正しいかどうかわからないんですがアンカリングといえるでしょうか。


フェーズ3:購買

2020年10月末 ドキュメンタリーでアラフェスの裏側を観て泣きアラフェスの配信チケットを買う
この日も何となく観ていたのだが、活動休止前、最後の年に予定していたことがことごとく白紙になっていく様をずっとドキュメンタリーで観てきて、アラフェスをやるかやらないかという話し合いのシーンで櫻井くんが「やりたい」と言ったときのシーンでちょっと泣く。これはアラフェス観なきゃと思ってすぐ配信チケットを買う。

ずっと観てきて、どれだけ悔し涙を流してきたか、と感情移入しまくってきています。アラフェスが数日後に迫っている絶妙なタイミングでのプロモーションでもあったろうと推測できます。素晴らしき導線。過去こんなご時世だし別のアーティストの配信ライブを観た経験があるので、ハードル低く速攻配信ライブのチケット購入を行いました。


フェーズ4:愛着

2020年11月3日 アラフェス2020 part.2を観て沼にハマる
まずジャニーズがライブ配信プラットフォームを持っていることに感動し、少し途切れてしまうものの他のアーティストの配信よりもサクサク動いて感動した。アラフェスで最も心が動いたのは「Sugar」を披露したときで、映像演出に感動し、次の「a Day in Our Life :Reborn」や「IN THE SUMMER」のAR技術で完全にノックアウト。配信が終わったあと、YouTubeで「untitle」のライブ映像を観て更に感動。

完全に業者目線でジャニーズすごいと感動しつつ、開始後はふんわり楽しんでいたのですが、推し曲の「Sugar」が流れてから本気で観始め、その後披露した曲のAR技術を駆使した演出に感動しました。その興奮冷めやらぬままもっと嵐が観たいと、配信終了後にYouTubeを見漁りました。もっと観たい!と思うほどの熱量を持たせたあとの行動としては「YouTubeで探す」は王道だと思うんです。だから、興味を持ったタイミングでユーザーは何をするのか、を先読みして導線作っておくの大事だと思いました。嵐は見事でした。

2020年末まで 怒涛のオタ活(?)
最新アルバム「This is 嵐」を買う。5×20とuntitleのBlu-rayを買う。イベントやテレビを全部チェックする。この時期にファンクラブファンクラブに入り友達に話してびっくりされる。正直この時期に入ってもコンテンツないだろうなと思っていたけど、ファンクラブ会員に向けたラジオを週1配信したりウィジェット機能が出たり、ファン向けのコンテンツ出まくりで楽しくて仕方がない

ライブのヤバさを知ってしまい、LTV(顧客生涯価値)上げていくユーザーになっていきました。純粋に感動したのが、ファンクラブ会員向けにガンガンコンテンツを配信していたことでした。クッソ忙しいであろう中でここまで定期的に発信を続けて、ファンの方々もいつもそばにいるように感じていたんじゃないかと思います。

2020年12月31日 This is 嵐 LIVE
神社に行って無事ライブが成功することを祈る。ライブまでに「This is 嵐 LIVE みんなで準備だ!TV 」という企画をYouTubeで配信していて、ファン同士がプラットフォーム上でコミュニケーション出来る機能や、動画を募集し当日流す企画が打ち出さてファンファーストの姿勢に畏怖の念すら覚える。事前に買ったグッズのパーカーを着てライブに備える。嵐にメッセージを送ってそれをドームに写す演出が粋で、最後の最後まで一緒にいるという宣言通り、早めにライブは終わらせる必要があったものの23時59分に嵐のメッセージが表示されて切なくなる。

ファンファーストの姿勢が最も高まったのがこの時期だと感じました。「This is 嵐 LIVE みんなで準備だ!TV 」で、様々な企画や機能が発表され、その度にSNSが盛り上がっていました。この時期、常にSNSの上位ハッシュタグに嵐関連のキーワードが入っていました。語りきれないくらいてんこ盛りの機能や企画がたくさんあって、打ち出したいメッセージと行動がピッタリ合うことで、よりファンのエンゲージメントが高まっていく最たるところをいっているアーティストです。ブランディングってこういうことなんだなと思います。

2021年 熱量冷めやらぬオタ活
年始はしょんぼりした気持ちでもあったが、Blu-rayを観ればいつでも嵐に会える。アラフェスやThis is 嵐 LIVEのダイジェスト映像がYouTubeで出て、7月にアラフェスのBlu-rayが発売、11月3日(先行公開日)には映画館で5×20のライブ映像が観られる。ファンクラブ会員コンテンツでは、櫻井くん×松潤、二宮くん×相葉くんの組み合わせでラジオコンテンツ配信。その配慮が嬉しい…。

「ファンのみんなが寂しくないように」の第二形態的なフェーズのように私は感じています。発表や動画配信が定期的に続いていきました。あと、とても心に響いたのはファンクラブ限定のラジオ配信で、2人ずつトークをしていた点です。4人で集まると「あぁ、大野くんだけいない…」とファンからしたら切ない状況を目の当たりにしてしまうのですが、そのあたりの配慮からこのような形となったのだろうと推測できます。優しさを感じます。


大規模なプロモーションの中にある小さく鋭い、愛ある戦略

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

嵐といったら莫大な金額や人を動かすものすっごい大規模なプロジェクトです。でも、ここまで人々を虜にする真髄はもっともっと小さなひとつひとつであり緻密で計算されたタイミング、そして愛だと思います。

私が感じたすごいポイントをまとめます。


みんなも私もずっと嵐を知ってる

嵐を好きだと周りに言うようになって驚いたのは、みんなが嵐を知っているし動向を知っているということ。

友達とNetflixのドキュメンタリー1話目を観たエピソードもそうなんですが、もうひとつエピソードがあります。私は好きになりたての頃「産業カウンセラー」という資格を取るためにスクーリングしていました。メンバーはバックグラウンドも年齢の異なる方々ばかりでしたが全員嵐を知っていましたし、2020年の年末年始は「さみしいね〜」と声をかけてくれました。(そして嵐ファンもいらっしゃって、仲良くなって過去のライブ映像など借してもらいました)

これは20年前からそうで、定期的に目にするアーティストなので潜在的に頭の中に刷り込まれています。情報に触れるときも「ああ、あの嵐ね!」と前提が出来上がっているので「認知フェーズ」をすっ飛ばせる状況が出来上がっています。


「言ってることとやってること」を徹底的に合わせる

このあと述べる内容の序章みたいな話なんですが「ファンのために」という旨の発言がよくメンバーから出ていて、それをただのリップサービスではなくてちゃんと体現しているんですよね。

例えば「際の際まで一緒にいたい」と言ったのはThis is 嵐 LIVEについて発表したときの二宮くんでした。実際のライブは23時頃で終わったのですが、その後23時59分に嵐からの直筆メッセージが表示されました。本当に際の際まで一緒にいる演出をしてくれました。

これは局所的な発言かもしれませんが、「ファンのため」の言葉への責任を果たすが如く、ファンの声を聞き(SNSを閲覧していたと言われています)、インサイトを徹底的に探り、コンテンツを設計し、発信をしてきたことがよくわかります。


誰も取りこぼさない徹底したファンファースト

いわずもがな、嵐のファンファーストの徹底っぷりは半端じゃないです。半端じゃないから、取りこぼさず「あなた」に届くように設計されています。どの立ち位置にいるファンでも、みんなが楽しめる仕組みが張り巡らされています

それはライブでも感じられます。フリフラ(Sonyが作ってるLEDライトを使った舞台演出技術)で何万人が持っているペンライトを舞台演出として制御しています。遠くからみても演出がすごくきれいで、だからこそ観られる景色も多々あります。

活動休止を発表してからの露出機会、デジタル解禁からのコンテンツのアップロードタイミング何をとっても、丁寧に不安要素をすくい上げているように感じます。その行動すべてに意味があると思わせ続けられるすごさを感じます。


これまで届かなかった人たちへの「外」への戦略、ファンを大事にする「内」への戦略の両立

私はこれによって一気に距離を詰めていきました。SpotifyやYouTubeで気軽にアクセスし音楽や映像を楽しめるようになったので、BGMを常に流している我が家では特に、ずーっと嵐を流しちゃっていました。

Spotifyは知らない曲にもアクセスしやすい導線や仕組みを作っているので、普段嵐に接しない層も曲を耳にするタイミングが出てきやすいです(YouTubeも同様)。

活動休止発表後「これまでリーチしなかった層にも届ける」というテーマの通り海外の人たちにも受け入れられるような曲調の歌を発表したり(新曲かやRebornシリーズ)、SNSの発信も積極的に行っていきました。活動休止に向かっていく中で新しい層へのアプローチをし、攻めていったのは嵐らしさのひとつなのかもしれません。しかし、外ばかりではなくファンももっと大事にし外・内両方の戦略を両立したところがすごいです。


完璧な導線設計

Netflixドキュメンタリーからのアラフェス、アラフェスからのYouTubeで別のライブ映像、で述べた通り次に何をすべきかのタイミングや導線がしっかり確保されていて、ユーザーが思いついた通りのことをすればたどり着くようになっています。

興味を持った熱量のまま次の行動を行ってもらうことで、どんどん「知りたい」「触れたい」の気持ちは膨らんでいきます。特にこのデジタルの時代で、この導線設計がファン獲得のキモであるといっても過言ではありません。


最後に:データや画面の先にいる「あなた」に届ける愛

これだけ大きなプロジェクトで多くのヒト・モノ・カネが動くと、データや数値は見えるけど、ひとりひとりが霞んでいく感じが付きまとうものだろうと想像出来ます。でも、常に焦点を「そこにいるあなた」に合わせ続けてきて、語りかけてきて、伝え続けてきた。この鋭い、そして愛のある戦略の積み重ねが、嵐というアーティストのすごみです。

戦略とかマーケティングとかブランディングとかいうとすごい無機質に聞こえますが、その本質は愛だなと感じます。ただリソースがたくさんあっても、ここまでファンファーストな姿勢は作れません。

データの先に、画面の先に届けたい愛はあるか?これを問い続ける作業を、どこの誰よりもやってきた嵐のみんなと、プロジェクトを動かしてきた方々、すごいです。ちゃんと届いています。おかげで私は超楽しいです。ありがとう!!!

「嵐にユーザーインタビューされたら、どんなカスタマージャーニーが出来るだろうか。」ってタイトルでここまで書いてみましたが、私の場合はちょっと特殊な入り方だったかもしれませんし、実際の現場では参考になるかどうかよくわかりません(そもそも一人の意見だけで作る資料ではない)が、マクロ・ミクロ、事業側・ユーザーの視点で感じたことが参考になったり少しでも伝わっていただけたら嬉しいです。


参考資料:「嵐」に学ぶマーケティングの本質
マーケティング・ブランディングの観点で嵐を知れて本当に楽しかったし勉強になりました。心の中にいる嵐を呼び出しつつ、ぜひ読んでみて下さい。
miroworksでは、Webサービスなどの事業開発・ディレクションのお仕事承っております。STUDIOを使った制作代行などもしています。
https://miro.works/


おまけ:podcastで音楽を中心に自由に偏愛を語っています。嵐の話もちょいちょいしてます。


駄文が捗ります