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デザインできないをデザインする

この依頼を受けた時
「全てをデザインすることはできないな」
と思いました

山梨県富士吉田市が開催する年に一度の一大イベント”ハタオリマチフェスティバル”。通称 ”ハタフェス”。2日間の開催で数万人もの人が訪れる人気のイベントです。このnoteは2021年に開催されたハタフェスの休憩・飲食スペースを作った記録です。

ご存じない方も多いと思いますので、簡単に”ハタフェス”の概要について説明すると…

ハタフェスは布好きによる布好きのためのイベントです。富士山の湧水を使うことで、かねてから織物業で有名な山梨県富士吉田市。この街の周辺の作家やファクトリーブランドが一同に集い、街全体を使って開催されるとっても楽しいイベントです(主観)

もっと詳しく知りたい方はハタフェスのHP↓をご覧ください


さて、まずは前回2018年のハタフェスの飲食スペースの様子を見てみましょう。(2019年、2020年はパンデミックの影響で開催中止)

2018年のハタフェスの様子
https://hatafes.jp/2019/about/

既製品のパイプ椅子とパイプ机を使って、飲食・休憩スペースを作っています。これはこれで用途は満たしています。しかし3年ぶりに開催する今年はこれをもっとデザインされたワクワクするものにしたい!2会場のデザインをお願いします!!
との依頼でした。

依頼してくれたのは富士吉田市を中心とした地域で”装いの庭”という屋号で活躍している藤枝さん。以前、展示「織り機につどう」を一緒に作り上げた友人であり、信頼できる仕事仲間です。

簡単に条件を整理すると、

  • 準備期間少ない!(概要を聞いてからひと月半で設計&材料の手配!)

  • 予算まぁまぁ少ない!

  • 設営日数少ない!(2日で2会場!業者は使わない!)

  • だけどやる気だけはみんなあるよ!(ここは頼りになる!)

と言うものでした。
こういう状況大好きです(笑)

建築家の仕事というのは往々にして厳しい条件をいかにクリアするかを楽しむことが多いと思います。(逆境を楽しめないようであれば心折れます)
その中で自分を追い込んで可能なぎりぎりのデザインをします。

さて、それでは飲食・休憩スペースを作る2会場をご紹介します。
ひとつは神社の林の中。木漏れ日が美しいスペースです。

小室浅間神社

こちらはもうひとつの会場のまちかど公園。
打って変わってがらんとした何もないスペースです(遊具もなく少し寂しい公園です)

まちかど公園


正直、最初の1-2週間はこれといったアイデアが浮かびませんでした。
時間がないことに焦った私は、現場に再度足を運んでそこの空気を感じながらそこで一日中デザインを検討したりもしました。

このプロジェクトにはデザインする上で下記の難しい点がありました。

  • 自由度の高い敷地(それでいて凸凹が激しかったりといった難しさもある)

  • 不特定超多数(数万人!)の来場者

このような場合、どのように使ってもらうかを想定してもしきれません。
そこで、それならいっそ、そのことを受け入れて楽しんでデザインしよう!という方向に舵を振り切りました。

タイトルでもつけた、”デザインできない” というのは多くの来場者の動きのことです。それを「こう使ってほしい!」とコントロールしようとするのは設計者の驕りかもしれません。
柔軟性を持たせ、そこに予想外のことが起こることを積極的に誘発するようなデザインとし、当日のお客さんが新たな使い方を発見する面白さを期待しよう。つまりデザインできないことを積極的に受け入れたデザインにしようと考えたのです。

そして、私が定めたこのプロジェクトのゴールは、

訪れた人が自分の意図を超えた楽しい使い方をしてくれたら、成功である

としました。

また、このときは感染者が大分少なくなってきていた時期でした。とはいえ、このような状況の中、「つかず離れず」の距離感がそれぞれの意思でコントロールできることはとても重要であると考えました。

最終的にそれぞれの会場に設定したコンセプトは下記としました。

-神社-
森の中を散策するような、自然のランダム性に敬意を祓った本能的(動物としての)に気持ちのいい空間

-公園-
適度な距離感を保ちながら、適度なコミュニケーションが誘発されるような自由な空間

さて文章も長くなってしまったので、そろそろ読み疲れてきてませんか。
ここからは写真を中心にご紹介しますのでご安心ください。
完成までの様子を楽しんで見ていただけたら嬉しいです。
まずは打ち合わせや設営の時の写真です。

現地に数時間佇んで気持ちのいい場所を探したりもした
自然の中は動物的本能に従って設計するのもよいと思う
ある程度案が固まったので、模型を確認しながらの打ち合わせ
左:赤松さん(富士吉田定住センター) 右:藤枝さん(装いの庭)
パレットをお借りできる業者さんへ。状態を確認
富士吉田市の倉庫へ。使える材料がないか確認に
倉庫に入る光が綺麗でした
設営初日の朝。頼れるメンバーの皆さん
まちかど公園
指示して木材を接合してもらっている様子
高所での作業もお手のもの。BEEKの土屋さんは本当に手際が良かった
ただただかっこいい
公園のスペース骨組完成
屋根になるシートを貼っている風景
これも富士吉田の傘業者さんから提供いただいたもの
小室浅間神社
ベンチ・テーブルの脚になる部分を組む。ただひたすら組む
楽しいスペースなので楽しく作ってください!と伝えました
夕日が綺麗だけれど時間との戦いの最中
なんとか形が見えてきたところ
凸凹が多く、難しい面もあったが、想定したデザインが実現できて嬉しい


それでは、完成した会場を利用したお客さんたちの様子をご覧ください。たくさんの笑顔が見られ、この様子をずっと見ていたいと思ったほど、本当に嬉しかったです。

まずは小室浅間神社の方から。

全体の様子。たくさんの人が楽しそうに使ってくれていました
別のアングルから
虎のぬいぐるみで遊ぶ子。楽しそう
なるほど、そうやって使うのか
子供の想像力には本当に驚かされます
この子も使い方が上手
閉場寸前に現れた天使
(ご両親に掲載許可をいただいています)
ちょっとヒヤヒヤしましたが安全に注意しながら嬉しく見守っていました
空間全体を使って楽しそうに過ごしてくれていた。本当に嬉しかった


次にまちかど公園の写真です。

完成した会場の様子。お客さんが思い思いに使ってくれている
パレットには当日の朝、提供いただいた布を貼った
ハタフェスという布のイベントと親和性の高い見た目となりました
これが机でこれが椅子とかは決めない。自由に使ってもらう
公園の一番奥にはステージがあり、その客席としても活用できる
公園入り口から見た様子。
思わず楽しそう!と思ってもらえるような風景になるように心がけた
光と影がランダムに生まれ、時間帯によって様々な風景が生まれる
出店されていたフードはどれも美味しかった
いろんなひとがいろんな方向を向く
自然と少し視線が交わる。コミュニケーションが生まれる
お借りしたパレットの表情や大きさはいい意味で揃ってなくて良い

いかがでしたでしょうか。
このプロジェクトは2021年、私にとってとても思い入れのあるものになりました。自分達が作った空間に信じられないほどたくさんの笑顔が生まれる。これはかけがえのないほど嬉しいことです。

現在とても厳しい状況ですが、無事に今年も開催され、みなさんの笑顔がまた見えることを心から願っています。

最後に、装いの庭の藤枝さん、BEEKの土屋さん、ふじよしだ定住センターの赤松さん、手を貸してくれた多くの頼りになる方々。みなさんの力がなければ決して完成しないプロジェクトでした。本当にありがとうございました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
通常の建築に限らず、このような会場デザインもお受けしておりますので、ぜひお気軽にご相談くださいね。

↓YouTubeで名建築の紹介などをしています

トップ画像はイラストレーターの火詩さんに描いていただきました。


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