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私たちの11分のファッションショー

2024年4月23日18:20(カナダ時間)、私たちのファッションショーが幕を閉じました。

私は美大にも通っていなければ、ファッションの専門学校にも行ったことがないし、ましてやアパレル企業にも勤めていません。それなのに、今カナダ・バンクーバーでファッションコレクションのステージ裏にいます。

まさか自分がファッションの事業に携わるとなんておもってもいなかったし、さらに自分が創業した会社のそのブランドが、いきなり海外ファッションコレクションで発表するなんて夢にも見ていなかったし、全くもって想定もしていませんでした。

でも、だからこそ、今振り返ってみれば、前例やフォーマットを気にせずに、あり得ない量の変数を巻き込みながらこの舞台で11分のショーを繰り広げることができたのだと思います。


ファッションショーは大量消費への加担なのではないか

ある日突然、Vancouver Fashion Week(以降、VFW)のChloeという方から問い合わせフォームから「ファッションショー出場に興味はないか」といったメールが1通届きました。こういうのは大体詐欺かなにかだろうと気に求めていなかったのですが、思っている以上にちゃんと返信はされる。(笑) これは本当かもしれない…と半信半疑の中、一度信用するために「過去出場したファッションブランドのデザイナーとオンラインミーティングをしてヒアリングをしたいです」と伝え、本当に繋げてくれ、「これは本当に招待されたのだ」とようやく気づき、頭が真っ白になりました。

出場に至っては、今思うと恥ずかしいのですが「ファッションショーはファッションブランドの大衆化に伴う消費活動の促しだろ」と思っていた節があった私😒は、招待してもらったこと自体は嬉しいけれど、出場をすることにはとても違和感があり、お断りすることも考えていました。ただ、VFWは多くのファッションコレクションの中でも「多様性」をテーマとしていることや、私たちの実現したいことを伝える舞台としては良いチャンスなのではないかと考え、出場を決めたのが去年の今頃です。

コンセプト、モデル公募、音楽や映像、すべてをゼロから

前述した通り、私はファッションのことは二進も三進もいかないほどわからないものの、解決したい課題ややりたいことは明確にあったので、「ファッションショーをつくる」と捉えるのではなく「実現したいことを実現するのだ」と捉え直し、いつもの通りに何を伝え、何を解決したいのかといったコンセプトから考え始めていきました。

出場を決めてからというものの、少人数で運営している私たちは言葉通り「すべて」を自分たちでゼロから作っていきました。

  • ショー全体のコンセプト決め

  • 本番までのスケジューリング

  • 服1つずつの、コンセプト決めとデザイン

  • 14着のプロトタイピングから本制作

  • モデルの公募〜選考〜採用

  • モデルのトレーニング

  • 音楽や映像の制作

  • ヘアメイクのデザイン

  • PR戦略と実施

  • 事後イベントの企画運営

タスクリストをまとめたgoogleスプレッドシートは15以上のタブと100以上のタスクで埋め尽くされ、それぞれが影響しあっているので脳みそが捻れまくるほど忙殺されていきます。

もちろんそれぞれVFW側が用意してくれるモデルたちを起用したり、音楽も無料の音源をピックアップしたり、背景映像はロゴ流しっぱなしでもいい。手を抜こうと思えばいくらでもできました。ただ、私たち自身が本当に実現したい社会を来場される方やショーを見てくださる方にしっかりと伝えるためにも手の抜きどころなどなかったのです。

これを実現するにあたり、本業との合間を縫って手伝ってくれる方が増えていき、クラウドファンディングで支援してくださった方や、物品提供してくださる方などたくさんの方の存在あってようやく成り立ったという背景もあります。

すでに思い出すだけで涙が出てきてしまうほど、本当にありがたくて、それゆえに徹底的にこだわりたくなってしまったのです。

私たちがこだわったことは3つのこと

特に今回のファッションショーで私たちがこだわったことは3つあります。

  1. モデルの多様性(美の固定化の脱却の解決策)

  2. 課題解決につながる衣装(服の課題の解決策)

  3. Representation(人種の多様性の課題解決)

それぞれが、広義の意味でのファッションにおいて課題とされてきたことであり、これまでの私たちは「服の構造」としての課題解決はしてきましたが、ショーを作り上げるにおいてはその関わる要素全てにおいて解決策を提示できる機会を得たのだと思っています。

1.モデルの多様性

本来は、VFWからの招待であることから、必要な人数の全てのモデルはVFW事務局が提供してくださいます。しかし、私たちがこれまで作ってきたプロダクトは「多様な人が自分の好みや体型にあわせて、自分で選択することを可能にした」ことに価値があり、その可変性・拡張性を表現するにおいては一般的なモデル体型の人や、訓練されたランウェイウォーキングができる人だけに着ていただくのではその価値が伝わらないと感じました。

このSOLITの思想や哲学をもとに、チームの一員として、障がい、セクシュアリティ、信仰、体型、国籍、年齢、経験などに関係なく、多様な人とともにランウェイを彩りたいと思い、国内外からモデルの公募をし、日本からは6人のモデルの皆さんをお連れして共に挑戦することを決めました。(もともとは8名採用したのですが、事情は後述します!)

Photo by Haruki Maruyama

最終的には、年齢や肌の色もセクシュアリティも異なり、多様な障がいをそれぞれがもち、難民・移民背景があるモデルもいれば、高校生やアスリートなど多様なモデルによって構成することになりました。

2.課題解決につながる衣装

今回の服14ルックの中にある1着1着が、私たちが「ファッション」においてこれまでずっと違和感を感じてきたことに対しての解決策の提示になっています。

  • ボディシェイミング

  • 生産背景の不透明性

  • 立位を前提とした服の構造

  • 男女二分法の上に成り立つ服のデザイン

新たに開発する素材は使わず、コレクションのためだけの服は作らないというポリシーを守り、SOLITが創業時からもつ「自分の好みと体型に合わせて自分で選ぶ」ことのできるよう、既に販売されているアイテムの軸はそのままにシルエットを変え、より多様な人の思いを象徴するものになりました。

ボディシェイミングへの抗い、戦争への争いと平和への願い、ジェンダーフルイドと自由を求め、障がいの有無を優に超えていく。自分達の未来を実現したいという思いが言霊となり、そしてデモカードのように身に纏うことにつながっていく、願いを込めたランウェイを作り上げました。

ランウェイを彩るモデルたち

3.Representation

ランウェイでは、モデルのみんなにはただ美しくウォーキングをすることをやめてもらいました。それぞれが作りたい未来に向け、本当だったらどう未来で過ごしたいのか、何を表現したいのかは1人1人と相談しながら決めていったのです。

よくある表現では車椅子ユーザーは後ろから介助者っぽい人が押してあげて関係性を強調したり、未成年でも大人っぽい表情でランウェイを彩られていたりと、現実とは大きく離れる表現に、普段私は違和感を感じることが多くあります。

今回は、それぞれが自分の歩きたい歩き方を検討し、ショー全体とのバランスを相談しながら一緒に決めていきました。コーヒーを飲みながら歩く人もいれば、電話をしたりメイク直しをする人がいたり、スキップで走り抜けていく人がいたり、大きく腕を振りながら歩く人がいたりと、日常の中の自分らしい歩き方をそれぞれに行ってもらうことで、

「多様性を無理やり表現する」のではなく、多様な存在が既に集まっているのだから「それぞれがそれぞれを表現する」にすることでそこに「嘘」のないようにしたかったのです。表層的な多様性の表象ではなく、オーセンティックであることを大切にしたかったのです。

障がいと難民背景と…ケアなどしていられない「多様性」

これは私の中でもとても学びが多くて、おもしろかったなと思うことがあります。モデルが決まってからの約9ヶ月、ショーの企画やトレーニングをするにあたり、多様すぎる存在が集まると大変!ということ笑

ほんとうに至極当たり前のことなのですが、想像以上に大変で、とてもおもしろくて、ファッションショーじゃなくてももっといろんなことをこんなチームでやりたいなと思えるほどでした。

実際の「言語」でいうならば、母語が日本語・フランス語・英語・日本手話のメンバーがいるので、ミーティングするにも2言語以上の通訳が必要だったり。「情報理解方法」でいうならば、グループLINEで情報共有をするにも、優しい日本語・英語・箇条書き・映像で伝えたほうが伝わりやすかったり。「意思決定方法」においてはもっとみんな違います。1つの情報を聞けば100を想定して先回りする人もいれば、100を聞かないと不安になる人もいたり、99を知らなくても楽しめる人がいたり。

さらには、私たちのチームは日本在住とイギリス在住のメンバーがいて、さらにカナダ・バンクーバーの事務局とのミーティングをしようと思うと時差があり、そこに本業のある人と学業のある人と、夜はしっかり寝ないと体調が悪くなってしまう人がいるのでミーティング設定そのものが大変。

時に「多様性」を語ろうとする時に、いわゆる「マイノリティー性のある人」がその場における人数的マイノリティになると、その人を「ケアしよう」という働きが生まれることがある。しかし、今回は全員がなんらかの「マイノリティー性」をもつことから、対象者を「ケアしよう」などという思いは湧きにくくなる。そしてこれまでであればその対象者は「ケアされて当たり前」という耐性のようなものを持ってしまいがちだったが、ここまで複雑に絡まり合う多様性のサラダボウルのようになってしまうと、「ああ、私はケアされる側ではなく、みんなと協力しないといけないのだ」と気づくわけなのです。

実は、ここに気づくことができないもしくは「私は助けられてあたりまえ」「あの人はケアしてあたりまえ」という関係構造から抜け出せない人ほど苦しさや辛さを感じてしまうし、1人ではなくチームで成し遂げるにおいては「自分が我慢したらいい」という思考に陥る人もさらに苦しさを感じてしまうかもしれません。何人かはこれによってチームから抜けたりもしました。


私たちの11分のショーをご覧ください

とにかく、そんないろんなことがありながらも紡いだショーをご覧ください!以下youtubeの3:58くらいからです。


100名以上の人を巻き込んで…Special Thanks

Products and Fashion Design
Itsuo Mihara(Production Management & Design)
Rina Yanome(Design)

Direction of a play
Suzuka Nakanishi(Runway Directing)
Masahiko Nakashima(Runway Video Music Production)
Ayumu Yamashita(Runway Music Production)
KAE(Hair and Makeup Planning)

Documentary filmmaking
Fuhito Yamashita(Documentary Video Production)
Takuma Matsuda(Documentary Video Production)

PR- Stakeholder Relations
Yumiko Kosugi(PR Production)
Shinichi Morimoto(PR Planner)
Sumie Saito(SNS Marketing Direction)
Kitou Sayaka(PR Assistant)
Yuki Hiwasa(PR Assistant)
Haruki Maruyama(Photographer)

Crowd Funding
Seiichi Ogasawara(Crowdfunding Planning and Operation)
Hironobu Sakamoto(Crowdfunding Planning and Operation)
Shiori Sakamoto(Crowd Funding PR)
Sumie Saito(Book Planning and Editing)
Aoi Shimizu(Book Planning and Editing)

Products development
l.G.ZHA(Cotton-Spinning)
F.H.TONG(Dyeing and Finishing)
J.D.MAO(Woven Fabric)
D.J.CHENG(Production Management)
J.l.XU(Pattern Make)
J.Z.XIA(Cutting)
G.H.SIMA(Sample Making)
H.Y.REN(Press and Package)
Z.Y.PEN(Procurement Management)
Q.LIU(Direction)

Model Management & Training
Rina Yanome(Model Training Management)
Suzuka Nakanishi(Model Training Planning)

Rie Usui(Model Training Instructor)
Shin Kohama(Model Training Instructor)
Sampo Yamanaka(Model Training Instructor)
Nobuhiko Adachi(Model Training Instructor)
Eri Imai(Model Training Instructor)
Mio Waga(Model Training Instructor)
Noriyoshi Takemori(Model Training Instructor)

Products Research & Management
Yukiko Ito(R&D)
Atsuki Kokuba(R&D)
Shizuka Watanabe(R&D)

Operation
Takako Iwasaki(Project Manager)
Natsumi Wada(Operation Manager)
Ikumi Kobayashi(VFW Point of Contact)
Tomoko Ikenoue(Hair & Make-up Referrer)
Sho Gotoda (Tax Manager)
Akiko Koizumi(Accounting & General Affairs)

Sponsors
株式会社 日ノ樹
株式会社Hub.craft
NORA HAIR SALON
morning after cutting my hair,Inc.
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
株式会社アイシン
CACTUS TOKYO
株式会社アシックス
東急株式会社・渋谷ヒカリエ Creative Space 8/
OTEMACHI KORTO
Ontenna(富士通株式会社)
swallow tail vintage
社会福祉法人地蔵会 / 空と海 坂口さん
医療法人社団 吉本会 よしもと小児科

クラウドファンディングで支援してくださった皆様

追述:私は、ファッションショーを勘違いしていたのだと思います

ファッションコレクションのステージ裏で、たくさんのモデルやブランド、ショーを運営されている皆さんとお話しする機会をいただいて、なんというか、すごくイメージが変わりました。もちろん消費を促し、それにより環境問題や人権などいろいろな問題を引き起こしているには変わりないけれど、それでもここにはモデルたちの夢や生きがいのようなものがあったり、挑戦する人を応援しようとする気概で溢れていました。

全ての人、ことが、色んな側面をもっていること。そしてその背景にはいく層にも重なる歴史や想いがつまっていること。それをあらためて、あたりまえのことだけれど気づけたファッションショーでした。

photo by takatoshikun



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