恋と戦争

“相手の本当の気持ちなんて、永遠にわからないのだから。”

深夜のテレビから流れる音が、エアコンの風で冷え切った身体に絡みついた。

捕まえたと思ったら指先をするすると通り抜け、おにぎりを握るようにふわり両手で優しく包み込んだ途端、しゅんと逃げていく。追いかけていたのは自分の気持ちだ。

恋をした日、恋が叶った日、恋に破れた日。

長い1日の中で、その瞬間だけが世界を止める。あれこれ心配したって、何も出てきやしない。そこら中探したって何も見つかりやしない。疑って、不安になって、また覗き込んで。

目の前にいる人、目の前にいる自分、ただそれだけを信じられないのなら、ここにいる意味やここにある気持ちはまるで煙のよう消えてしまう。黒い世界がビリビリと引き裂かれる。

どこを見て、わたしは笑顔を浮かべていたのだろう。乾いた心と裏腹に、うるうると溜まる涙が世界を揺らした。

***

8月6日、今日は広島に原爆が投下された日。

ねぇ、あなたの頭の上に爆弾は降ってこないでしょ?

映画「この世界の片隅に」を初めて観たときは、すずさんにそう、問われている気がした。

わたしたちはどうしていつも、明日を、その先の暮らしばかりを、欲しがるのだろう。それは「今」ではいけないのだろうか?

今、手を繋いで抱きしめて。ありがとうやごめんねを伝えて。

居たい人と一緒にいられるしあわせなんて、誰かの手で、または誰の手でもない偶然で、一瞬で奪われてしまうことだってあるのだから。


ねぇねぇ、やっぱりさ。

“当たり前”なんてどこを探しても見当たらないよ。「いつか」じゃなく「今」きみと手を繋ぎたいんだ。

時間と時間が交わる空間を愛でる。夏の夜空はどこか遠慮がちで好きだ。生ぬるい空気の中でならきっと、いたずらな笑顔が映えるから。

出し惜しみして生きてる時間なんて、ないでしょう?呼吸をするように日常を愛でられたら。世界はもっと、やわらかくなるよ。




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