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【短編小説】 時間は止まってくれない


今年も蝉の声が煩い。
折角の休みだと言うのに晴れたのは、私が帰る最終日。


久しぶりの晴れ間に家族も浮き足立っているらしい。「ほら!早く早く!」そんな妹の声に急かされるようにして意気揚々と外に出た。

毎年、休みは家の近くの山に登る。車じゃなくて徒歩でちゃんと「登山」するのが我が家流。
昼ご飯と、お菓子と、ビール。という登山家に聞かれたら怒られそうなラインナップの大荷物を持ち、父も母も妹たちも着実に歩を進めている。


ーーー

2時間くらい歩いた頃だろうか。「ねえ〜暑いよ〜ほら、一旦そこの沢で休憩しよ?」と妹が音を上げる。私はそんないつもの光景に頬を緩めつつ、そうだねと同意し、全員で沢に向かうこととなる。

沢に入ってはしゃぐ妹を見ながらいいなぁと思わず声を漏らす。昔はあんなに自分もはしゃいでいたな。最近は水に対してどうしても凄んでしまう、そんな自分が嫌になる。


ーーー

ひと休憩終えて、再び山を登り出す。「もう半分は越えてるからな。ここからは一気に登ってしまうぞ。」という父の声に妹が呻く。1時間そこら歩いて、ようやく、目の前の視界が開ける。「着いたーーー!!!」どうやら山の中腹にある平原に到着したようだ。

「どこでご飯食べよう?」と悩んでいた妹だったが
父と母の顔を見てハッとする。

「そっか。今年はこっちが先だね」そう呟いて平原の端へと向かう。


ーーー

端の一箇所で歩を止め、妹が口を開く。

「お姉ちゃん、元気にしてた?」

うん。してたよ。

「そっか、元気そうなら良いんだけど」

だけどって、そんな顔しないでよ。らしくないよ?


妹はそのまま口をつぐみ、顔を覆う。

目の前には、一つの、石。


母が妹の背を摩り、父が石に水をかけようとしたところで手を止める。
「...水は、もう懲り懲りだよな。すまん」
そう言って石の前にビールをとんっと置く。

「まあこれでも飲んでくれ。最終日にしか来れなくて悪かったな」


ーーー


妹も落ち着いてきたのか、最近の報告を始める。学校のこと、部活のこと。うっかり彼氏のことまで口を滑らせるから父と母が驚愕の表情で妹を見る。私はそれを見て声を上げて笑うのだ。そうして、3人は去っていき、近くの平原にお弁当を広げる。

追いかけて眺めてみれば、どうやら父が先の彼氏の件について言及しているらしい。その必死さに思わず吹き出し、ビールに口をつけながらぼんやりと思う。

輪廻転生、だとか言うけれど。私はこの人たちが生きている間はそれを見届けたいと思うのだ。それまではまだ良いかなって思う。

右手からビール缶がことりと落ち、笑い声が遠のいていくのを感じる。

ああ、もうそんな時間か。


ーーー


ねえ神様?叶うことなら


来年の今日もあなたといたい


ーーー

御空さんには「時間は止まってくれない」で始まり、「来年の今日もあなたといたい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします。

全然オーバーしました。
#shindanmaker #書き出しと終わり

写真:みんなのフォトギャラリーより、タカマサさん

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