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回想詩~いつか会えなくなる前に~


信号が変わると
家路を急ぐ人がながれた

あたたかい家庭には
みそ汁のやさしい香りが
そこかしこの家から泳いでくるように
鼻先を刺激する夕飯どき
まなじり遠く望む夕焼け


明日の保証もないままに
幸せとは何かと考えるけれど
明日生きている前提の幸せとは
じつは儚いものなのか


今このときを歩くだけの
小さな歩幅でも
今日は誰かのお役に立てたのなら
それでいいと


誰かの声が思い出される
あの時の夕焼けを
共に見ていた人は
もうここにはいない


儚いとは
じつにさみしい


明日も
会えますか



知っているかのように人生を語るのも
恥ずかしくはなかったころ

若さはときに未熟の夢見てであり
無邪気な哲学と
なお微笑みきいてくれる友人の懐の深さよ

どれほど守られてきたことだろうか


今もお元気ですか


どれほど今君たちに
恩返しができているだろうか
目の前を追い越していく若い君たちの明日に


何もない私が
なに一つ若い君たちに恩返しできないままで
夕焼けのなか今日も一人家路を急ぐ


次世代に贈りたい心は
味噌汁のようにあたたかい
そのように思うけれども


とぼとぼ歩く
くたびれたネクタイなら
北風に揺れる枯れ枝のようなものだ
ただただ来し方を黙っている

もう多くは語らない


会えなくなって久しいですね

決して忘れられないことがある

蕎麦屋でご馳走してくれた恩師
貧しい私に書籍をくれた教授

唐揚げを山盛り入れてくれた
お弁当屋さんに母を想い

おかわりをサービスしてくれた学生街の中華料理屋さんに父を想う

励ましの詩文を書写して贈ってくれた先輩

恋路に破れたあの日の長い髪
ともに泣き笑いした音楽の友垣




誰かと出会い
誰かのあたたかい心に
明日も会えますか


名前さえ知らない誰か
大勢のなかのあなたに


守られてきたこと
それは永遠の回想録
儚さとの対極にある
ずっと一緒に心の奥にある
私だけのものだった

だから

いま若い君たちに恩返しをしたいのだと
いつでもそう思う


生きてなお
明日も恩を返すのだ
明日のわからぬ身なればこその
永遠にここには居られないのだと


いつか足どりほぐれて軽くなる
ちょうど家に着くころに
みそ汁の香りと入れ替わる
私だけの回想録

今日も無事に帰り着いたことを感謝していた



いつか会えなくなるまえに

君たちに
いつか会えなくなるまえに





風信子(ヒヤシンス)
美しく育ちました
こんなにも幼かったのに
よくがんばったね


そういえば受験シーズンなのですね


皆さま
いつも読んで下さり
ありがとうございます


noteを始めて二年
感謝の二月です


✒️べじさん記す

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