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「そろそろお迎えだから、あたし行くけんね。さらばだ!童貞!」

仮野は懶く、ああと言ったきりだった。

未だに、眼の前の女霊が死んでいるとは認識できなかったし、圧倒的な存在感から、眼の前から消える姿を想像できなかった。

ああ、それと―――といいかけて、振り向いた。

「何やるんだかは知らないけど、新しい方に行って無理だったら、また戻りな」

外の噴水がパッと水しぶきを上げた。

「これはお世辞でもなんでもないけど―――多分お前才能あるから。」

その噴水の傍らにカップルが座っていた。

「それと―――」といって、入真知は指輪を外し、仮野に預けた。

「どんな効能があるかわからないけど、あたしの形見だと思って、これもってろ。――七夕ぐらいには、化けて出てくるかもしれん。」

なんの抑揚もつけず、只機械的に伝えていく。

「じゃ、達者でな―――頑張れよ」

入真知はヒルズの回転扉に消えていった。

この最上階から神様が降り立つのだろう。

さっきのカップルの女性は、しきりとスマホをいじっており、二人で話している素振りはなかった。

仮野は踵を返し、とりあえず休める場所を求めて歩き始めた。

角を曲がって、アマンドの交差点で信号待ちをしていた時、急に寂寞に襲われた。

無意識だった。

足が自然と元の場所に向かった。

自分で何をしているのか全くわからない。

只、入真知の姿を探した。

別にもう一度会ったからといって、話したいことなど何もないのに―――

話題がないと言って、叱られるだけなのに―――何故。

気がつくと、駆けていた。

外のレストスペースで、座っている女性を見かけた。

黒のパーカーと、黒髪のボブウルフ―――間違いない。まだ逝ってなかったんだ。

安堵して声をかけると、振り向いたのは全くの別人だった。

仮野は詫びて、スペースを駆け巡った。

周りが変な目で見始めたが、一向に構わなかった。

泣いてるつもりはないのに、なぜだか顔が涙でぐちゃぐちゃになった。

公で、こんな醜態を晒したのは、初めてだった。

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