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―――ふと我に返った。
そういえば、この指輪、確か茂木さんから貰ったといっていた。
ラボに戻れば、ロッカーの中になにか、向こうの世界とコンタクトを取るヒントがかくされているかもしれない、と思った。
何で今まで気づかなかったんだろう。
仮野は地下鉄の駅まで駆け出した。
入真知に会いたい―――その一心だけだった。
駆け出したその時だった。
さっきまで座り込んでいたカップルが立ち上がって、お互いを向いて、泣き腫らしていた。
仮野は人混み越しから、じっと様子を伺っていた。
「おめえがわりいんだろ!」
男のほうが、ロン毛をかき乱しながら叫んだ。
「たっ君だって、連絡くれなかったじゃん!」
女性の声も鬼気迫っていた。
ひと目も構わず二人で嗚咽している。
「もういいよ―――おめえの顔なんて見たくもねえんだよ。早く行けよ!」
「たっ君の馬鹿!」
女性は号泣して反対の方向に向かって走っていった。
厚底で駆けたため、途中で見事に足首をやって、オープンスペースで、顔面からいった。
赤子のように泣き出した。
見かねたキャリアウーマンが、察して、「大丈夫ですか?」と優しく駆け寄った。
仮野は呆然とその様子を見ていた。
そうなんだ―――と仮野はその時思った。
もう、戻っても、何もないんだ―――
今こそ、俺は、自分を縛るすべてを断ち切って、新しい方向に歩みださねばならないんだ―――。
噴水の中へ、貰った指輪を勢いよく投げ入れた。
見上げた。
鉄の鎧の様な円柱のビルに、秋の青空が抜けるようだった。
通りの向こうに、専門学校の奇抜な看板が見え隠れしていた。
終。
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