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育児漬けの日々は歯医者にいることすら幸せにする

自分の無力さを知りたかったら、この席に座るがよい。

座り心地は悪くない。

頭から足先まで、ふっくらと包み込むリクライニングソファー。いっそヘッドスパでもしてくれまいか。

我が悲惨な現状と未来の展望について、ロマンスグレーの紳士は丁寧に話す。

が、ひとたび私が口を開いたら、全ては勝手に進んでいく。ただただ無力だ。

無力さを噛み締めることすら許されないほどに。



今ごろですが、異化に挑戦して書いてみましたが、これであっているのかな…?

* * *

歯の詰め物がとれてしまい、久々に歯医者に通っている。
歯医者は苦手だ。

友人で、治療中いつも寝てしまうという猛者がいる。すごい。絶対無理。

治療中、何が嫌なのか、ぼんやり考えてみた。

ベロの扱い問題

ウイイイィイイイィイン……と恐ろしい器具が口の中で動いている。

その器具はきっと、先が尖って高速で回転するドリルのようなもの。

ベロが触れたらその瞬間、鮮血がほとばしるだろう。

でも気になる。そこでなにやってるの?

私のベロはあまり私の意識下にいてくれない。
おバカな犬のように、勝手に気になるところに走っていく。あ、おバカな犬もベロをだしてるイメージある。

だが、ベロを切られるのは怖い。舌切り雀の悲劇。
だからなけなしの意志の力で、走り出す犬(ふさふさの大型犬)を必死に押さえ込んでいる。それがずいぶんと疲れる。


何が起きているか分からない問題

私の通っている歯医者は仰向けで口を開けた途端、タオルを顔に被せられる。このおかげで変顔を隠せるけど、どんな治療が行われているか完全に不明。

さっきまで丁寧に説明をしてくれた先生は「たおすよー」と言ったのち、無言。
次に発するのはいつも「はい、口ゆすいでー」だ。全ては藪の中。

いろんな音と振動を出すドリルが口の中を行き来する。
ドリルの先端は、私の脳内ではときんときんの鉛筆の芯みたいなやつ。
それを体感時間としては結構長く(アンパンマンの曲でアンパンマンの友達は愛と勇気だけだと判明するとこまで)ウインウインと歯に当てられ、削られていく。

え、まだ削る?もう貫通してないか?私の歯、残ってる?

ベロでチェックしたいけど、前述のようにそれも叶わない。
せめても脳内に修正をだし、鉛筆の芯から針先に、ドリルの細さを変えてみる。
ああ、それでも歯が消失する…。


けど逆に、早すぎる場合も気になる。

え?もういいの?ちゃんと全部虫歯削った?見逃している黒点はない?
ちっぴりでも残っていたら、またそこからバイキンマン増殖するんじゃないの?


ああ、自分で穴をのぞいて最終確認をしたい。

埋めるのは、それからだ!!

痛み待ち構え問題

最もシンプルな辛さは痛みだ。
キィィンと衝撃が走る尖った痛み、水や薬が染みて頭を抱えたくなる痛み、ぐおんぐおんと鈍い痛み。
歯医者は痛みの博覧会。

しかもそれがいつ来るのかわからない。

待ち構えているほうが痛みが軽減する気がする。
だからいつ痛みがきてもいいように手をつねりつつ、気を張っている。

「来ない?」「来た?」「来るか?」「今度こそ来る!」「さあ来い!」

カ行変格活用のような気持ちで今か今かと痛みを待つ。


これがすっごく疲れる。肩がっちがち。手はつねられて爪の跡。

ちなみに痛みはほぼこない。医学の進歩よ、ありがたやありがたや。

感覚をフル活用問題

視覚を遮られた代わりに、五感のうち他の四感が大活躍し始める。

グギギュウウウウウウンンンとか、ダッダッダッダッガッガとか、キイイィイイイィィィンとか、いろんな音と振動を嫌ってほど感じる。聴覚と触覚。

鼻にツンとくる匂いや、苦味もしっかり味わう。嗅覚、味覚。

ぶおおおっと風のでる器具で口内をカラカラに乾かされるという特殊な経験すらできる。これも触覚?

普段視覚に頼りがちな現代人。
感覚をフル活用することは豊か、みたいなイメージがあったが、否。
どれも味わいたくない感覚ばかり。


地震きたらどうなるの問題

毎回どうしても考えてしまう。

ぐらっと揺れたらどうしたって手元が狂うだろう。歯医者さんだって人間だ。仕方ない。

でも、ギュインギュイン削っていたその時、私の口内はどうなるの?

賢くて気立てのいい素敵なドリルなら、歯以外のものに触ったら自動で回転をやめるのだろうか。
だとしても、尖ったものが口に刺さるのは免れない気がする。

震度4以上の地震がきたらヤバいんじゃないか。いや、3だって突然きたら危ない。

地震のたび、その一帯の歯医者では皆叫び声があがり、報道規制の中、ひっそりと口内を怪我しているんじゃないだろうか。
お詫びに10万もらってその口内を口外しないようにしている、きっと。



* * *

歯の仕組みも、歯医者さんが実際はどんな治療をしているかも私は知らない。多分全然間違ってる。ごめんなさい。

何も知らぬまま適当なことを考えていた。
そして心底うんざりしていた…つもりだった。

が、麻酔の注射が効くまで、口を閉じて待っている時に気づいてしまった。
家にいて、ちび二人の相手をしているより、ぜんぜん楽で幸せじゃないか!?

最近、ちび二人の機嫌をとるのにほとほと疲れてしまった。常にどっちか泣き叫んでいる気がする。もしくは両方。大穴で母も参加し三人の時も。


前回のnoteでぐちぐち書いたので今回は書かない。

ただ言えるのは、独占欲と嫉妬心が強めのキレやすい長男と、常に高みを目指してよじのぼる無鉄砲系次男のコンボは相性最悪。

怪我なく機嫌よく生存させるだけで、持ってかれるエネルギーがすごい。

自分一人に二人の命がかかっている責任の重圧にげっそりする。
そしてこなすべき雑用が延々と増え続けていくことにも。

ところが歯医者にいれば、無力に口を開けているだけでいい!

なんの責任も問われない!なんもしなくていい!

無力万歳!!


というわけで、歯医者さんの嫌なところを書き連ねたけど、歯医者さん好きです、今。

そして幸せの閾値が下がって、歯医者にまで幸せを感じられるようになったことを割と前向きに喜んでます、今。


明日から幼稚園は夏休み。
一ヶ月弱、どうやり過ごせばいいのか、前向きでいられるのか……恐ろしい。

出来るだけnoteを書く時間を確保できたらいいんだけど…。


歯医者通いは続くので、その時間は無力さを楽しみリフレッシュしようと思います。

そして願わくば治療の後、そのままヘッドスパに移行してくれたらいいのにな。

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