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恐れる育児-ピンクモンスター

10ヶ月になる赤子がいる。
女の子。初めての子である。

10ヶ月の赤子というのは、生まれた直後からすればだいぶ人間らしくなった。

まだ立って歩くことはできないが、ハイハイで自由に移動できるし、気がつけばソファによじ登っていて肝を冷やす。

あやせば笑うし、チャイルドシートに乗りたくなくて泣きながら身体をくねくねよじらせている。
意思を持った生命体なのだ。

だが、まだ無性というか、性別を感じない。
保育園に行っていないし、近くに同じ年頃の男児がいないからかもしれないが

少なくとも現時点で、赤子は赤子であって男でも女でもない。
少なくとも親の私からすれば、である。

もちろん生物学的に言えば性別(セックス)は紛れもなく♀である。


話は変わるが、私は昔からピンクが嫌いだ。
嫌いというか苦手だ。

ピンクに限らず、リボンとかハートとか、いわゆる「女の子らしいもの」が全体的に苦手である。

小さい頃からそうだったようで、ヒラヒラの女の子らしい格好をさせたがった母は、
頑なに拒絶する私を今で言うLGBTではないかとかなり長いこと疑っていたと後になって聞いた。

夫を挨拶に連れて行くまで家で恋愛話もしたことがなかったので、私が結婚すると言った時は大分安堵したらしい。

少なくとも私自身は自分の性別に違和感を感じたことはない。
でもなぜテンプレートのような「女の子らしさ」を押し付けられなければならないのだろうという漠然とした疑問があったし

「女の子らしさ」を押し付けられることを拒絶していた気はする。

何故女だからという理由で、ピンクを選ばなきゃならないんだ。
私は青の方が好きなのに。
だったら男の方がいい。

そんな具合だった気がする。

赤子が生まれる前に買った新生児用の肌着はほとんどが白だった。

店頭のラインナップも白が多かったように思う。

新生児用にそれほど明確な性差はなかった。
(生まれてくるまで性別は確定しないという事情もあるかもしれない)

あれは赤子の60サイズの服を買いに赤ちゃん用品店に行った時だったと思う。
60サイズあたりから、明確に洋服に性差が出ていることに私は慄いた。

まだふにゃふにゃのこの生き物を、私は女とも男とも感じていなかったのに
いきなり、さぁ、男ですか!女ですか!と突きつけられたように感じた。

え、え、早くないですか
もうそんなこと決めないといけないんですか

私はテンパりながらも、どうにかシンプルでユニセックスな服を探した。

しかし、女の子ものの服はすでにピンクとリボンとハートに汚染されていた。
胸にデカデカとLOVEと書かれているのだ。
なんでそんなところにリボンが!というところにリボンがついているのだ。
ていうかもう選択の余地がないくらいピンクなのだ。

一方で男の子ものの服は、色合いや柄はよくても、既にシルエットが女の子もののそれとは違っていて、どうしても形が気に入らないのである。

買いに行った店は、いわゆる低価格でお馴染みのチェーン店だったせいもあるだろう。

でもこの驚きの体験は、ジェンダーの根深さをまざまざと目の当たりにしたのだ。

私には年子の妹がいるが、妹はピンクモンスターだった。
なんでもかんでもピンクでないと嫌。
お姫様じゃないと嫌。
可愛くなきゃ嫌!

女の子らしい服装を好み、女の子らしい持ち物に囲まれていないと嫌だという妹のことは、私は全く理解できなかった。

今でこそ頻繁に連絡を取り合うが、何かにつけて性質が異なる妹とは、特に思春期の頃は仲が悪かった。

妹はユニセックスな服を着て、男の子に間違われる赤子を見ては
「女の子らしい格好をさせてあげなくてはかわいそうだ」と言う。

男の子に間違われるのは確かに気分のいいものではないが、女の子らしい格好でなければ可愛そうだというのはどういうことだろう。

私はピンクが嫌だったのだ。
それなのに赤子にピンクを着せては、自分がされて嫌だったことをすることになる。
(というかピンクの服など買いたくない。)

赤子が自分でピンクが着たいのに着せないのはかわいそうだが、今はまだそんな段階ではないのだ。
ならば親が着せたい格好をさせてなにが悪いのだ?


そう思ってふと気がついた。
そうだ。
赤子も実はピンクモンスターかもしれないのだ。

赤子が自分で服を選ぶようになったとき、ピンクじゃなきゃ嫌、お姫様じゃなきゃ嫌、可愛くなきゃいやだ!というピンクモンスターになる可能性は十分ある。

育った環境がほとんど同じにも関わらず私と妹が全く違うように、
私から生まれた赤子が私と同じように、ピンクを嫌うとは限らない。

それは恐怖だ。
現在ほぼ室内がブルーや水色で埋まっている我が家がピンクに染められる日が来るかもしれない。

赤子の望むようにさせてやりたい。
親が強制するようなことはしたくない。

でも私は、ピンクを好むオンナノコを理解できない人種なのだ。
社会的に見ればマイノリティだということを、既にまざまざと見せつけられているじゃないか。

大袈裟だろうか。
私はピンクモンスターに怯えながら、今日も赤子にネイビーの服を着せている。

#育児 #子育て #エッセイ

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