【18歳以上向け?】無限の感覚 第8話

  *

 ――僕たちは妄想の箱ディリュージョン・ボックスの中にいる。

 その箱は僕たちを覆うほどに巨大なのだ。

 これから僕たちがすることは――。

「――セックスしよう、無限っ!」

「――うんっ!」

 ――迷っているヒマはない――。

「――早漏でいくぞっ!」

「――いいよっ! きてっ!」

 ――これは僕たちにとって最後のセックスになるだろう――。

 ――正直、名残惜しかった――。

 ――ホントは、もっとセックスしたかった――。

 ――だけど、僕たちには時間がない――。

 ――正確に言うと「刹那がない」という表現になると思う――。

 ――だから、やるしかない――。

『――感情が流れ込んでくる。これが想い。これが――「無限の感覚」――』

 ――僕たちは夢のような意識に飲み込まれる――。

 ――気持ち、いい――。

 ――その感覚は無限大だ――。

 ――僕たちが腹部に受けた大きな傷は、交わっている間に治った――。

 ――僕たちは、その感覚を共有し、ひとつになろうとしている――。

 ――なるしかないんだ――。

 ――それが彼を攻略する唯一の手段なのだから――。

 ――半人前の僕たちが一人前になる方法――。

 ――セックスだ――。

 ――セックスをすることで僕たちは一人前になれる――。

 ――すごく単純で簡単なことであった――。

 ――僕たちは「あいまい」な妄想の塊である――。

 ――ニンゲンたちが抱いた妄想――神だ――。

 ――僕たちは神に近い存在として生を受けた――。

 ――だからこそ、わかる――。

 ――「あいまい」なモノは箱の中で結合し、ひとつになる――。

『――そう――』

「――僕たちは――」「――わたしたちは――」

『――ふたりでひとつだ――』

 ――この出来事を知っている「語り部の僕」が思うに、それは「あっという間に終わる」刹那のセックスであった――。

  *

 ――十秒後。

 大蛇森幽明の「拳による概念的攻撃」――人知を超えた災害級の攻撃。地球で観測できる災害を超える――で「心の壁」は破壊された。

 だが、もう遅い――。

『――妄想の箱ディリュージョン・ボックス、開錠《かいじょう》っ!』

 巨大化した妄想の箱ディリュージョン・ボックスのフタが開く。

『完成《かんせい》っ! 両性《りょうせい》具有《ぐゆう》形態《けいたい》――「ヘルマプロディートス」っ!』

「『ヘルマプロディートス』だとっ!」

「ヘルマプロディートス」とは、神話世界《ミュートロギア》に存在する神のことだ――美しい少年の姿をしている。

「サルマキス」という、ナーイアス――妖精種族のひとつ――のひとりに強姦された神である。

 やがて、ふたりはひとつに合体し、両性具有神となった。

 要するに僕たちは「ヘルマプロディートス」の名を「借りた」というわけだ。

『これは二千年間、僕たちがセックスをしながら書物とネットで学んだ「妄想の結晶」だっ!』

「バカなっ! そんなことがキミたちにできるわけが……半人前のキミたちがっ!」

『わたしたちは妄想の箱ディリュージョン・ボックスの力で合体し、ひとつの存在となったのです。これで……ちゃんと一人前になれました』

「合体したところで半人前は半人前だっ! この大蛇森幽明の拳による概念的攻撃で再び腹部を貫いてやろう。今度は穴をあけてやるっ!」

「心の壁」が発動したことにより、大蛇森幽明の概念的攻撃は僕たちに通用しない。

「なぜだっ! なぜなのだっ! なぜ概念的攻撃が通らないっ!」

『当たり前だ。僕たちは「概念」となった』

『わたしたちの子供――収穫者《ハーヴェスター》は、「生」と「死」の因子が交わって誕生した概念的存在世界の法則を書き換える存在。つまり、わたしたちが結合すると「概念《ルール》」になるのです。もっと言うなら「概念作成神《ルールメイカー》」』

「だったらっ! この大蛇森幽明だって『概念のひとつ』っ! 通用しないわけがっ!」

 彼は災害級の拳を振るう。しかし、僕たちには無意味だ。

「ええいっ! こうなったら『真の姿』を見せてやるっ! 『ウロボロス』っ!」

 大蛇森幽明は概念神であるウロボロス――大蛇の姿――へ変化した。

 ウロボロスは自身の尻尾を自身の牙で噛みついている円型の大蛇神。

 ニンゲンにとっての象徴的存在だ。

「この、牙ならどうだっ!」

 ウロボロス状態の大蛇森幽明は、尻尾の噛みつきをやめた。

 噛みつく対象を「心の壁」に変えるためだ。

 だが、その判断は間違っている。

『尻尾の噛みつきをやめたな』

「は?」

『もう、オマエは神ではない。ただの大蛇だ』

 その強靭な牙は、概念的存在である象徴的な神による攻撃のため「心の壁」を壊すだろうが、彼は……もう死ぬ。

 ――刹那の先の瞬間、僕たちは「心の剣」を形成した。

 そして彼に剣を向ける。

『終わりだ』

 僕たちは、彼に剣を突き立てた。

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