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二人のクリスマス2

クリスマスまであと2週間。


父さん、聞きたいことがあるんだけどいい?

何だい?

私小さい頃の記憶があんまりないんだけど、どんな子供だったの?

小さかった頃も今も可愛いよ。

そう言うことじゃなくって、例えば小さい頃から父さんを父さんって言ってたの?

違うな。

ひょっとしてパパ?

それも違う。

じゃあなんて?

とうちゃまだよ。

父ちゃま?

朝、父さんが仕事に行こうとするのを見つけるとさ、パタパタパタと走ってきてズボンの膝裏くらいのところを掴んで「父ちゃま、行っちゃヤダ」って泣くんだよ。だから毎回身を切られるような思いで仕事に行ったもんさ。確かなかなか宥められなくて遅刻したこともあったよ。

ちょっと恥ずかしいね。

だけど、こっそり隠れて見つからないように仕事に行った時は全然泣かないんだって母さんが言ってたよ。泣かれるのも困るんだけど、泣かれないのもそれはそれで淋しいんだよね。

うわぁハズ。

もう少し大きくなると、父さんが出掛ける時に泣くことはなくなったけど、今度は「早く帰ってきてね」って言うようになってさ、仕事仲間に「最近付き合い悪いぞ」って言われてたんだけど、父さんは「2人の妻が待ってるから」って言ってよく笑われてたもんさ。

どうもすみません。

でもどうしても早く帰れない時があってさ、夜遅くに帰宅すると「父ちゃまが帰ってこないから起きて待ってる」ってずいぶん遅くまで起きてたのよって母さんに聞かされたよ。

重ね重ねすみません。

今度は父さんから聞きたいこといいかな?

なに?

クリスマスプレゼントはもう買ったか?

まだだよ。

買うモノは決めてるのか?

それもまだ。父さんは買ったの?

決められないで困ってる。

誰かにモノを贈るって経験はあるんでしょ?

それは勿論。

そういう時はどうしてるの?

だいたい仕事の仲間かお店の人に条件だけ伝えて丸投げだな。

父さんは自分でプレゼントを選んだことがないってことね。

そうだな。母さんに指輪を贈った時もお店の人に選んでもらったからな。

じゃあそうすれば?

実はシャンパンを買ったお店のオーナーに聞いてみたんだ。そうしたらお嬢さんのために自分で悩めって言われてさ。困り果てているっていう状態なんだ。

それで私にヒントか、そのモノずばりを教えてほしいってことね。

ご明察。

プレゼントなんてホントに私のことを考えてのことなら飴玉1個でもいいんだよ。

ずいぶん悩んでるのにそれでいいのか?

ホントにそれならちょっと怒るかもしれないけど。

だろ? だからヒントだけでもくれないか。

まだクリスマスまで間があるわよ。もう少し悩んでくれると私は嬉しいな。

ズルいなその言い方は。


君には悪いけど世の中は詩織中心に回ってるんじゃないかと思えるくらいに思い出は詩織ばっかりだよ。

君はもう見られないけど詩織は僕に色んな仕草、色んな表情を見せてくれているよ。
泣いてる顔、笑ってる顔、怒ってる顔、喜んでいる顔、悲しそうな顔、美味しい物を食べている時の顔、寝起きだけどまだ寝足りない時の顔、何かが閃いたのか眼がキラッとしてる時の顔、眠いのを我慢してるんだけど我慢しきれなくて眼をつむっちゃったときの顔。
色んな詩織をこれからもずっと見せてくれると僕はきっと喜び続けられる自信があるよ。
だから僕の視線の先に詩織がいてくれるととっても安心できるし穏やかに過ごせるんだ。逆に姿が見えないとすごく不安になる。
考えれると泣いたりはしないけど小さい時の詩織と同じだね。


やっぱり小さい頃の記憶はあまりないようだよ。記憶があまりないのは、やっぱり君が亡くなった事故によるんだろうな。あまりに突然のことだったから記憶が飛んでしまって、今もそのままなんだろうと思うと少し不憫だよ。でも君と約束した詩織のことを一生面倒見るってことは果たすから心配しなくても大丈夫だよ。

つづく


1作目はこちらからお読みいただけます。 


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