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勝てる駅伝で仲間の想いを裏切った話〜高校生⑧〜

11月。いよいよ県駅伝の日がやってきました。

一年前はレース後に手応えを感じていました。それが1年経つとどうでしょう。本来はその「手応え」が「自信」に変わらなければいけないのですが、スタート前に感じていた感情はそんな強いものではなかったです。

とにかく早くレースを終えたかった。終えて無事に優勝し、ホッとしたかった。そういう感情に近かったと思います。きっと今年は勝てるだろうという思いは自信に裏づけされたものではなく、漠然と感じる不安を打ち消すような、そんな感情だったのかもしれません。今思えばその時点で心が弱気でしたね。

勝てると言われた駅伝。それを信じて練習を続けた1年。色々ありましたが、それも全て今日報われる。きっと、何かが変わる。そう信じていました。

スタート

■勝てると思って勝てなかった駅伝

積極的にレースを引っ張りました。ただただ逃げるだけ。そして、主導権を握ろうと必死に強いふりをしていたと思います。体というよりも心が苦しかったです。

誰もついてこないでほしいと願っていたけれど、背後にはタニグチがピタリとくっついていました。中学時代は無名の選手。気にも留めていなかったけれど、尾山台高校に入学してメキメキと力をつけていたことは知っていました。

後ろにくっつかれるのは嫌だなと思いながらも、ペースを上げて引き離す自信はなく、なんとなくそのままレースをダラダラと進めてしまったという悔いがあります。中途半端な気持ちの迷いがよくなかったんでしょうね。

当時のコースには7〜8km地点にダラダラと続く長い上りがありました。そこをしっかり上れば下りが待っています。呼吸を整えながら相手の様子を見てラスト1kmで振り切るというのが前年のパターンでした。もちろんその年もイメージは全く変わらなかったですし、その通りにレースを進めていたつもりです。

ただ、どんなに残りの距離が少なくなってもタニグチが離れません。自分自身のペースも上がってないのは分かっていたので、だんだん焦ってきました。そんな落ち着かない僕のことに気づいたのかな。タニグチが不意にスッと前に出たと思ったらあとは離される一方で全然追いつけませんでした。

負けた。

一番でタスキを渡すのが僕の仕事でした。できるだけ後続を離してレースを優位に進めることが至上課題でした。ただ、実際はそれとは真逆のレースをしてしまったことに、ただただ呆然とするしかありませんでした。

■負けたことで考えたこと

「足元をすくわれた」

先生にはそう表現されました。どこかで油断があったのかな・・・それは正直わからないけれど、なんだか得体の知れない不安感はありました。勝ちたいという思いは本当に強かったです。そして、その気持ちを自分の中に落とし込むように「勝てる」と暗示をかけていたのかもしれません。

後ろの仲間がたくさん挽回してくれました。でも、追いつくまでには至らなかったです。仲間には感謝してるけど、どこかで自分が決めなきゃと気負っていたのかもしれないし、本当の意味で信頼しあえていなかったんでしょうね。駅伝が好きだと言いながら自分1人でレースをしていました。おこがましいにもほどがあります。。

先生は声を荒げて怒るようなことはしませんでした。

「俺は心配してたよ・・・」

とボソリ。結果論としての言葉かもしれませんが、怖い怖いと思っていた先生が静かにつぶやく言葉は嫌な汗が背中を伝うような感じがして不気味でした。まだ声を荒げて怒られた方がまだマシだな、、、

油断していたつもりはないけれど、勝てなかったことはこれまでの自信を大きく揺るがすには十分なインパクトがありました。嬉しそうに喜ぶ尾山台高校。それをお通夜のような雰囲気で見つめる自分たち。本当に惨めでした。

■不思議な人間関係

敗因はなんだっただろうと振り返っても、正直よくわかりませんでした。1年前の自分と何が変わったかをその時の自分に問うた時に、きっとこれが変わった!こんなことをこの1年で努力してきた!と明確に言えなかったでしょうね。目の色を変えて必死に練習した瞬間が足りなかったんだと思います。「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」ってやつですね。

タニグチは本当に強かったです。中学生の頃は気にもとめていなかった選手でした。ただ、勝ち方を知っているチームに入って1年半相当努力を積んだんでしょうね。本人のポテンシャルもさることながら、その地道な努力なしには結果はついてきません。そこを素直に認められずただただ悔しいとしか思えなかったその当時はまだ未熟でした。

大人になってタニグチと金沢マラソンでばったり再会。15年ぶりでした。もちろんわだかまりとか、悔しいという思いはゼロ。不思議なものですね。ライバルチームとして意識しあった仲だったのに、同じチームメイトだったかのような錯覚すら覚えました。高校を卒業してからも2人とも競技を続けました。お互いに色なことがあって、タニグチは大学の途中で体を壊して競技から離れたようです。

それでも大人になってまた走っている姿は清々しかったです。競技という厳しい世界を通して出来上がった人間関係はきっと特殊なもので、きっと普通に接していただけではわからないような人間関係が出来てくるんでしょうね・・・

これもまた駅伝の魅力の一つかな。。


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