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最新の「人材論」をわかりやすく:お股ニキ『なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか』

 タイトルを見て「確かにその通りだけど、そういやどうしてだ?」と思った。このタイトルには昨今の「パ高セ低」の謎を探る、といった意味合いも込められているように感じ、手に取った。西武ファンかつパリーグ贔屓の自分が、ちょっと自慢に思ってるこの現状の、根拠を確認できる良い本だろうと思った。
 お股ニキの本を読むのは初めてではない。千賀滉大を始めとする球団関係者をも唸らせた『セイバーメトリクスの落とし穴』(通称:「お股本』)は話題となった「スラッター」を含む技術論が多く、興味深く面白いのだが、なかなか頭の中でプレーを再現するのが大変な本であった(なので感想をこのnoteに書いてないのだ…。いずれ再読してちゃんと書きたい)。なので今作はどうかな、という気持ちもちょっとあった。 


 結論から言うと、前作に比べてスイスイ読めたという印象だった。本作の大きな特徴として、「パ高セ低」の勢力図をはじめとする、ここ6.7年の球界の現状を、監督や選手など「人材」をキーに話を進めているのが挙げられるだろう。セパの選手の体型比較や監督の実力を独自の指標から算出する「監督WAR」といった、選手や監督の特徴、あるいはその采配や運用方法など、「人」が切り口(前作は「技術」が切り口だった)であるため、イメージを広げやすい内容だった。
 野球はアメフトのように守備と攻撃を分けてメンバーを組めないので、どうしても選手ごとに「攻撃力」と「守備力」を双方に求められる。しかもパズルのように守備位置に1人ずつ当てはめねばならない。そこでDHとUT(ユーティリティプレーヤー:複数ポジションができる選手)こそ、打順というパズルの選択肢を増やし、年間143試合もするチーム運用の鍵となる、という論は目からウロコだった。しかも岡本和真と外崎修汰といった、2019シーズンに頭角を現した選手を実例の軸に語ってくれているため、ケース・スタディとして解りやすかった。
 現在戦力是正のため、セもDH導入を検討しているようだが、そんな単純な問題でもないことがわかる。この本を読む限りでは、「パ高セ低」は続くのだろう。

 また、この本は近年の様々な新ルールについても検証している(第6章)。思えば野球とはかなりいびつなスポーツだ。スタジアムの形が違うのに始まって、ビデオ判定、コリジョンルール、申告敬遠、球数制限、ワンポイント禁止など、様々なルールが議論され、大会ごとに変わっていった。故に、野球はほかのスポーツ以上に「トレンド」というものを追いかけて、柔軟に変化する必要があると考えられる。
 現在筒香嘉智らを始め、指導者や現場の頭の「硬さ」を憂いている人物が多い。その中で、お股ニキのような、Twitter上の正体不明の素人が、球界に一石を投じるというのはとても希望のある話だ(だからこそ彼の、Twitter上での一部の人を揶揄する表現は残念に思う。少しの差別表現で「俺クラス分析」の評価を曇らせてしまうのは勿体ない)。セイバーメトリクスの元となった同人誌『野球抄』を書いたビル・ジェームズも食品工場の夜間警備員だったことを考えれば、お股ニキという「部外者」が変革の道筋を示すこと可能性だって大いにある。
 2020年代、野球も世の中とともに変化していかねばならない。SNSで自由に世界に向けた発言が可能になった今、旧来の価値観に囚われず、「新しくて正しくて面白い」意見をいち早く取り入れた者が覇権を握るのは間違いないだろう。

#書評 #野球 #新書 #お股ニキ #エッセイ #読書

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