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#64社会に出るということは。

三月はまたたく間に過ぎていきます。もうすぐ四月。新しい生活をスタートさせる人も多いと思います。我が家も息子のドラちゃんが社会人になります。ところがまだ、引っ越しが終わっていません。

二月の半ばに東京の不動産屋で部屋を決めたところまでは順調でした。その頃、部屋にはまだ人が住んでおられ、二月後半に退去予定なので、そこから部屋のクリーニングをし、三月半ばを少しすぎたら入居できるだろうと不動産屋は言っていました。わたしたちもそれについては納得し、諸々の進行状況を待ちながら、引っ越しの日程を調整するつもりでした。

ところが、待てど暮らせどドラちゃんからの連絡がありません。どうしたものか。ドラちゃんに電話を入れると「向こう(不動産屋)から連絡がないんだよ」ドラちゃんもずいぶん疲れています。前の住人がいなくなったら一旦内見できると言われていたにも関わらず、その連絡はなく、その後問い合わせたところ、「もうクリーニングが始まっているので見られません」と返事され、あれよあれよという間に三月半ばになり、大学の寮を退去しなくてはならなくなったドラちゃんは、荷物を一旦寮の倉庫に運び込んで、部屋を貸してもらえる日まで、我が家や友だちの家を渡り歩く日々を送っています。

部屋を決める時、信頼できる不動産屋が見つかってよかったと思っていたのですが、どうやらそうではなかったらしいのです。詳しいことは記しませんが、一言でいえば誠意がない。新しい生活を始める人の部屋探しをサポートしているというよりも、沢山の契約を取り付けることに重きをおいた仕事をされているという印象をうけます。口コミを見てみても、我が家と同じような不満の書き込みが見られました。不動産屋を探す段階で、そこまで念入りに確認すればよかったのですが、年度末のあわただしい中、無事に部屋が見つかるかどうかばかり心配していたので、調べが不足していたなあと反省しています。

テル坊もまじえて家族四人で、マンションの情報など再度収集し、部屋そのものは良い物件そうなので、不動産屋とのお付き合いは契約するまでだし、嫌な思いを引きずらない方がいいだろうと話し合いました。

「これまでの対応や説明不足な部分を感情的にぶつけても、相手は耳を貸してくれないよ。四月から始まる仕事の方に気持ちを向けていくほうが大事だね」

なんとか気持ちを立て直そうと、ドラちゃんに言葉をかけてみたものの、このままでは負の感情がこもったままのスタートになることを懸念し、わたしも再度上京し本契約に立ち会うことにしました。

当日ドラちゃんと待ち合わせ、不動産屋へ。担当の方とこれまでの経緯について振り返りながら、どういう点でやりとりがすれ違い、不信感が生じてきたのかを伝え合いました。直接話をしてみると、相手にも相手の考えがあり、繁忙期である中対応が雑になっていたことも詫びてくれて、こちらもモヤモヤした気持ちのまま部屋を借りたくはないのでとお伝えし、最後は嫌な気持ちを引きずらず、挨拶することができました。わたしのようなおばさんが同行した時どのような対応をとるかで、相手の人柄や仕事のやり方が見えるだろうと考えていましたが、幸い真摯に話をしてくださってホッとしています。

「この先社会に出たら、この程度の嫌なことはいろいろあるものだよね」(わたし)
「そうだね。学生の間は、同じような考え方の人と付き合うことが多いけど、社会に出たらそうはいかないから」(テル坊)

引っ越しで多少痛い体験をしましたが、ある意味よい社会勉強になったと思います。社会に出たら、お互いよく知らない相手と、さまざまな事柄について話をし、交渉したり助け合ったりしていかなくてはならないのです。そんな当たり前の現実を、家族とのつきあいが日々の大半を占めているわたしは、最近忘れかけていたような気がします。

何か大切な判断をする際に、一番大切なことは「自分が心にゆとりを持てているか」を自問自答しておくことだなとも感じました。人の判断は、いつでも揺れているものだとわたし個人は思っています。気持ちが焦っていたり他に心配事があったりすると、通常はしないようなミスを容易におかしてしまいます。そんな時、対人面でトラブルが生じると「相手が悪い」と思いやすいし、攻撃されたことに反撃したくなってしまうのも自然な成り行きです。

自分の判断がぶれやすいのと同様に、だれの判断もぶれやすいものかもしれない。例えば今回の担当者の方も、熱心な仕事ぶりと投げやりな部分とが混在していましたが、ある意味、人間ってそういうものだと思っていれば、これほど動揺せずに済んだのかもしれません。社会人一年生になるドラちゃんもわたしたち家族も、新生活は自分の「ゆとり」を日々確認しながら、スタートさせたいものです。




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