宮本松

【月・水・金に配信予定】身近に起こる出来事を、時には真面目に、時には面白く、エッセイに…

宮本松

【月・水・金に配信予定】身近に起こる出来事を、時には真面目に、時には面白く、エッセイにまとめています。読んでもらえるとうれしいです。娘のミドリー、再婚夫のテル坊、息子のドラちゃんなどの家族が登場します。童話は不定期で配信中。

マガジン

  • ながいお話。

    動物たちも登場する、ちょっと不思議な世界のお話です。長めのストーリーは分けて掲載しています。

  • みじかいお話。

    こどもの頃の体験や空想をもとに、5000字くらいのお話を作りました。短めのストーリーのものを掲載しています。

最近の記事

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#22 白い絵のむずかしさ。

絵と文というのは、まったく異なるジャンルのものだと、数ヶ月前までは思っていました。絵を描く場合、絵筆をうごかしながら、思考にじゃまされずに考えるという、独特のプロセスをたどることができるから。反対に文章を書く場合は、かならず書き手の思考を使わなくてはなりません。自分の常識から自由になりたくても、なりきれない。いつもの論理に足元をひっぱられて、書き進めたいことがらの自由度が下がってしまう、そう思っていたのです。ところがそうでもないのかもしれないと最近は思えるようになってきました

    • マフラーを巻いたうさぎ。(2)

      < 2 > 週末になるのが、こんなに待ち遠く感じられるのは、久しぶりのことだ。もちろん学校が休みであることは、いつでもうれしい。でもそれはワクワクする気持ちとは、ちょっと違う。 (こういう感覚、小さい頃によくあったな) まだ小学校の低学年だった頃、休みの日になると、いつもより一時間以上早く目が覚めて、家の中をうごきまわり、お母さんに叱られた。 「たまの休みくらい、ゆっくり布団で寝かせてよ」 眠たい時のお母さんは、すごく機嫌がわるいのだ。 「はあい」 素直に返事だけはするも

      • #78メガネのフレーム。

        「よくそんなにかっこ悪いメガネのフレームを、探し出せたもんだね」 わたしがメガネをかけている姿を見ると、ミドリーが時々そう言って笑います。 「だって、あんなに沢山フレームが並んでたら、何を選んでいいのか分からなくなるんだもん」 一年半ほど前、5年ほど使っていた老眼鏡の度数が合わなくなってきて、テル坊といっしょに新しいメガネを買い求めたのですが、そのフレームの形が、わたしの顔かたちに合っていないらしいのです。 「母ちゃんが二つも買ってもらったと大喜びするから、どんなメガ

        • #77追い風しかない。

          わたしが今住んでいる地域は、年中風が強くて、春のこの時期も一日の長い時間、ぴゅうぴゅうと音を立てながら風が吹いています。洗濯物が吹きとばされることもあれば、台所の裏のベランダに置いているゴミ箱が倒されていることもあります。 朝起きてカーテンと窓を開け、外の空気を吸い込むのはわたしの日課の一つです。 「今日は一段と風が強いな」 そう感じた日には、テル坊が洗面を済ませ身支度を整えて、朝ごはんを食べ始めたタイミングで、こう語りかけます。 「今朝はけっこうな風が吹いているよ」

        • 固定された記事

        #22 白い絵のむずかしさ。

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        • ながいお話。
          19本
        • みじかいお話。
          12本

        記事

          #76蕁麻疹と共に。

          夕方18時になると、わたしのスマホがオルゴールの音で知らせてくれます。 「やばい、やばい、忘れるところだった」 バッグのポケットから錠剤を取り出して、パクッと口に入れます。これが蕁麻疹の薬です。以前の病院では、口の中で溶かすOD錠をもらっていましたが、今の小さなクリニックには常備されていないので、薬を飲み込むためにお水も飲まなければなりません。 「なんだか痒いぞ。あれ、腕が赤くなっている」 二年前、梅雨もそろそろ終わりに近づいた頃、お風呂から上がるたびに、それまで感じたこと

          #76蕁麻疹と共に。

          マフラーを巻いたうさぎ。(1)

          < 1 > 学校からの帰り道、まい子は小さな身体に不釣り合いな大きな荷物を、肩から斜めがけにして図書館の前を通り過ぎようとしていた。冬をつれてくる風は、日増しに冷たくなってきているというのに、まい子の額にはうっすらと汗がにじんでいる。実際のところ、中学一年生の荷物は見た目以上に重たいのだ。 「もう無理、いったん休憩しよ」 図書館の前には小さな広場がある。大きな木の下のこわれかけたベンチに、まい子は荷物をおろした。それから腕を持ちあげてぐるぐると回してみる。ふう。顔をあげると

          マフラーを巻いたうさぎ。(1)

          #75絵てがみの心。

          「母さん、絵てがみを持ってきて」 実家に戻ると、何もすることがないとボーッとしがちな母に一つの任務を与える。それもわたしの大切なつとめです。50代前半に30年間つづけてきた小学校の先生を退職した母は、日常とは忙しいことだという身に染み付いた感覚をもち続けていました。その頃、家を新築して田舎に引っ越ししたこともあり、毎日のように庭の手入れ、畑の野菜作りをしながらも、平日は毎日、何かしら習い事に通っていました。フラダンスや手芸、山登りの会、それから水墨画などなど。 水墨画は、

          #75絵てがみの心。

          ハルタと桜色の夢。(2)

          <3> 土手をもう少しのぼっていった先に、小さな古い家がありました。ぽつんと立っている家のまわりは、ひときわ強い風がふいていました。付近をとおる者はだれもいません。ガタガタと家のとびらがあき、中からおじいさんが出てきました。腰が少し曲がっていて、片手に杖をついています。ポストにたまった新聞を取り出し、家まで持ちかえろうとしたおじいさんは、地面にうずくまっている小さなアマガエルに気づきました。 「おや、こんな時期にまだいたのか」 おじいさんは、さむさでうごけなくなっているカエ

          ハルタと桜色の夢。(2)

          #74白だしを使いこなす。

          ここ半年くらいのことでしょうか、料理に白だしを活用するようになったのは。新しいものを生活に取り入れるのが苦手なわたしは、ずいぶん昔から白だしの存在を知っていたにも関わらず、手を出そうとはしませんでした。ちょっと高級そうだし、使いこなすのが大変そう。そんなイメージが湧いたという、ただそれだけの理由で敬遠していたのです。そんなわたしの煮物の味付けは、もっぱらほんだしとみりん、酒、醤油、砂糖、それから味の微調整のための麺つゆ。 「大体、こんなものだろう」 料理上手だった母のやり方

          #74白だしを使いこなす。

          #73背の低いタンポポたち。

          桜の見ごろは終わってしまいましたが、春はあちらこちらの家の庭で、色とりどりの花たちが咲きほこっています。チューリップ、ダリア、三色スミレ、水仙、スズラン。わたしがいつも歩く散歩コースには、道端にいろいろな種類の水仙も咲いていて、黄色と白の色合いが少しずつ異なっているので、見飽きることがありません。 同じ黄色の花ですが、もっと身近な存在がタンポポです。子どもの頃、登下校の途中や公園で遊んでいる時に、何度も見かけたタンポポたち。たまにぬきとって家に持ち帰り、小さな花瓶にさしてい

          #73背の低いタンポポたち。

          ハルタと桜色の夢。(1)

          <1> 楽しそうな明るいわらい声で、ハルタは目をさましました。葉っぱの上でうっかりねむっていたようです。ちょうど子どもたちの下校の時間のようで、川ぞいの道を、色とりどりのランドセルをせおった子どもたちが、にぎやかに歩いていきます。 「あぶない、あぶない。あいつらに見つかったらたいへんだ」 ハルタは草むらにかくれながら、川の上流へとむかいました。おなかが空いたので、何かえものをさがそうと思ったのです。お日さまの日差しと秋の風が、ここちよい季節です。このところ雨がふっていないの

          ハルタと桜色の夢。(1)

          #72アリを見ない。

          「うひゃあ、すごい雑草王国だ」 冬の間は息をひそめていた雑草たちが、実家の周りを取り囲んでいます。年によってよく茂る雑草のタイプも変化していくのかもしれませんが、今年はピーピー豆(カラスノエンドウ)の勢いがすさまじく、わたしは空き時間を利用して、ワークマンで購入した作業ズボンと長靴を履き、頭に麦わら帽子をかぶって庭の草取りにいそしみました。 この時期、何がありがたいかと言うと、まだ虫たちの活動が盛んになってはいないことです。顔のまわりをブンブンやられると、こちらのメンタルが

          #72アリを見ない。

          #71つくしとコインランドリー。

          実家の周りは一面に田んぼが広がっていて、天気がよい日にはお日様が昇るのも、沈んでいく姿もくっきりと見ることができます。今はまだ春の田植えが始まっておらず、田んぼのあぜ道に生えている雑草たちの緑色が、目に鮮やかにせまってきます。 朝ご飯を食べ終えて、ビニール袋を手にしたわたしは、童心にかえった気持ちでつくし採りに出発します。つくしとはスギナの胞子茎を指す言葉で、植物の名前ではないのだそうです。シダ植物のトクサ科トクサ属に分類され、漢字では「土筆」と書きます。土に刺さった筆のよ

          #71つくしとコインランドリー。

          #70今年の桜。

          「わあ、もう満開だ〜!」 飛行機で空を飛び、あっという間に九州に帰省したわたしは、電車の中から見える満開の桜に心を奪われてしまいました。この春、関東も急激に気温が上がり、汗ばむ陽気の日もありましたが、ここまでの桜の開花をわたしはまだ目にしていませんでした。 ガタン、ガタン。ガタン、ガタン。 揺れている電車の中から一人だまって桜を見ていると、自然と心が落ち着いていくのを感じます。帰省の前日、実家に電話すると、両親は親戚のご夫婦に連れられて川沿いの桜の名所に出かけ、お花見しなが

          #70今年の桜。

          #69本日のアイスクリーム。

          たまにスーパーのアイスクリーム売り場をのぞいてみると、新商品が続々と登場しています。先日はスーパーカップのレモンチーズ風味というのを見つけてしまい、 (スーパーカップは他のアイスよりもカロリーがうんと高いんだよなあ) と思いつつも、レモンとチーズのコンビネーションの魅力に負けて買ってしまいました(実際に、爽やかで美味しかったです)。「季節限定」や「数量限定」などと書かれていると、つい目が釘づけになってしまいます。 高校生の頃、最寄りの駅ビルにジェラート屋さんがありました

          #69本日のアイスクリーム。

          #68臨場感の元にあるもの。

          「母ちゃん、この春、この映画だけは何がなんでも観にいくよ」 ミドリーが力強くオススメしてきた映画は、SFものの『DUNE砂の惑星PART2』でした。SFか…。わたしは心の中で思います。壮大なドラマが繰り広げられるあの世界に投げ込まれて、果たしてわたしは眠り込まずにいられるのだろうか。SFが嫌いというわけではないのです。ただ設定が複雑すぎる場合には、その異世界に入り込む前に、まぶたが落ちてくるというわけなのです。 どんな映画でも、夕食後のお腹いっぱいな状態では、決してクライマ

          #68臨場感の元にあるもの。