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#54サボテン頭の気分。

今日は二ヶ月ぶりに、美容院に行ってきました。夏から通いはじめた行きつけのお店です。8人ほどいる美容師さんの中で、自己紹介欄に「カットが得意です」と書いていた30台半ばの茶髪の男性に、カットをお願いしています。

わたしは髪質が悪くて、子どもの頃からずっと悩んできた経歴があります。髪を自分でアレンジするのも苦手で、長いこと伸ばしていたのですが、更年期に入った頃から髪のツヤがなくなってきたため、二年ほど前にショートにしました。今ではシャンプーもドライヤーも楽々です。

久しぶりにわたしの頭をみた美容師さんは、
「髪、伸びましたね」(美=美容師さん)
「はい」(わ=わたし)
「今日はどうしましょうか?」(美)
「さっぱりと、お願いします」(わ)
こんなテキトーな注文を、軽く聞き流しながら、美容師さんは、のびきったわたしの髪のあちこちを念入りにチェックしていきます。

「もう少ししたら暖かくなりますし、今回は、前髪をもう少し短くして、それから、ああして、こうして…、…、…という感じで、全体をひしがたに整えていきたいと思います」(美)
「わかりました。それでお願いします」(わ)
説明をよくわかっていないわたしは、全てを美容師さんの腕に委ねます。

その後、二人はシャンプー台に移動し、頭を丁寧に洗ってもらいます。
「はい、椅子がたおれます」(美)
「はい〜」(わ)
わたしが起きているのは、このシャンプー台にいる時まで。それ以降、元の椅子に戻り、カットされる時間のほとんどを眠っています。

目を閉じてじっと座っているわたしの頭のまわりを、シャカシャカ、シャカシャカと小気味好いハサミの音が飛び交います。なぜだか気分は、自分の頭がサボテンになっているかのような、そしてサボテンをせっせと刈り込んでいる赤いカニのイメージが…。

ぴったり一時間を費やして、美容師さんはわたしの頭の毛をきれいに整えてくれます。ありがたいかぎりです。この美容院を見つける前、もう一件、通ったお店がありました。そこは40台後半のベテラン男性美容師さんが、一人できりもりされていました。ご自宅の一階が美容室になっていて、お客さんは一回に一人ずつ、静かな雰囲気の落ち着いたお店でした。とても礼儀正しい方で、カットの前後で二回も洗髪してくださいました。それなのに、なぜだか気に入らないわたしがいました。

「どうして?」

わたし自身しばし悩みました。でも、心は正直なのです。たしかにベテランの方だけあって、カットも上手でした。伸びてきても暫くは気にならないくらい、髪のカタチも長持ちしました。それなのに満足できなかったのは、髪をカットすることへの熱意が感じられなかったからでした。

「このお客さんの頭を、きれいにしてあげたい!」

言葉にならない、そんな気持ちがあるかないかが、お客さんとして頭を差し出しているわたしには、どうしても分かってしまうのでした。ある程度のカットで見切りをつけ、一時間という施術時間をもたせるために二度の洗髪をしてもらうよりも、もっと本気で、お客さんとしてのわたしの頭と向き合って欲しかったのです。

(もしかしたら、その美容師さんには二回洗髪することの意味があり、髪をカットしすぎないことの意味があったのかもしれません。ただそれが、わたしには伝わってこなかったというだけで…。こんな風に思いがすれ違ってしまうことは、日常のあらゆる場面で起きていることでもあると思うのですが)

そつなくこなされた小洒落た髪型よりも、サボテン頭と格闘してくれる今の美容師さんの情熱に、自分の頭を委ねたいと思ったわけです。

そんなわけで、今日はカットが終わってから、はじめて自分から声をかけてみました。

「ありがとうございます。すみません、いつも任せっぱなしで」(わ)
「ははは。大丈夫ですよ。○○さん(わたしの名前)みたいに、希望のイメージのない方には、こちらから新しい髪型を提案していかないと、と思ってますから」(美)
「次回もよろしくお願いします」(わ)
「お手入れは楽だと思いますよ。ドライヤーでさっと乾かすだけでいいですからね」(美)

前には、こんな会話に苦笑したこともあります。
「○○さんの頭は、形がすごくいいんですよ」(美)
「そうですか!」(ちょっと嬉しげな「わ」)
「でもね、難点があってですね。…髪が太い、硬い、多い!」(美)
「は・は・は」(苦笑する「わ」)

こちらの頭の形や髪質について容赦なくコメントしながらも、自分でお手入れしやすいようにと、せっせ、せっせと、カニのように頭を刈り込んでくれる美容師さん、いつもありがとうございます。さっぱりした頭で、わたしはせっせとnoteを書き続けます。




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