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イラン・イスラエル戦争―戦争は終わらせるのが難しい

 イランがイスラエルに向けて弾道ミサイルやドローンを発射した。4月1日のイスラエルによるものと見られるシリア・ダマスカスのイラン大使館攻撃に対する報復として行われたものだ。イランのイスラエルに対する報復攻撃が指摘される中、12日、アメリカのバイデン大統領はイランに対して「やめろdon’t」と警告したが、他方でバイデン大統領はイスラエルによるイラン大使館攻撃を非難することは決してなかった。

讀賣新聞 4月14日より



 岸田首相の訪米で出された日米共同声明ではガザ問題について「我々は、昨年10月7日のハマス等によるテロ攻撃を改めて断固として非難し、国際法に従って自国及び自国民を守るイスラエルの権利を改めて確認する。同時に、我々はガザ地区の危機的な人道状況に深い懸念を表明する。」とガザの人道状況に触れつつも、イスラエルを具体的に非難することはなかった。岸田首相のガザ問題に関する対応は、ハマスの「テロ」は非難するが、それよりもはるかに規模の大きいイスラエルの「テロ」については、イスラエルを名指しして非難することはまったくない。この点については上川外相もまったく同様で、岸田政権の日本には、アメリカと同様にパレスチナ問題で「二重基準」がある。アラブ・イスラム世界から見れば岸田政権の姿勢は「不正義」と見られても仕方ない。

イスラエルも非難しなければ公平ではないだろう https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/783766


 2020年1月にイランは革命防衛隊のソレイマニ司令官が米軍の攻撃によって殺害された時もイラクの米軍基地に攻撃の事前通告を行ってからミサイルを発射した。イランは形の上では多分に国民向けに報復する姿勢を見せたいのだろう。しかし、ガザ攻撃など徹底的に軍事に訴えるイスラエルの姿勢を見れば、イランの攻撃を受けたイスラエルは本気でイランに報復する可能性が高いと思う。

 イスラエルとイランは地理的に離れているので、イスラエルはイラン領内へのミサイル・ドローン攻撃、空爆を行うかもしれない。こうした攻撃形態ではイラン政府中枢に決定的な打撃を加えることができず、紛争は長期化する可能性がある。イスラエルは戦争を優位に進めるために、アメリカを戦争に引きずり込みたいに違いない。半年に及ぶガザ攻撃を行ったイスラエルには戦争のための資源も限られている。

 米軍がイラン戦争に参加したとしても、イランは米軍が戦争でてこずったイラクよりも国土は3.8倍広く、人口もイラクの2倍以上である。(世銀の2017年の統計でイラクは3827万人、イランは8116万人)米英軍はラムズフェルド米国防長官の構想もあって15万人余りの兵力でイラク戦争を始めたが、それがきわめて不十分であったことはイラク戦争後の混乱を見れば明らかだ。

 2003年2月、イラク開戦の直前にエリック・シンセキ陸軍参謀総長(日系人)は上院軍事委員会の公聴会で、旧ユーゴの紛争などの経験からイラクの戦後処理には80万人の米軍兵力が必要だと証言した。この証言によってシンセキ参謀総長はラムズフェルド国防長官によって更迭されてしまったが、シンセキ氏の見通しが正しかったことはISの誕生をもたらすなど戦後イラクの無秩序状態を見れば明らかだった。イランとイラクの面積比と、シンセキ氏の見積もりなどから単純計算で米軍、あるいはイスラエルとの共同のイラン占領には300万人以上の兵力が必要ということになるが、米軍の総兵力は150万人余り、イスラエル軍は17万人ぐらいだ。米軍、あるいはイスラエル軍が多くの犠牲を強いられることは明らかで、アフガン戦争の北部同盟、イラク戦争のクルド人民兵組織のように、地上で米軍やイスラエル軍に協力する武装勢力もない。

 地上兵力を送ることが困難な米軍の対イラン攻撃は空爆やミサイル攻撃に限定されるかもしれないが、しかし戦争になれば、戦場はイランだけにとどまらない。イランは精鋭部隊である革命防衛隊をイラクやシリアに送り、ISなど過激な武装集団との戦闘に従事してきた。米軍がイランを攻撃すれば、イラクやシリアに駐留する米軍や、これらの国のアメリカ関連施設やアメリカ人が攻撃を受ける可能性は否定できない。また、シリアでアサド政権を支えるためにイランとともに戦ってきたレバノンのヒズボラ(神の党)の武装部門も米軍やイスラエルに対して攻撃をしかける可能性がある。ヒズボラは、イスラエル北部にロケット弾を撃ち込んだり、イスラエル兵を拉致したりイスラエルの安全保障にとって重大な懸念要因となってきた。

 映画「日本のいちばん長い日」の原作者である歴史家の半藤一利氏は、日本の降伏に激しく反発した軍人たちの動きを形容して「戦争は始めるのは簡単だけど、終わりにするのは大変。この一言に尽きます。」と語っている。日本の軍部は真珠湾攻撃を契機にする日本と連合国との戦争についてその終わらせ方について明確なプランをもっていなかったことが日本に壊滅的敗北をもたらした。アメリカも20年間アフガニスタンで戦って結局タリバン政権の復活をもたらした。

映画「日本のいちばん長い日」(1967年)


 いずれにせよ、イランとイスラエルの戦争が始まれば、日本をはじめ国際社会はその否定的影響を被ることになる。イランと長年の良好な関係を築いてきた日本には調停の役割を果たせる可能性があるが、優柔不断な、対米追随しか頭にないような岸田首相はやらないことだろう。


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