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深海生物テヅルモヅルの謎を追え!

 テヅルモヅルという不思議な生き物の研究者による自伝的ノンフィクション。
「珍しい生き物好きのすべての人へ」という帯に惹かれて読みはじめたが、最後は珍しい生き物とは別のところで感動した。これは人生の書だ。
 これといった理由もなく入った大学で、友達を作り、バイトやサークル活動に明け暮れ、定期試験を低空飛行で乗り切りながら、就職活動をする。学生生活をそんなモラトリアム期間ととらえていた著者は、大学2年進学時のガイダンスで分類学と出会って、頭をハンマーでたたかれたような衝撃を受ける。
 とっくの昔に置きざりにしてきた珍しい生き物が見たいという夢。それが研究でできる。そんな人生があったなんて!
 そこから武者修行がはじまった。こつこつと文献を集め、標本を調査する日々。空振りに終わったサンプリング航海に泣き、何度書き直しても通らない論文にいらだつ。長く孤独な作業が続き、何の成果も出ない悔しさや、将来への不安に襲われる。それでも研究の喜びが著者をとらえて離さない。ここには、決して派手でも破天荒でもないけれど地道に自分の人生を歩む研究者の姿が描かれている。
 読みすすむにつれ、著者の考える分類学の面白さも伝わってきた。
 分類するといっても一筋縄ではいかない。どの部分のどんな違いで分けるのか。突き詰めると客観性とは何かという問題にまでいきついてしまう壮大な学問なのだ。
 やがて著者は、突如頭の中の霧が晴れたかのように「分類」ができるようになっている自分に気づく。そうしてついに、既存の分類体系を塗り替える大きな発見へとたどりつくのだ。 
 人生のモチベーションがあがらずに悩む若者に読んでほしい胸熱な一冊。

「深海生物テヅルモヅルの謎を追え!」岡西政典(東海大学出版部)

産経新聞2016.11.5

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