現代語訳『伽婢子』 伊勢兵庫仙境に到る(4)

 庭では見慣れない草木の花が咲き乱れ、まるで二、三月のようである。孔雀《くじゃく》や鸚鵡《おうむ》などの他に、珍しい鳴き声の名も知らぬ鳥が数多くおり、木々の梢《こずえ》や草花の間で囀《さえず》っている。十五間《けん》の厩《うまや》に立ち並んでいる馬の色は碧《へき》や紺青《こんじょう》だが、中には白や黒の連銭《れんぜん》葦毛《あしげ》の名馬もおり、いずれも四尺五寸《き》、六寸もの体躯《たいく》で、いわゆる竜馬《りゅうめ》の類《たぐい》である。飼い葉は茅《ちがや》に似た白い花で、他の草は使っていないらしい。また、碧瑠璃《へきるり》の色を欺くような棗《なつめ》、秦珊瑚《しんさんご》のように光る栗《くり》が枝の間にぎっしりと実っており、実の大きさはどれも大きな梨《なし》ほどもある。
 垣根の外を見ると、金の闕《けつ》(門)、銀の台《うてな》(高殿)、宝玉や紫雲《しうん》の楼閣《ろうかく》が立ち並んでおり、鳳《ほう》の甍《いらか》や虹の梁《うつばり》が雲を突き抜けている。空には音楽が響き、この世のものとは思えないかぐわしい香りが庭に満ちている。山際まで行ってみると、峰から落ちる滝壺《たきつぼ》に湛《たた》えられた水は緑色で、流れ出た川瀬の近くに二町《ちょう》四方もあろうかと思われる池がある。その水は非常に重く、金や銀であっても沈むことはなく、石を投げても水面に浮き上がる。このため、国人たちは鉄で造った船に乗って心を慰めている。水底《みなそこ》の砂はすべて金色で、古歌で「井出《いで》の山吹が水に映り、やがて金の花が咲いた」と詠《うた》われたことを思い出した。水中には赤金《あかきん》色の魚がいて、すべて四本の足が生えている。
(続く)

 今回は、屋敷の庭の様子が描かれていました。今で言うファンタジーや異世界を、昔の人が描写するとこういう記述になるのだと思いながら読むと面白いかと思います。

 続きは次回にお届けします。それではまた。


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