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『顔自動販売機』

「ユキちゃんは愛嬌があって良いよね。いっつも笑顔だし、ウィンクも連発するし……。クラスの男の子、みーんなユキちゃんのことが好きだと思うよ?」
「モテたいんならヒナちゃんも笑えば良いじゃないの」
「無理だよ! 私の家、ユキちゃんみたいにお金持ちじゃないもん」

人に好かれるためには、かわいいお洋服を買わなければならない。新しいコスメを買わなければならない。そして何より、好ましい表情を買わねばならない。表情のストックを切らしてしまうと、たちまち好感を得ることは難しくなる。

「愛想笑い1分80円、微笑み1分150円、ウィンク1回1000円──やっぱり質が良い表情ほど高いなぁ。金欠だし、やっぱり今日は我慢しよう」

顔自動販売機で笑顔を買わなかったせいで、今の私は無表情を作ることしかできない。だから今日は友達とも遊びにいけない。
悲しいけれど、お金が無ければそれを表現することもできない―世知辛いが、それが貨幣経済というものだ。

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