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[月記]23年10月 相補

物理学において、光は電磁波──つまり「波」であり、同時に光子──つまり「粒」でもある。対象が小さければ小さいほど、それらの境界は曖昧になっていく。我々が光について深く知ろうとするとき、波動性という観点と粒子性という観点の両方からアプローチしなければその本質を掴むことはできない。古典力学と量子力学が排他的に対象を記述することで系の完全な記述が得られ、これらの関係は相補性と呼ばれる。

同様に。我々が芸術について深く知ろうとするとき、その端緒として自分の中の芸術を作品という形で表現しようとするとき、そのアプローチは単一的でない方が好ましい。人間一人ができることは限られている。私は文章を書くことしかできないからこそ、これまでもこれからも書くこと・藻掻くことを続けていくつもりだが、それだけが表現の手法の全てではないことに気が付き始めている (冷静に考えればこれは当たり前の話なのだが、内向的な自分はこのことになかなか気が付けなかった)。

同人サークル【文売班 白黒斑 / Boolean Monochrome】を22年1月に結成してから、もうすぐ2年になる。私が文章を担当、彩田がイラストを担当するという分業制を取っていて、これはとても相補的な関係だと言える。今のところはかなり上手く回っていて、これまでに3冊の本を出したのと、現時点で5冊の本を並行して作成中である。お互いが自分の分野で全力を尽くすから、文章と絵が組み合わさると、それらが単体であった場合よりも完成度がぐっと高くなる。

このような相乗効果の強力さを肌感覚で実感した結果、新しい同人サークルを別のイラストレーターと立ち上げることにした。もちろん、彩田とは変わらず【文売班 白黒斑】を続けていくつもりで、それとは別に【文売班 白黒斑】ではどうしても作れないものについての可能性をそのサークルで探っていきたいと思っている。

サークルの名称と相棒は既に決まっていて、23年10月から少しずつ活動を開始している。本という形で作品を発表するのはまだ先になるかもしれないが、小さな努力とアイデアを粘り強く積み上げていって、絶対に良いものを作りたい──私の心はそんな気持ちに溢れていて、最近はもう、ずっと楽しい。