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極寒の仙台で生牡蠣に目覚めた私。

大学生活最後の夜。
私はいま、国道沿いのガストにいる。

終わりゆくモラトリアムに想いを馳せている・・・ような時間はなかった。来週に締め切りが迫った文芸作品のコンテストに作品を出品するために、私はわき目もふらずに猛チャージをかけている。3月31日は数多くの文学賞が締め切りを迎える。たぶん私と同じように、追い込みをかける人がたくさんいるはずだ。閉店まで残り30分。どこまで書けるかわからないが、とりあえずゴリゴリ書き進めていく。

気合いを入れるために何か美味しいものを食べようと、私は手元のタブレット端末を操作した。定食か何かを食べようと和食のページを見ていた時に、ふとカキフライがあるのに目が留まった。カキフライ。最近この歳になって、カキフライという五文字に弱くなった。

実家に居た頃、牡蠣にはあまりいいイメージが無かった。その頃は祖父がどこかから貰ってきた大量の牡蠣を鍋一杯に蒸して、それを家族みんながパクパク食べていた。私も一度だけそれを食べたことがあるのだが、なんせ実が小さい。おまけに磯臭さも半端ないので、子供だった私にはその美味しさがあまり理解できていなかった。


そして時は流れ、去年の12月。
私はOfficial髭男dismを追っかけ宮城に上陸した。

人生初の東北地方上陸で浮き立つ私には、ある密かな目標があった。それは、「新鮮な牡蠣が食べたい」というものだった。三陸沿岸に海産物数あれど、海鮮丼とかそういうものではなくせっかくだったら自分の金で最高にいいものを食べたい。さらに、朝ドラ「おかえりモネ」にハマっていた私は、主人公の実家が牡蠣の養殖業を生業としていたことから、「とにかく仙台で牡蠣を喰らいたい」と強く強く思っていた。

ところが、ライブ会場は極寒地獄。山のど真ん中にあるアリーナなので、周囲には雪と森しかない。そして野外は当然吹き晒し。入場前と退場後の疲れた体はすっかり冷え切っていた。おまけにコロナの影響で飲食店は時短営業ばかり。ひーひー言いながら仙台駅まで帰ってきたと思ったら今度は夕食難民になり、散々な目に遭いながらようやく一軒のオイスターバーに辿りついたのだった。

冷えた体にはできるだけ暖かいものを与えてやりたかったが、すこしだけ鞭をうって冷たい生ガキを頼んだ。奮発して8ピース。目の前に運ばれてきたのは、びっくりするほど身がプリプリで、ボディの白さが映える、最高に大ぶりな牡蠣たちだった。酒を呑むのもそこそこに、私は大急ぎで牡蠣の殻をひとつ手に取り、ツルン!と身を吸い込んだ。

その時の感動たるやもう・・・。目玉が零れ落ちそうなほどうまい、とはあの瞬間のことを言うのかもしれない。大ぶりな牡蠣の身を口の中で噛むと、じわっと磯のエキスが舌に無限に広がっていく。思わずお酒が欲しくなる。レモン果汁と合わせようものなら、手が止まらなくなる。その時に初めて知ったのだが、牡蠣にタバスコをかけて食べることもあるようで、それも一度試してみたらまたそれも美味しいこと美味しいこと。

極寒の12月に寒さすら忘れて、私は牡蠣を片手にビールと白ワインをがぶがぶ飲んだ。そして、時間の許す限り生牡蠣に舌つづみを打った。

これまで私は数多くの食エッセイを読んできた。数々の食通たちは、みな決まって牡蠣が好きだった。牡蠣で当たることも恐れず、毎年勇敢にも大量の牡蠣を摂取しているオイスターフリークのみなさま。今なら、私もその気持ちがわかります。

よし、今夜はカキフライ定食だっ。



おしまい。



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