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あの日、「普通の道」に進む決断をしたあなたへ

中学3年、15歳の私へ。
細々と、でもそれなりに続けてきて、大好きだったダンスを辞める決断をした私へ。

物心がついたときから、踊ることは、当たり前にあなたのそばにありました。
モーニング娘。のMVや歌番組を見ながら、あるいはそれ以外の色々な振り付けを真似して踊って、歌って。それを仕事にしようとか、アイドルになりたいとか、そういう気持ちがあったかどうかはもう今の私にはわからないけれど、どんな形にせよあなたは踊ることが好きでした。

小学校に上がってから、地元のよさこいチームに参加するようになりましたね。踊るのはずっと楽しくて、周りの大人達や友達からも「上手だね」と言われて、自分も、他の誰も不幸にならない素敵な習い事。
そうして、小学校高学年の頃。田舎町にたまたまやってきたダンススクールのチラシを母が見つけてきてくれて、その体験レッスンでいわゆる「ダンス」(ヒップホップ)と出会ったんだった。周りの子のレベルの高さや、見ている景色の違いにカルチャーショックを受けたけど、それでも踊ることが楽しかったから、すぐに入会させてもらって、そこから週2回(多いときは3回)のダンスとの生活が始まりました。

周りと比べてどんな熱量で取り組めていたかはともかく、自分なりにあなたは一生懸命過ごしていたと思います。大きなステージに立たせてもらったり、地元のチームではリーダーとしてメンバーに踊りを教えたり。だんだん人見知りが激しくなっていくあなたには友達は多くなかったけど、それでも授業でダンスがあったりすると、みんなが「すごいね」って声をかけてくれて、それをきっかけに親睦が深まった人もいた。踊ることは、あなたにとって世界を広げてくれるものだったんだよね。

でも、同時に、楽しい時間の終わりを感じ始めていましたね。

習い事というのは、大概年齢が上がりクラスが上がると、お金もかかるようになる。そして、受験に向けてだんだんと勉強も忙しくなる。家計への影響と、私自身の将来のことと、いろんなことを考えたら、「やめなきゃいけないかな」と思い始めてきましたね。
同時期に、地元のチームもだんだんと人が減り、もう数年で終わってしまうかも、なんて雰囲気が漂ってもいました。

何より、最初に感じた「カルチャーショック」。もしかしたら、あなたはこのときから、「自分にこの道を進み続けることは無理だ」と、どこかで思っていたのかもしれないね。キラキラした人たちのなかで、勉強を疎かにするくらいダンスに夢中な人たちのなかで、当たり前に自分を着飾って自信を持って歩ける人たちの中で、そんななかで自分がしゃんとして生きていけるって、思えなかった。

そうして、最後に大きなステージに一つ立たせてもらって、その日でダンススクールをやめました。
地元のチームが活動を休止するのはまた数年後の話ではあるけれど、あなたにとっての、ひとつの大きな終わりはこのときでしたね。

あのとき、ダンスを続けられるようなキラキラした特別な道から、自分にとって普通の道を進もうと決めたあなたへ、その後の自分がどうなったかを伝えたいと思います。

まあ、色々あるんですけど。
色々あるんだけど……結局、やめられなくて、また自分にできる形で、ダンスに関わるようになるよ。
あなたが選んだ普通の生活をしているけれど、そうしながら、今更だけど、踊ってみたの活動を始めています。
とはいえ自信は持てないままだけど。それでも、おしゃれをしたり、化粧をしたり、そういうことをやってもいいんだってちゃんと思えるようになるよ。

あなたが「自分には無理だ」と思った世界は、同時に「ああなれたらいいのに」と思った世界だったんだよね。
色々あって、今も自分には無理だって気持ちは消えないけれど、自分の心地がいいくらいの程度で、そこに近づくやり方もあるのかも、って、今更そんな事に気が付きました。もっとはやく、気がつけたらよかったんだけど。

でも、だからといって、あなたが選択した道が間違いだったとか、そういうことじゃない。
おかげで、歌でステージに立つこともできたし、素敵な大学で哲学の勉強もできたし、仕事はちょっと大変だけど別の道に進んだら経験できなかったことを出来ている。

そんでもって、今のわたしがやろうとしているのは、今の道と、あの頃憧れていた道を両方味わおうなんて強欲なこと。そんなことをしているのは、あの頃のあなたの諦めた気持ちを、なんとか救えたらいいなと思うからです。過去がなかったら、今の自分はないんだよね。そんな当たり前なことを思う日々です。あの日の決断に恥じないように、頑張ろうと思います。

あ、最後に。あなたの思う道は、「普通」に見えているだけで、別に「普通」じゃない。そもそも、「普通」なんて概念ほど脆いものはないよ。そんなものに縛られすぎず、もっと伸び伸び呼吸ができるようになれたらいいのにね。あなたも、私も。

2021年、普通の大人になった私より

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「手紙部」様の企画に参加させていただきました。
今の私を作った、どこかの私へ。私は後悔しがち、自分の過去の選択をないがしろにしがちなよろしくないたちがあるので、ちゃんと肯定してあげたいなと思って書きました。
過去を背負って、過去の自分に認められる自分になっていきたいね。

#エッセイ #手紙 #手紙部 #自分と向き合う

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